ハーフ・ムーン・ベイ
Hidehiko Kuwata

カリフォルニアを縦断するように走る「パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)」こと、州道1号線。風光明媚(めいび)な景観が多く続く太平洋の海岸線を車で巡るロードトリップは、素晴らしい出会いとの連続です。

この連載では「PCH」沿いにある注目のエリアを紹介しながら、南部の都市サンディエゴ近郊の街テメキュラ(Temecula)からカリフォルニアを北上。メンドシーノ(Mendocino)の街へと目指します。

およそ1000kmにわたるロードトリップ。ワイルドなアトラクションや地域のテロワール(その土地および風土が擁する個性)を反映した個性的なワイナリー、味わい深いオールドタウンに心癒やされるビーチタウンなど偉大なる寄り道をしながら、レイドバックしたカリフォルニアをゆる~く紹介します。

【Vol.10】
サンタクルーズ→シリコンバレー→ハーフ・ムーン・ベイ

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

キャピトラからPCHを北に走れば、約15分でにぎやかなサンタクルーズの街に到着します。人口およそ6万人のこの街は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校がある学生街であり、世界クラスのプロサーファーを数多く輩出したサーフシティでもあり、現在ではシリコンバレーで働く人たちのベッドタウンとしても人気の街となっています。ホタテ貝のような形をしたモントレー湾に臨み、街にはボヘミアン(自由で奔放)な雰囲気が漂います。


サーフィンと音楽の街、サンタクルーズ

サンタクルーズビーチ
Hidehiko Kuwata
サンタクルーズビーチのアイコン「ボードウォーク」。

サンタクルーズは街と海の両方でのアウトドアアクティビティが楽しめ、選(え)りすぐりのライブミュージック、そして素晴らしい食とワインが満喫できる場所です。米国で最初にサーフィンが行われた場所の一つであるともされるこの街は、過去に「サーフシティ」の名称獲得をめぐって、南カリフォルニアのハンティントンビーチと争った歴史があります。プロサーファーを数多く輩出しており、あらゆるレベルのサーファーが楽しめる、沖には10カ所を超えるサーフポイントを擁しています。

サンタクルーズ
Hidehiko Kuwata
サンタクルーズのダウンタウンにある有名なライブベニュー「カタリスト」。
サンタクルーズ
Hidehiko Kuwata
サンタクルーズで有名なレコードショップ「ユニオン・グローブ・ミュージック」。

サンタクルーズにはライブミュージック会場が豊富にあり、インディーズバンドからトップアーティストまで、コンサート会場、ライブハウス、街中のカフェやバーなどで、多彩なミュージシャンのライブが楽しめます。ダウンタウンにある映画館を改装した「デルマー・シアター」、サンタクルーズを代表するクラブ「カタリスト」などには、ボブ・マーリーやパティ スミス、リトル フィート、ニール・ヤングなどの伝説のアーティストたちが多く出演しました。

サンタクルーズでボヘミアンな空気を満喫したら、今では世界的に有名なエリアになったシリコンバレーを訪ねてみます。シリコンバレーとは通称で、サンフランシスコ・ベイエリアの南側に広がる世界に名だたるIT企業が点在するエリアを指しています。サンタクルーズの北約50kmに位置するサンノゼからUS101号線沿いに続く、マウンテンビュー、パロアルト、スタンフォードなどの街には、グーグル、アップル、メタ(旧フェイスブック)など現在のアメリカ経済をけん引する企業が本社を構えています。

遊び心にあふれたイノベーションの街へ

シリコンバレー
Hidehiko Kuwata
インテル本社ビル内にある「インテル・ミュージアム」。

シリコンバレーの旅のスタートはサンノゼの西、サンタクララにある「インテル・ミュージアム」の見学です。1階がミュージアムとして無料開放されています。チップへの集積可能なトランジスタ数の目安となった「ムーアの法則」で知られるゴードン・ムーア、初めて集積回路をつくったロバート・ノイス、この2人の創業者の業績が立体的かつかなり濃い内容で展示されています。 

アップルパーク
Anadolu Agency//Getty Images
クパチーノにあるアップル本社「アップル・パーク」。

ここから南西に車で20分ほどの場所にあるクパチーノには、アップル本社「アップル・パーク」があります。アップル・パークはアップルの本社機能を一体化した施設で、2017年4月から6月にかけて旧社屋から移転しました。もちろん本社には社員以外入ることはできませんが、ビジターセンターには誰でも入れます。入ると大きなスクリーンが設置されていて、アップルの最新CM映像が映し出されています。フロアにはアップルストアと同様にアップル製品がずらりと並べられています。ビジターセンターにはカフェも併設されており、2階の屋上は開放的なテラスになっていてアップル・パークを望めます。

google本社
Hidehiko Kuwata
Androidのキャラクター、通称「ドロイド君」(※正式名称は「バグ・ドロイド(Bugdroid」)が迎えてくれる「グーグル・プレックス」と、広大な敷地内の至る所に設置されているグーグル・マップのピン。

クパチーノから北上すること15分ほどで、マウンテンビューにある「グーグル・プレックス」に到着します。この施設はグーグルを抱えるアルファベットの本社複合施設です。グーグル村と呼べるほど桁外れに広い敷地内で、グーグル・プレックス周辺だけは開放されており、グーグル・カラーの自転車と「バグ・ドロイド」が迎えてくれます。

