60~70年代にヒッピーブームと共に流行した、「フレアパンツ」。このブームの復活は避けられないどころか、すでに始まっています。当時のスタイルを振り返ってもわかるように、これは多くの人にとって歓迎されるブームではないかもしれません。そして、この件に対して複雑な感情を持っている人も確実にいるでしょう。その一方で、これに対し純粋にワクワクしている人も少数ながらいるはずです…。

ここでひとつお伝えしておきたいことは、後者のグループのほうが「正解!」ということです。フレアパンツの復活は悪いことではなく、むしろ、良いことと言えるかもしれません。

例えば、「Y2K(Year 2000の短縮形=2000年代)ファッション」を覚えているでしょうか? 太ももにフィットし、必要以上に大きく広がったブーツカットのジーンズの裾が(1986年に設立、スケートシューズブランドとしては長い歴史を持つ)「Etnies(エトニーズ)」のスニーカーに被っていたような、あのスタイルです。TikTokで紹介されているのより、ずっとひどい代物でした。

しかし、めまいがするほどたくさんついたポケットや恐ろしいほどのローライズ、そして「何かの間違いでは?」と思えるウォッシュ加工されたものなど、私たちが何年も前にはいていたそれらのパンツには味わい深い魅力がありました。

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Bettmann//Getty Images

かつて、ファッションのアドバイザーたちが「絶妙なフレアは体型に関わらず、脚を長く見せる視覚効果がある」と言っているのを覚えていませんか? その説は正しかったのです。

昔のフレアは、フットウェア選びが難しいものでした。ですが現在のフレアは、スリムでスキニーなパンツよりもブーツとの相性ははるかにいいのです。ですが、これはあくまでも実用的で機能的な考慮事項に他なりません。実は現在、フレアが再び脚光を浴びている本当の理由は、感情的なところにあるのです。

ここ数年、私たちは何でもありの自由気ままなパンツブームに沸いています。それはまさに、今に至るまでの時代がスキニーというひとつのフィットに支配されていたからです。誰もがこぞって(紙巻きタバコのようにストレートなシルエットで、クリースのない9分丈ほどの)シガレットパンツと控えめなスニーカーをはいて街を歩きまわっていたため、エディ・スリマンが「Dior(ディオール)」のデザイナー時代にこのシルエットを提案したときほど、革命的に見えなくなったのです。そうして次第に、その新鮮味が失われてきたというわけです。私たちは、ふくらはぎを締め付けられる苦痛にただひたすら耐えていたのです。その我慢も限界に達した人は増えてきているのでしょう。

the big event  dick clark's good old days part ii
NBC//Getty Images

そしてようやく、振り子が動き始めたのです。いつかは動き始めるものですが、今回はそれも一方向ではなく、100万通りもの方向へと揺れ動いているように思えるのです。クロップドにテーパード、ロングにルーズ、トラッドやダッドジーンズのストレート、ファッションファンのためのドロップクロッチなど、あらゆるものが登場しました。現在もあらゆるスタイルがテーブルに並べられている中、選択肢に入ってこなかったのがフレアなのです。

フレアは多くの人にとって、禁じられたパンツスタイルであり続けました。前回の流行の後で、私たちが尻込みするのも無理はありません。ですが、ワイドなペインターパンツから大胆なオーバーサイズのウールパンツまで受け入れたのに、それに比べれば、かなり控えめなこのシルエットを仲間外れにするのはどうなのでしょうか? 世界中のデザイナーやブランドも、最近はそう思っているようです。

そしてここ数年、フレアが再びラインナップに加わり始めたのです。「Acne Studios」や「グッチ」などのファッションブランドは、何シーズンも前からスーツに合わせたテーラードバージョンを発表しています。「ルイ・ヴィトン」や「ディオール」でも、同じようなカタチが見られます。リーバイスでも最近『527』などの定番に加えて、70年代フレアの『So Highブーツカット』のようなスタイルにも力を入れています。

そして「アバクロンビー」や「ラングラー」のようなブランドは、カウボーイカットデニムと(本当に素晴らしい)ランチャー「ドレスジーンズ」を常にラインナップに加えていました。彼らは、ブーツカット製品から離れることはなかったのです。

トラックパンツのようなスポーツテイストのアイテムにも、「カサブランカ」や「ウェールズ・ボナー」のようなデザイナーズレーベルからフレアタイプのものが登場するようになりました。これはいやが応でも、すでに進行していいる流れというわけです。

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では、なぜ今なのでしょうか?

ひとつには、現在のメンズウェアにおいて70年代カルチャーからの影響は無視できないことが挙げられます。ファンキーな柄、淡い色合い、ゆったりとしたシャツ…これらはまだまだ人気が高く、フレアパンツはまさにその潮流の真っ只中の存在と言えるのです。

しかし結局のところ、これはファッションの自然な流れとも言えるのです。あるスタイルが流行り、あらゆる場所で見られるようになるとします。すると市場の競争は激化する中、ブランドやインスタグラマーたちが自分だけに注目を集めようとすればするほど、スタイルのカタチに変化が加えられ、さらにひねりも加えられ、誇張されたバージョンへと変異していくものです。例として言うなら、ダッドシューズのトレンドから生まれた怪物的なフランケンシュタインのスニーカーです…。

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そして長い時間が経過し、何か別のもの…例えばスキニージーンズがやって来て、同じようなライフサイクルを繰り返します。過去を振り返り、私たちが最終的に拒絶したのは、倒錯されたバージョンだったのかもしれないと気づくのです。そして、どうすればもっと繊細なフレアパンツができるかを考えるようになります。そしてアーリーアダプターと呼ばれるスタイリッシュな人たちが、ワードローブに再び取り入れ始めると…。みんな「あれ、これって結構いいな」と気づき、突然フレアパンツを何本かローテーションに取り入れるようになるというわけです。

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繰り返しになりますが、これは歓迎すべきニュースではないかもしれません。しかし、今急成長しているフレアを過去のスタイルと比較したときの大きな利点を、「ひとつのスタイルに支配されない」ということだと理解したら、その打撃が和らぐのではないでしょうか。

フレアでもバギーでもスリムフィットでも、好きなものを好きなだけ着ればいいのです。ですが、フレアが再び話題となり、おそらくあなたのワードローブにも戻ってくることになるのは紛れもない事実です。これは必然的な結果だったのです。

Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。