コロナ禍で中止や延期されていたこともあり、レッドカーペットイベントの復活はビッグニュースとして取り上げられています。私(『ESQUIRE』オランダ版のファッションエディター、ピム・シュポア)のインスタグラムのフィードも例外ではなく、次から次へと現れる個性的なドレスと、それに付随するファッションエディターやブロガーの分析でいっぱいになりました。

2021年9月は、VMA、エミー賞、ヴェネツィア映画祭などの通常予定されているアワードショーのほか、延期されていたMETガラもあり、レッドカーペット祭りとなりました。7月には、カンヌ映画祭も行われていました。ファッション好きの私は、すべてのルックをチェックしていますが、自然と男性ゲストの装いに注目してしまいます。ですが、近年レッドカーペットに参加しているメンズセレブに、ガッカリさせられることも少なくありません…。

特に、クラシックな黒のディナージャケットを着ている男性たちです。

女性ゲストが色とりどりのドレスや着こなしの難しいドレスを着用して盛り上げているのに対し、男性はシンプルなブラックタイのルックで簡単に済ませているように感じられるのです。ダイバーシティな考えが定着してきた昨今では、それではもう通用しないということなのかもしれません。私としては、Lil Nas X(リル・ナズ・X)ほど大胆に着飾ってまで、METガラに登場する必要はないと思っています。でも、「もう少しファンタジーがあってもいいのではないか?」と思うのです。

new york, new york   september 13 lil nas x attends the 2021 met gala celebrating in america a lexicon of fashion at metropolitan museum of art on september 13, 2021 in new york city photo by arturo holmesmg21getty images
Arturo Holmes/MG21//Getty Images
2021年METガラで注目を浴びたLil Nas X(リル・ナズ・X)の衣装

「きれいにカッティングされた、伝統的な黒のディナージャケットのどこが悪いのか?」と訊かれれば、何も悪いことはありません。それに、ドレスコードとしてのブラックタイに個人的な嫌悪感などありません。アイロンをかけたばかりのシャツに、ボウタイをつけて素敵なディナージャケットを着ると、身だしなみは実に整っているように見えます。それに、素敵なテーラードスーツから醸し出される彼らの自信も具(つぶさ)に感じることができます。

ですが、そこにはドレスコードに則り過ぎた優等生のスタイル…面白味のない、挑戦のないスタイルに見え、物足りなさが頭によぎるのです。言わばオーダーメイドのユニフォームのように感じられます。

コロナ禍で、晴れて開催となった2021年は特に、「スーツの中に宿るそれぞれの“個性”が見たい、いつもより輝きを放つ“個性”が」と、私が勝手に期待していただけのことかもしれません。個性的な色、意外な組み合わせ、ユニークなシルエット衣装で着飾ったセレブたちに、今まで見る機会のなかった彼らの個性がより以上に浮き彫りになってほしいと願っていたわけです。

例えば冒頭の、2021年のMETガラに登場したエイドリアン・ブロディはディオールのメンズコレクションから、ブラックウールのピークドラペルタキシードとクラシックなホワイトコットンシャツ、ブラックシルクのボウタイとブラックのパテントレザーダービーを合わせて登場しました。着飾る女性たちに敬意を払った、まぎれもなく素敵なスタイリングです。ですが私としては…黒のタキシードを着たゲストに対しては、「スーツの着こなし」「靴とディナージャケットの相性」「ネクタイの色を変えたほうがいいのではないか?」などのコメントしかできません…。要するに勝手ながら、少々退屈なわけです。

この思考は、「ソーシャルメディアが横行している時代だから」とも言えます。私たちは有名人やインフルエンサー、ブランドなどによる多くのコンテンツにさらされているため、自分自身に影響を与えるような刺激的な画像を求めているのです。そしてそれは、衣類のことも同様なのです。さらに今回は特に…。

ですが幸いなことに、老若男女を問わず、新たなタレントたちがそれをかなえてくれています…。ビリー・ポーター、ティモシー・シャラメ、ダニエル・レヴィなどがその好例と言えるでしょう。彼ら(と彼らのスタイリスト)は、例えばタキシードのジャケットのようなクラシックな要素と、モダンなシルエットを融合して、お洒落でオリジナリティのあるものにしていました。

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Dan MacMedan//Getty Images
2019年アカデミー賞でのビリー・ポーター。

2019年で言えば、アカデミー賞授賞式でのレッドカーペットで、ビリー・ポーターは「クリスチャン・シリアーノ」のディナージャケットを着用し、ウエストからフレアになったドレスのようなジャケットをまとって登場しました。2021年のMETガラでは、ティモシー・シャラメが着こなす「ハイダー アッカーマン」の丈の短いジャケットや色使いに好評価が集まりました。また同会場でダニエル・レヴィは、「ロエベ」や「ザ・ロウ」といったコンセプチュアルなファッションブランドと組んで、芸術的な衣装を制作しました。

2021年metガラのティモシー・シャラメ。
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2021年METガラのティモシー・シャラメ。
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Taylor Hill//Getty Images
2021年METガラのダニエル・レヴィ

誤解しないでいただきたいのですが、私はブラックスーツが嫌いなわけではありません。

ジャスティン・ビーバーが今回のMETガラで着用した黒のオーバーサイズのスーツは、私にとっては大当たりでしたし、トム・ブラウンがイベントのために制作したすべてのルックも、同様に素晴らしいものでした。これらのルックには、クラシックなブラックスーツにはない、ちょっとした創造性がありました。もちろん再度言いますが、冒頭の「ディオール」を着こなしたエイドリアン・ブロディも素敵です。

2021年metガラのジャスティン・ビーバー。
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2021年METガラのジャスティン・ビーバー。

私がここでお伝えしたいことは、「男性の正統なドレスコードがとても時代遅れで、ある種、拘束具(こうそくぐ)のように見えてきた」という時代の雰囲気のことです。女性のドレスにトレンドがあり、テーマもあるように、「男性のファッションだって自由であるべきだ」ということを再度考え直す必要があるのでは? ということです。

国際的に報道されるイベントで、黒のディナージャケットを選ぶのは実に安全な選択です。その生き方も素敵なことだと思っています。ですが、既存の“社会的な男らしさ”の認識をそれほど重く受け止めていない男性も、現状どんどん増えていることを皆さんに知ってほしいと考えているだけなのです。服の選択の自由度は、ジェンダーを超えて高かまっていることを忘れてはいけないでしょう。

もちろん「エスクァイア」は、クラシックなスタイルを大切にしています。ですが、それを弁えた上で、時代性を表現したチャレンジも重要だと思っています。クラシック=トラディショナルとは、時代ごとに新たな挑戦がなされ、その結果として世が認めて生き残ってきたものの集合体なのですから。つまり、挑戦なくしてトラディショナルの進化はないのです。そこでセレブの皆さんこそ、先頭に立ってリスクを恐れずチャレンジするお手本になってほしいのです。時代の息吹が吹き込まれたクラシックこそ、われわれの好物というわけです。

Source / ESQUIRE NL

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