カリフォルニア・キャピトラ
Hidehiko Kuwata
キャピトラ・ワーフから眺めるビーチと、「ヴェネチアン・コート」。

カリフォルニアを縦断するように走る「パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)」こと、州道1号線。風光明媚(めいび)な景観が多く続く太平洋の海岸線を車で巡るロードトリップは、素晴らしい出会いとの連続です。

この連載では「PCH」沿いにある注目のエリアを紹介しながら、南部の都市サンディエゴ近郊の街テメキュラ(Temecula)からカリフォルニアを北上。メンドシーノ(Mendocino)の街へと目指します。

およそ1000kmにわたるロードトリップ。ワイルドなアトラクションや地域のテロワール(その土地および風土が擁する個性)を反映した個性的なワイナリー、味わい深いオールドタウンに心癒やされるビーチタウンなど偉大なる寄り道をしながら、レイドバックしたカリフォルニアをゆる~く紹介します。

【Vol.9】
カーメル→モントレー→キャピトラ

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

(太平洋岸を走るカリフォルニア州道1号線のサンシメオンからカーメルまでの区間、とも定義されるカリフォルニア州のセントラルコーストにある人口の希薄な地域)ビッグ・サーの深い緑の中、PCHをさらに北上すると15分ほどで海岸線に出て、視界には切り立った崖と太平洋の絶景が広がります。

ここから次の目的地のカーメル(正式名称は、カーメル・バイ・ザ・シー)までは小一時間のドライブ。風光明媚(めいび)な1号線のルートでも最高の景観が満喫できる区間です。

特にビッグ・サーの北端に架かるビックスビー・ブリッジのビューポイントから眺める、ビッグ・サーの幻想的な海岸線と荒々しい急勾配の崖の眺めは圧巻です。今回は有名なカーメル、モンタレーの街を通って、カリフォルニア最古のビーチリゾート、キャピトラを訪ねます。


俳優クリント・イーストウッドが市長を務めた小さな街、カーメル

カーメル
Hidehiko Kuwata
カーメル・バイ・ザ・シーの目抜き通り、オーシャン・アベニュー。

1986年から2年間、俳優のクリント・イーストウッドはカーメルの市長を務めました。20世紀初頭よりカーメルには多くの芸術家が暮らすようになり、住人の半数近くが芸術家だった時代もあったと言われています。彼らは市政にも大きな影響力を持ち、イーストウッド以外にも複数の作家や俳優が市長を務めています。

ペブルビーチの自宅でくつろぐクリント・イーストウッド
Nik Wheeler//Getty Images
カーメル近郊の街・ペブルビーチの自宅で愛娘とくつろぐクリント・イーストウッド。1978年撮影。

1970年代からカーメルで暮らすようになったイーストウッドは、この街でレストランやブティック・ホテルなどを経営するようになりました。しかし、カーメルの評議会が定めるビジネスに関する規制が厳しく、イーストウッドはしばしば対立していたのです。そこで彼はこういった規制の緩和を唱えて、締め切りの数時間前に立候補を表明。そして全体の72%の票を獲得して、見事に当選を果たしました。

カーメルの市長選で選挙活動に励むクリント・イーストウッド
Bettmann//Getty Images
選挙キャンペーンのTシャツを手に記者会見に臨むクリント・イーストウッド。

当時、ハリウッド映画でも有数の人気を誇る俳優がカーメルの市長になったことで、市民は興奮していました。イーストウッドは市長として駐車場や図書館などの公共施設を充実させ、市内に多くのレストランをオープンさせることを可能にし、それらによってカーメルを訪れる観光客も大幅に増えたのです。

街の経済にとっては結構なことでしたが、通りの交通量は増え、旅行者向けの深夜営業の店舗も現れたりと、次第にイーストウッドの政策に異議を唱える声も増えていきました。任期の2年を終えたイーストウッドに再選を期待する市民も多くいましたが、彼は「家族とより多くの時間を過ごしたい」という理由で、再び立候補することはありませんでした。

カリフォルニアのレストラン「グラシングス」
Hidehiko Kuwata
世界の有名レストランで腕を磨いたシェフ・グラシングが展開する、カリフォルニア料理で有名な「グラシングス」。
カリフォルニアの
Hidehiko Kuwata

カーメルの海岸からまっすぐ伸びる目ぬき通り、オーシャン・アベニューを中心に、東西南北2ブロックほどが街の中心で、全てが徒歩で楽しめます。信号もネオンもファストフードもないダウンタウンには、しゃれたレストランやバーが並び、どこまでも上品で落ち着いた佇(たたず)まいです。長い歴史をもつ家族経営のレストランが多く、通りを行き交う人は少ないですが、夕暮れ時には多くのレストランが地元の人たちや旅行者で賑(にぎ)わいます。

カーメル・ワイン・ウォークの一つ「grante vineyards」
Hidehiko Kuwata
すてきなワイナリーが点在しているカーメル・バレー(左)と、カーメル・ワイン・ウォークの一つ「GRANTE VINEYARDS」のテイスティングルーム。

山側のカーメル・バレーには素晴らしいワイナリーが点在していますが、それぞれにテイスティングルームをダウンタウンに設けていて、その数は13カ所にも上ります。この街では、歩いてワイン・テイスティングが楽しめます。レストランでワインを味わうのもよいですが、穏やかな街並みを散歩しながら、地元産のワインを飲み比べるのも楽しい旅の時間となるでしょう。

