カリフォルニア、ビッグサー
Hidehiko Kuwata

カリフォルニアを縦断するように走る「パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)」こと、州道1号線。風光明媚(めいび)な景観が多く続く太平洋の海岸線を車で巡るロードトリップは、素晴らしい出会いとの連続です。

この連載では、「PCH」沿いにある注目のエリアを紹介しながら、南部の都市サンディエゴ近郊の街テメキュラ(Temecula)からカリフォルニアを北上。メンドシーノ(Mendocino)の街へと目指します。

およそ1000kmにわたるロードトリップ。ワイルドなアトラクションや地域のテロワール(その土地および風土が擁する個性)を反映した個性的なワイナリー、味わい深いオールドタウンに心癒やされるビーチタウンなど偉大なる寄り道をしながら、レイドバックしたカリフォルニアをゆる~く紹介します。

【Vol.8】
ピスモビーチ→ビッグ・サー

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Vol.7でご紹介した「ハースト・キャッスル」から、カリフォルニア州のほぼ中間点にあるサンルイスオビスポの街に戻り、US101号線という大きなハイウェイを南に10分ほど走ると、カラフルな装いのピズモビーチの街に到着します。

にぎわいの中心であるポメロイ・アベニューには、町の名物であるクラムチャウダーの店や古き良き時代を彷彿(ほうふつ)させるバーなどが並び、その先には真っ白な砂浜とターコイズブルーに輝く太平洋の絶景が広がっています。


クラムチャウダーの町、ピスモビーチ

カリフォルニア、ピスモビーチ
Hidehiko Kuwata

美しいビーチまで200mという絶好の立地。新鮮な地元産のシーフードや世界的に有名なクラムチャウダーを提供しているレストランも軒を連ねています

ピスモとはハマグリの種類の一つで、かつては付近の海岸に大量に生息していたため、この街の長く広いビーチにその名がつけられました。ピスモビーチは1950年代には、「世界のクラムの首都」と呼ばれていました。現在でも毎年10月にクラムフェスティバルが開催され、クラムチャウダーのコンテストやクラムをテーマにしたパレードが行われています。プライス通りの南端には巨大なコンクリート製のハマグリの像があり、旅行者のフォトスポットにもなっています。

カリフォルニア、ピスモビーチ
Hidehiko Kuwata
ピスモビーチの賑(にぎ)わいの中心であるポメロイ通り。1937年にクラーク・ゲーブルが出演した『ストレンジ・カーゴ』の撮影で有名になった、ピスモビーチ・ホテルも健在です。

まるで映画のセットのような街並みを進んで海辺に出ると、左手に巨大な桟橋が現れます。およそ360mの長さもある木造の桟橋は1928年に建造されたもので、街のアイコン的存在となっています。桟橋の先端まで歩き、海風に吹かれながら穏やかな海辺の街の全景を眺めると、ここでは人と自然がバランスよく共存していることに気づきます。それぞれに大きくもなく小さくもなく、太平洋に臨む雄大な景観と穏やかな町の雰囲気。ここは訪れる誰もが心地よく時間を過ごせるであろう街です。

カリフォルニア、ピスモビーチ
Hidehiko Kuwata
ビーチでは海水浴、サーフィン、釣りなど多くのアトラクションがあり、バードウオッチングの人気スポットにもなっています。ビーチの南端は砂丘になっており、デューンバギーが楽しめます。

実際、ピスモビーチは数多くの映画やTVドラマに登場しました。古くは1950年代に大ヒットしたTVドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』のいくつかのエピソード、1960年代に一世を風靡(ふうび)※日本でもオンエアされた『ザ・モンキーズ』のTVシリーズ、そして1998年公開のコーエン兄弟の映画『ビッグ・リボウスキ』など、ピスモビーチは数多くの印象的なシーンの舞台となったのです。

カリフォルニア、ピスモビーチ
Hidehiko Kuwata

海辺で大空と太平洋が真っ赤に染まる雄大な夕景を楽しんだら、シーフードとワインを楽しむ時間です。セントラルコースト・ワインの中心地、パソロブレスから届く素晴らしい赤白ワインの数々。そして地元で採れるアサリをふんだんに使ったクラムチャウダーと新鮮な素材の魚料理など、太平洋の恵みと地元ワインとのペアリングは申し分ありません。海辺の小さな街でこれだけレベルの高い美味を満喫できることも、カリフォルニアの旅の大きな魅力です。