アップル誕生の地
Hidehiko Kuwata
アップル誕生の地。ジョブズが両親と一緒に暮らした家で、隣接するガレージで「アップルⅠ」が完成しました。

ロスアルトスのクリスト通り2066番地には若き日のスティーブ・ジョブズが暮らした家が残り、建物の左側の小さな倉庫兼ガレージは、スティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェインと共にアップルを創業して「アップルⅠ」を開発した場所です。2人は250ドルの予算で組み立てたアップルⅠを1台500ドルで販売店に卸し、アップルのビジネスをスタートさせたのは今や有名な話でしょう。

ヒューレット・パッカード社創業の地
Hidehiko Kuwata
「バースプレイス・オブ・シリコンバレー」と称されるヒューレット・パッカード社創業の地。

少年時代のスティーブ・ジョブズにとって、「ヒューレット・パッカード社」は憧れでした。同社は、スタンフォード大学の学生だったウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードによって1939年にパロアルトの街で創業されました。当時2人が作業していた建物がパロアルトの閑静な住宅街に残されており、家の前には「シリコンバレー誕生の地」と記された記念碑が設置されています。

スタンフォード大学
Hidehiko Kuwata
スタンフォード大学のキャンパスと敷地内にある有名な「フーバータワー」。

パロアルトの南側に広がる広大なキャンパスを擁する「スタンフォード大学」は、「カリフォルニア大学バークレー校」とともに、シリコンバレーのテクノロジーの源泉となっている場所です。キャンパス内にはビル・ゲイツの寄付で建てられた、「ゲイツ・コンピュータ・サイエンス・ビル」と呼ばれる校舎もあります。ここの360号室はグーグルの創業者の1人、ラリー・ペイジが学んでいた部屋で、ここがグーグル創業時のオフィスとなりました。

シリコンバレー見学の最後は、メンロパークにある「メタ(旧フェイスブック)」です。本社の入り口に設置された巨大な”いいね!”マークの看板は訪問者の記念撮影の場所となっています。さらにサンフランシスコに向かう途中のサンブルーノには「ユーチューブ」があり、サンフランシスコのダウンタウンには「X(旧ツイッター)」も社屋を構えています。

半月型の湾の街、ハーフムーン・ベイ

ハーフムーンベイ
Hidehiko Kuwata
ハーフムーン・ベイの北端「ピラーポイント・ハーバー」。

シリコンバレー見学の後は、メンロパークの街からUS101号線に戻り北上し、92号線ウエストに乗り換えてハーフムーン・ベイを目指しましょう。その名称通り、半月型の湾が弧を描き、海沿いにはヨットハーバーやシーフード・レストランが並んでいる人口約1万4000人の小さな街です。北カリフォルニア特有の冷涼な風が流れ、強い日差しを心地よくクールダウンしてくれます。北端のピラーポイント・ハーバーから、南端の「ザ・リッツ・カールトン ハーフムーンベイ」の優雅なリゾートまで車で15分ほどの距離で、中間地点に小さなしゃれたダウンタウンがあります。

ハーフムーンベイ
Hidehiko Kuwata
ハーフムーン・ベイの一等地にある「サムズ・チャウダー・ハウス」。ローカルなシーフードとクラフトビールが素晴らしい。

昼間はハーバーにある地元のブリュワリーでクラフトビールを味わい、しゃれたダウンタウンを散策して、夕刻前にハーフムーン・ベイの断崖に建つ「ザ・リッツ・カールトン ハーフムーンベイ」に向かいます。目的は真っ赤に染まる太平洋の雄大な夕景と、この絶景を望みながらいただくえりすぐりのカリフォルニアワインです。

ここのダイニングのワインリストは素晴らしく、有名なナパ、ソノマはもちろん、カリフォルニア北端のメンドシーノ、中央部のセントラル・コースト、そしてハーフムーン・ベイの南東に連なるサンタクルーズ山系からの選び抜かれたワインがそろっています。懐具合と相談することになりますが、なかなか味わえない地元ワイナリーの希少なカルトワインの品ぞろえも素晴らしいのです。

ザ・リッツ・カールトン ハーフムーン・ベイ
Hidehiko Kuwata
ハーフムーン・ベイを代表する5つ星リゾート「ザ・リッツ・カールトン ハーフムーン・ベイ」。

太平洋に望むテラスのテーブルに座り、日が傾き淡い紺色と朱色が交錯する夕暮れの空と、ファイアピット(焚き火台)で海風に揺れるオレンジ色の炎を交互に眺めながら、凝縮感のあるリッチな味わいのカベルネ・ソーヴィニヨンを口に運びます。それは、ハーフムーン・ベイが最も美しく映える時間帯。これから夜の帳(とばり)が下りるまで、断崖に砕ける波の音を聞きながら美酒美味を満喫する――まさに至福の時なのです。

---------------

次回はサンフランシスコからゴールデンゲート・ブリッジを渡って北上し、素晴らしいナパ、ソノマのワイン・カントリーを訪ねます。

Text & Photo / Hidehiko Kuwata
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)