竜巻を発生させる恐れのあるような脅威的な雷雨が起きると、ほとんどの住人は避難所に逃げ込みます。しかし、全米から集まった竜巻科学者のチームは、その嵐に向かって急いで行動を開始します。映画『ツイスター』(1996年)や『イントゥ・ザ・ストーム』(2014年)のように…。

オハイオ州立大学気象学の准教授ジャナ・ハウザーは、高解像度のスキャンデータを数秒で収集できるRapid Xバンド偏光(RaXPol)レーダーと呼ばれる装置を搭載した、大型のフラットベッドトラックで現場へと向かいます。オクラホマ大学気象学の教授であるハワード・ブルースタインは、地上および空中のドップラーレーダーを使用し、テキサスA&M大学大気科学の准教授であるクリストファー・ノウタルスキ気象気球を打ち上げます。さらにフィールドで無人航空機システム、つまりドローンを使用して観測を開始します…。

それぞれの科学者のツールは異なるかもしれませんが、目標は同じです。それは、竜巻を形成する可能性が最も高い嵐をより詳しく知り、その進路上の人々により早く、より正確な警告を提供することです。

スーパーセルとして知られる大規模な嵐は、竜巻を発生させることがあります」とハウザー准教授は、『Popular Mechanics』誌で語っています。これらの暴風雨は、地表から上空に向かう風速と風向きに急激な変化(垂直方向のウィンドシアー)をもたらしたときに、地上には温かく湿った空気、上空には冷たい空気が広がっているときに発生します。

これらの条件が、タイヤのように水平に回転する高速の上昇気流をつくり出し、その後は頂点を描くように垂直に回転する上昇気流へと変化していきます。上向きに働く吸引力によってこの回転をさらに強め、そうして竜巻にまで変えることになるのです。

テキサスA&M大学の大気科学准教授であるノウタルスキは、「スーパーセル型の雷雨はまれですが、竜巻などの激しい気象現象につながることがあります」と『Popular Mechanics』誌に語っています。

this tornado demonstrates the rotational bands twisting around the tornado itself, campo, colorado, usa
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コロラド州のカンポで発生したこの竜巻は、竜巻自体を中心に回転するバンド(降雨帯)がねじれている様子を示しています。

嵐を追いかけるのは難しい

「1980年代後半には、科学者たちは携帯用レーダーを使用していました。1990年代になると、トラックにドップラーレーダーを搭載し始めます。移動式レーダーの開発は、科学者たちが発生の瞬間を捉えるために、竜巻にかなり近づくことを可能にしたのです」と、ブルースタイン教授は『Popular Mechanics』誌で述べています。

「それは、母なる自然の動きを数手先まで読もうとする、チェスのようです」

ただし、あまりに近づきすぎないようにしなければなりません。ハウザー准教授は次のように話します。

「数分間でデータを収集するため、その間、観測地点を移動する必要がない距離にいるようにします。竜巻からおおよそ15マイル(約24キロメートル)ほど離れたところで、観測を始めるのです。嵐が私たちのほうに迫り通過し始めると、私たちは再び前方に移動して観測地点を設置します」

ハウザー准教授と彼女のチームは、嵐からわずか1マイル(約1.6キロメートル)の場所という危険と隣りあわせの状況で研究を行うこともあるそうです。彼女は、さらにこう付け加えます。

「まるでチェスをするように、自然の動きを数手先まで予想します。私たちがいる場所から竜巻がいる場所の間で、視界の良いエリアを戦略的に選択しています」

それは、通称「竜巻街道(トルネードアレー)」として知られる地域で、テキサス州北部からオクラホマ州、カンザス州、ミズーリ州にかけての、ほとんど平坦で樹木のない地域です。

ハウザー准教授は、「決定を急いで行わなければならないことも、しばしばあります」と補足します。

「朝起きて、新しい予測とモデリングデータを見て、どこに行くか? を決定します。それは2時間、もしくは7時間かかる場所かもしれませんが、私たちは可能性が高そうな方向に向かって移動を開始します。一日の中で目標地域がさまざま変わるため、その都度移動しなければなりません。

複数の嵐が発生している場合には、『どの嵐を追うか?』という問題が浮上します。嵐は45分から90分間隔で発生することがあるので、ある時点でどれを追うか? を決断しなければなりません。これは私たちを興奮させると同時に、フラストレーションの原因となります。ですが、竜巻を発生させる嵐がどれか? を解明するにあたって、必要な嵐の中のプロセスをよりよく理解するための決断なのです」

👀竜巻追跡者のツールの中で、かなり珍しいものの一つとして、竜巻撃退車両 / トルネード・インターセプト・ビークル(Tornado Intercept Vehicle<TIV>)があります。 映画監督ショーン・ケーシーは、IMAXカメラで竜巻内部を撮影するためのこの戦車のような車両を2つ設計し、その映像は『Storm Chasers』と『Tornado Alley』に使われました。大気科学者たちも、ケーシーと共にこの車両に同乗することがしばしばあります。TIVは1997年のフォードFシリーズF-スーパーデューティのキャブとシャーシトラックから始まり、1.5インチ(約4cm)の防弾ガラス窓と、強力な竜巻の際にがっちりと地表に固定するために地面に打ち込む2本の杭を備えた1万6100ポンド(7300kg強)の巨大な装甲車両です。TIVの側面からは、強風を車両の下に向けて逸らすために4つの油圧スカートが下ろされ、地面から吹き飛ばされないように防ぐ装置も備わっています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Tornado Alley IMAX Trailer
Tornado Alley IMAX Trailer thumnail
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気候変動と竜巻の関係

