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Hidehiko Kuwata
サンタバーバラの海岸線を走るショアライン・ドライブ。

カリフォルニアを縦断するように走る「パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)」こと、州道1号線。風光明媚(めいび)な景観が多く続く太平洋の海岸線を車で巡るロードトリップは、素晴らしい出会いとの連続です。

この連載では「PCH」沿いにある注目のエリアを紹介しながら、南部の都市サンディエゴ近郊の街テメキュラ(Temecula)からカリフォルニアを北上。メンドシーノ(Mendocino)の街へと目指します。

およそ1000kmにわたるロードトリップ。ワイルドなアトラクションや地域のテロワール(その土地および風土が擁する個性)を反映した個性的なワイナリー、味わい深いオールドタウンに心癒やされるビーチタウンなど偉大なる寄り道をしながら、レイドバックしたカリフォルニアをゆる~く紹介します。

【Vol.6】
マリブ→サンタバーバラ

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Vol.5でご紹介したハモサビーチ、マンハッタンビーチからマリブまでは約1時間のドライブです。サウスベイエリアを走るパシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)には「セプルベダ」、ロサンゼルス空港からサンタモニカまでは「リンカーン」という名称がつけられており、サンタモニカで太平洋沿いに出ると名称は再びPCHとなります。今回はまずマリブ桟橋の先端にある「マリブ・ファーム・カフェ」を訪ねてオーガニックなメニーを味わい、そしてPCHからハイウェイ101を走り、周辺をワインカントリーに囲まれた美しいサンタバーバラの街を目指します。


ピア一帯をよみがえらせた「マリブ・ファーム・カフェ」

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サンタモニカを過ぎると真っ白なビーチが続く太平洋にぶつかり、ここから15分ほどで桟橋のあるマリブのサーフライダー・ビーチに到着します。古くからハリウッドスターなど多くの著名人が暮らし、億万長者たちは手つかずの大自然の眺望とプライバシーを維持できる完璧なセキュリティを求めて、マリブの山やビーチの上に豪邸を建設したのです。そして自宅の窓からは開放的で雄大な太平洋の景観が望め、外部からは完全に遮断された大邸宅が並ぶマリブのクローズド・コミュニティが形成されていきました。

かたやショッピングモールやレストランなどの公共スペースは実にカジュアルで、この親しみやすい空気感こそが、旅行者にとってはマリブの大きな魅力となっています。現在、マリブ桟橋の先端にある「マリブ・ファーム・カフェ」は、こういった魅力を大いにアピールしているレストランです。

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マリブビーチの桟橋の先端にある「マリブ・ファーム・カフェ」。

2012年、オーガニック農場を運営していたヘレン・ヘンダーソン(写真上)は、長期間空き家になっていた桟橋の小屋でオーガニックレストラン「マリブ・ファーム・カフェ」を開業します。彼女は自分の畑で取れる新鮮な食材をはじめ、メニューに並ぶ料理の使用食材は生産者をすべてウェブで公開し、本物のオーガニック料理を徹底的にアピールしたのです。食材のおいしさを活かした彼女の料理の評判は各方面に広まり、ハリウッドスターが短パンTシャツ姿でレジに並ぶ姿も頻繁に見かけられるようになりました。

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マリブ・ファーム・カフェのオーナー、ヘレン・ヘンダーソン。

マリブ・ファーム・カフェの成功は、寂(さび)れ気味だったマリブ桟橋周辺に活気を呼び戻しました。数件のレストランやバー、洒落たブティックホテルなどが近隣にオープンし、桟橋は再びこの地域を象徴する場所となりました。1905年に建造されたマリブ桟橋は、第2次世界大戦中は米国湾岸警備隊の昼間の監視所として機能し、戦後は桟橋の入り口にスポーツクラブやレストランがオープンして賑(にぎ)わいました。

中でも1972年にオープンした「アリスのレストラン」は、当時人気を博したシンガー・ソングライター、アーロ・ガスリーの代表曲のタイトルにちなんで命名されたこともあり、L.A.周辺ではかなり有名になりました。しかし1990年代に2度の大きな嵐に見舞われて破損し、マリブ桟橋は閉鎖されてしまいました。数年がかりの修理が完了し、桟橋は2008年には再開されたのですが、賑(にぎ)わいが戻ってきたのはマリブ・ファーム・カフェのオープン後でした。

太平洋の絶景に臨むベンチュラの街

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Hidehiko Kuwata
太平洋の絶景に臨むベンチュラの街。