PCHを北上してビッグ・サーへ

カリフォルニア、ピスモビーチ
Hidehiko Kuwata
ピスモビーチの北約30キロに位置するモロ・ベイ。モロ・ロックの北側には、かつてのアメリカ軍の訓練基地跡に建設された発電所があります。

ピスモビーチの北約30キロに位置するモロ・ベイ。モロ・ロックの北側にはアメリカ海軍の訓練基地があります。モロ・ロックの印象的な風景は人気があり、街には多くのレストランやバーが点在しています

サン・ルイス・オビスポからPCHを北上してビッグ・サーに向かう道のりは、息を飲むような絶景の連続です。入り江に巨大なドーム型の岩がそびえるモロ・ベイ、オールドタウンが今も残るカンブリア、ハースト・キャッスルのあるサンシメオンなど、穏やかなたたずまいの魅力あるビーチタウンが並んでいます。風光明媚(めいび)な1号線のルートでもっとも穏やかな景観が満喫できる区間で、さらに北上すると視界には切り立った崖と太平洋の絶景が広がります。特に中間点に架かる「ビッグ・クリーク・コーブ」のビューポイントから眺める、ビッグ・サーの幻想的な海岸線と荒々しい急勾配の崖のコントラストは圧倒的です。

カリフォルニア、ビッグ・クリーク・コーブ
Hidehiko Kuwata
「ビッグ・クリーク・コーブ」のヴィスタ・ポイントからの眺望。
カリフォルニア、「ビッグ・クリーク・ブリッジ」
Hidehiko Kuwata
1938年に開通した「ビッグ・クリーク・ブリッジ」。雄大な太平洋の光景と、切り立った岸壁にあたって砕ける真っ白な波。PCH上にある圧倒的な絶景の一つです。

ビッグ・サーに入ると周辺の景色は深い緑の森に変わり、15分ほど走ると道路の両側に数軒のレストランやロッジが建つ中心地に到着します。この地域の大半はサンタルチア山脈に含まれており、山の斜面が直接太平洋に流れ込んでいます。そのために開発が難しく、山側の深い森林地帯も含めて、いまだ手つかずの大自然が遺(のこ)されてきました。

カリフォルニア、ビッグ・サー
Hidehiko Kuwata
写真上:ビッグ・サーの小高い丘の上に建つレストラン&バー「ネペンタ」からの幻想的なパノラマ。写真下:マイナスイオンたっぷりのうっそうとした森で、木漏れ日を浴びながらビッグ・サー・リバーの清流で涼を満喫。

世俗から距離を置いたビッグ・サーの隠れ家のような空間に惹(ひ)かれて、古くから多くの芸術家が移り住んできました。その代表格が作家のヘンリー・ミラーです。彼は1号線が開通するとまもなく居を構え、その後18年間をビッグ・サーで過ごしました。そして美しい大自然の中での自らの暮らしぶりやこの地に生きる人々との穏やかな交流などをユーモラスに描き、独自の楽園論を展開する『ビッグ・サーとヒエロニムス・ボスのオレンジ』を発表しました。

カリフォルニア、ビッグサー
Hidehiko Kuwata
PCH沿いに建つ「ヘンリー・ミラー・メモリアル・ライブラリー」。施設は書籍の売上金や寄付金などで運営され、ロックシンガーのパティ・スミスが運営責任者を務めていた時代もあります。

当時ヘンリー・ミラーの親友だった画家のエミル・ホワイトは彼の死後、所有していた敷地に「ヘンリー・ミラー・メモリアル・ライブラリー」を設立し、現在ではビッグ・サーの主要な観光スポットとなっています。内部にはヘンリー・ミラーのメモラビリアの数々が展示され、この場所で行われたコンサートのポスターなども飾られています。2011年7月21日にはここでレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーコンサートが、ラッキーな300人のファンを集めて開催され大きな話題となりました。

カリフォルニア、ビッグサー
Hidehiko Kuwata
ビッグ・サーの小高い丘の上に建つレストラン&バー「ネペンタ」のテラス席。

ヘンリー・ミラー・メモリアル・ライブラリーと1号線を挟んで、西側の小高い丘の上に建つレストラン&バー「ネペンタ」を訪ねてみます。ここのテラスから眺めるパノラマはまさにビッグ・サーの絶景です。エリザベス・テイラー主演の映画『いそしぎ』(1965年公開)のロケ地としても有名で、ビッグ・サーで最も賑(にぎ)わう場所となっています。

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次回はボヘミアンなサンタクルーズの街と、カリフォルニア最古のビーチリゾート、キャピトラを訪ねます。

Text & Photo / Hidehiko Kuwata
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)