2023年の竜巻シーズン(3月から5月)は、ノウタルスキ准教授の最近の分析によれば、「アメリカ合衆国では平均か、それよりわずかに多かった」と発表されました。ただし通常よりも早い時期に竜巻が発生し、東南部で通常よりも多くの竜巻が発生しています。これらの変化から、気候変動は竜巻に影響を与えているのではないか? という疑問が生じますが、「この問いに答えるのは難しい」とされています。

「われわれは、特定の事象が気候変動によって引き起こされたとは断言できません。ですが、『気候変動がその可能性をより高いものにした』と言えます」と、中央ミシガン大学の助教授であるジョン・アレンは『Popular Mechanics』誌に語っています。

彼は、「気候システムの変化は長期にわたり地球全体で起こるものであるのに対し、竜巻は10分から数マイル程度に留まる可能性があります」と説明。現在の研究結果では、「このような小規模な現象を、大規模なものに結びつけることはできない」と考えられています。

もう一つの複雑な要因は、竜巻に関する報告方法が年代を重ねるごとに変わったことです。NOAA国立重大嵐研究所(National Severe Storms Laboratory)の上級研究科学者であるハロルド・ブルックスは、「1950年代には、ミシシッピ州の農村で夜に発生した竜巻は今のように報告もされないケースがほとんどで、データベースに登録される可能性は極めて低かったですから…」と、『Popular Mechanics』誌に語っています。

科学者たちは竜巻に関連する特性を探るために、湿度・気温・雲など、1950年代からの重要なデータを持っています。そして温暖化した気候によって生み出される条件が、竜巻の発生や発達に理想的であることも判ってきているそうです。

一般的に温暖化は、「夏に発生する竜巻を減少させ、早春と冬に発生数が増加する」という季節性の変化との関係が語られています(竜巻の発生には、冷たい空気がある程度は必要です)。また、気温の変化も竜巻が発生する地域の変化に影響を与えているそうです。

しかしブルックスは、「気候変動のせいにするには、まだ少し難しい」と述べてもいます。温暖化した地球と熱波、ブタクサの花粉、氷山の融解、集中豪雨などの気象・環境変化の発生確率との間には、明白で直接的な関連があることは明らか。ですが、竜巻については地球温暖化とそれほど直接的な関連は認められていないのです。

そのつながりを立証するには、さらなる追跡が必要であり、科学者たちはそれに賛同しています。

竜巻警報は
本気で受け取ってください

「この分野では、『私たちは遺伝子組み換えをがなされたもののように、稀有な存在さ』と冗談を言うこともあります」と、ハウザー准教授は話します。彼女が竜巻と気象学に対する興味を持ったのは、小学2年生のときでした。

「小学校で受けた科学の授業が私の好奇心をかき立て、その後、他の子どもたちが漫画やTVを観るように、私はウェザーチャンネルを見始めました」

ですが、竜巻を追いかける方法は自分で学ばなければなりません。

「『竜巻は危険だ』という認識はあります。確かにそうかもしれませんが、自分が何をしていいのかわからない場合のほうが危険です」と、ノウタルスキ准教授は述べます。

「一般的には気象が最大のリスクではなく、交通(逃げる手段)にリスクがあるのです」

アメリカ合衆国東南部では森林や丘陵が多く、それにも伴って視界があまり明瞭でない地域が多い。よって、竜巻の追跡がより困難になっています。しかしながら、この地域の人口の増加に伴って、「竜巻がどこでいつ形成されるか?」を可能な限り把握する必要性がさらに高くなっています。

aerial photo of destroyed homes, cars, and property in the lakeshore resort town of samburg, tn after tornado
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2021年12月10日、破壊的で長時間にわたるEF-4(重大な被害をもたらすレベル)の竜巻がケンタッキー州とテネシー州を横断し、多くの町で深刻な被害を引き起こしました。リールフット湖周辺のいくつかのリゾート地域では、特に被害が甚大なものに…。これはテネシー州のリゾートタウン、サンバーグの空撮写真です。

専門家たちは、まだ竜巻の正確な場所や時期を予測できないものの、竜巻の発生につながる条件をよく理解してきました。ブルースタイン教授は次のように語っています。

「『これらの条件がそろった場合、竜巻が発生する可能性が高い』と言えるところまでは到達しているのです。この先、『明日の午後遅くに、オクラホマ中部で竜巻が発生する可能性が非常に高いので、ラジオや携帯電話の警報を受信できるようにしておいてください』と、一般の人々に伝えることができるようになりたいのです」

科学者たちは今後、このような警告ができる可能性は徐々に高まっていると言えるでしょう。ですが、その一方で人々の反応を制御する力を持っていません。誤った警報や竜巻が発生しなかった場合の警報もあると、人々を「またか…」と思わせ、警報が鳴っても危機感を覚えない可能性もあります。いわゆる、イソップ童話『嘘をつく子供』…いわゆる「オオカミ少年」になることのないよう慎重に臨んでいます。

そんな中、ノウタルスキ教授は「全ての警告を真剣に受け取る必要がある」と述べています。「人々がどのように警告を受け取り、それにどのように対応するか? そして、専門家がリスクをより的確に伝える方法」についての研究が始まっています。なぜなら、科学者は竜巻を研究するために、あえて危険に近づいていく必要があります。ですが、そうでない人々は全く逆の方向に退避したほうが安全だからです。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Yumi Suzuki
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です