マリブを過ぎてからは、美しい太平洋の眺めを楽しみながらパシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)を走ります。真っ白なビーチが続くズマ・ビーチを過ぎると、二つの大きな海軍基地のあるオクスナードの街に到着します。ここでPCHはカリフォルニアの主要幹線道路であるハイウェイ、US101号線に合流し、途中ベンチュラの街を通過してサンタバーバラまでおよそ40分のドライブです。

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Hidehiko Kuwata
ベンチュラとサンタバーバラ間には幹線道路であるハイウェイ101に並んで、オールドPCHが海沿いを走っています。

実はベンチュラを通過してしばらく走ると、PCHは US 101号線 から分離し、エマウッド・ステートビーチからシークリフ近くまでをつなぐ歴史的なビーチルートとなっています。風光明媚(めいび)なこのルートは「オールド・パシフィック・コースト・ハイウェイ」と呼ばれ、サンタバーバラの手前で再びUS101号線へと合流します。US101号線でサンタバーバラまで一気に走るのもいいですが、時間があればこのビーチルートを走ることをおすすめします。

サンタバーバラ・アーバン・ワイン・トレイル

セントラルコーストの南端に位置するサンタバーバラ周辺は有数のワイン産地で、カリフォルニアの中では比較的涼しい地域です。その涼しい気候を生かして、フランスやイタリアなどの冷涼地域に近いスタイルを踏襲したワインづくりが盛んです。

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サンタバーバラ地域のワインを語る上で欠かせない三つの渓谷があります。北からサンタマリア・バレー、ロスアラモス・バレー、そしてサンタイネス・バレー。これらの渓谷はどれも東西に走り、寒流であるカリフォルニア海流の風を吸い込んでブドウ栽培に最適な冷涼な空気を渓谷に送り込むのです。

この渓谷の中には優れたワイナリーが点在しており、その中のいくつかのワイナリーは、サンタバーバラのダウンタウンにテイスティングルームを持っています。美しいサンタバーバラの街を散策しながら、素晴らしいワインをテイスティングも楽しむ。これが「アーバン・ワイン・トレイル」です。現在トレイルには、23のワイナリーが参加しており、サンタバーバラを代表するワイナリーの逸品が街歩きをしながら味わえます。

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※(左上から)サンタバーバラの桟橋スターンズ・ワーフにある「ディープ・シー」、ボルドー品種にこだわったブティック・ワイナリー「グラッシーニ」、モダンなテイスティング・ルームを持つ「バレー・プロジェクト」、シャルドネとピノが印象に残る「リーバーベンチ」。

アーバン・ワイン・トレイルでのテイスティングの中で、個人的に最も印象に残ったのが「メルヴィル・ヴィンヤード&ワイナリー」です。サンタバーバラ郊外、サンタ・リタ・ヒルズにある彼らのブドウ畑とワイナリーを訪ねてみました。

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地域で最高の評価を獲得している「メルヴィル・ヴィンヤード」。

トレイルオーナー兼ワインメーカーであるチャド・メルヴィルさんの父である、ロン・メルヴィルさんは、1989年に北カリフォルニアのワイン産地ソノマに「メルヴィル・ヴィンヤード」を設立しました。そして1996年、より高い理想を掲げて彼らはサンタバーバラ郊外のサンタ・リタ・ヒルズのロンボックに移り、この地特有の土壌、海からの冷涼な風と朝の霧などのテロワールを生かして、ブルゴーニュ品種の素晴らしいピノ・ノワールやシャルドネを誕生させたのです。

現在、サンタ・リタ・ヒルズはカリフォルニアでも有数のピノ・ノワール(フランス・ブルゴーニュ地方を代表する赤ワイン用ブドウ品種のこと。フルーティかつ繊細、そしてエレガントな味わいが一般的な特徴とされています)の栽培地として知られていますが、この土地を一躍有名にしたのがメルヴィル・ヴィンヤードなのです。テロワールを存分に表現しながらも、オールドワールドの風格を実感させる、そんな素晴らしい味わいと風味のワインに仕上がっています。チャドはこう話してくれました。

「たるの中のワインの状態を、目と耳と鼻で毎日チェックします。でもワインは人がつくるというより、”Mother Nature”、母なる自然がつくるもの。全てはテロワールが決めるのです」

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次回はサンシメオンにあるハースト・キャッスルを紹介します。

Text & Photo / Hidehiko Kuwata
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)