カリフォルニア最古のビーチリゾート、キャピトラ

カリフォルニア・キャピトラ
Hidehiko Kuwata
風光明媚(めいび)なドライブコース「17マイルドライブ」と、その北端に位置するパシフィック・グローブ。

カーメルからは、ゴルフコースで有名なペブルビーチからモントレーの手前のパシフィック・グローブに抜ける、絶景が続くドライブコース「17マイルドライブ」を走ります。サイプレス・ポイント、バード・ロック、ポイント・ジョー、ぺスカデロ・ポイントなど見どころが続き、ラッコやアシカ、海鳥が遊ぶ遠浅の美しい海岸の眺望が車窓から楽しめるでしょう。パシフィック・グローブの街で17マイルドライブは終了し、ここからはライトハウス通りを通って約10分でにぎやかなモントレーに到着です。

カリフォルニア・キャピトラ
Hidehiko Kuwata
モントレーの賑(にぎ)わいの中心「キャナリー・ロウ」。

年間通じて観光客で賑(にぎ)わうモントレーですが、1602年にスペイン人探検家セバスティアン・ビスカイノによって発見され、スペイン、メキシコ、アメリカ領下の首府となった歴史ある街です。フィッシャーマンズワーフの向かいにあるモントレー州立歴史公園には、1827年カリフォルニアで最初につくられた税関の建物が残されており、州の歴史建造物第1号に指定されています。

古色蒼然(そうぜん)とした風情ある建築物で、モントレーがかつて漁港として栄えていた時代の名残が漂っています。この公園から海沿いの遊歩道を20分ほど歩くと、モントレーの賑(にぎ)わいの中心でレストランやお土産屋が並ぶ活気あるキャナリー・ロウに到着します。

カリフォルニア・モントレー
Hidehiko Kuwata
「モントレー・ジャズ・フェスティバル」と「モントレー・ポップ・フェスティバル」が開催されたモントレー・フェアグラウンド。

モントレーは歴史的なミュージック・フェスティバルが開催された街で、1958年に始まった「モントレー・ジャズ・フェスティバル」は現在も毎年開催されています。ルイ・アームストロングやデューク・エリントン、マイルス・ディビス、ジョン・コルトレーンなど、歴代ジャズ界のビッグネームはほとんどがこのステージに立ちました。もう一つは1967年6月16日から3日間にわたって開催された「モントレー・ポップ・フェスティバル」です。映画化もされたこのフェスティバルには、ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリクス、オーティス・レディング、サイモン&ガーファンクルなど30組を超えるアーティストが出演し、20万人を超える観客を動員しました。

MONTEREY INTERNATIONAL POP FESTIVAL 1967
これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
MONTEREY INTERNATIONAL POP FESTIVAL 1967 -
MONTEREY INTERNATIONAL POP FESTIVAL    1967 - thumnail
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モントレーからは美しいモントレー湾を眺めながらPCHを北上します。海岸線に沿って20分ほど車を走らせると、道路は緩やかな勾配の続く山道に入って行き、かなり標高の高い場所まで上ります。その後は15分ほど下坂が続き、再び海岸線にぶつかると間もなくキャピトラの小さな街に到着します。

ヴェネチアン・コート
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キャピトラ・ビーチの上に建つ、1925年建造のカラフルな「ヴェネチアン・コート」。

キャピトラはカリフォルニアで最初に開発が進んだビーチリゾートで、その象徴的な建物がキャピトラ・ビーチの上に1925年に建設された「ヴェネチアン・コート」です。ビーチの上に建つカラフルに彩られた2列の棟で構成され、個人所有の住居もあります。ですが、ほとんどは貸別荘となっており、後列の建物は「キャピトラ・ヴェネチアン・ホテル」として運営されています。

キャピトラのリゾート開発は1869年にさかのぼります。この年、カリフォルニア州議会議員に当選したフレデリック・ハイン氏は、この地域で林業を営む有力な土地開発者で、彼はキャピトラ・ワーフ周辺の土地を買収し、早くからキャピトラのリゾート開発を計画していたのです。彼の手腕とビジネスプランによって、この小さな海辺の街はカリフォルニアで最初に生まれたビーチリゾートになったのです。

キャピトラ・ワーフ
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1856年に建造された「キャピトラ・ワーフ」ですが、以来桟橋は何度も嵐による破壊・再建を繰り返し、現在の姿は1998年に修復されたもの。

小さなキャピトラ・ビーチを中心にして、西側には古い木造の桟橋「キャピトラ・ワーフ」が太平洋に向かって伸び、先端に建つ古いバーは地元の漁師やサーファーたちのたまり場となっています。西側の短い海岸線にはしゃれたレストランやショップが軒を連ね、その先には太平洋を臨むサマーハウスが並んでいます。心地よさがぎゅっと詰まったような光景の中、太平洋の海風に吹かれているとまるで時間が止まっているかのような錯覚を覚えます。

バー「ワーフ・ハウス」
Hidehiko Kuwata
キャピトラ・ワーフの先端にあるバー「ワーフ・ハウス」。
バー
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この穏やかな海辺の光景を一望できる、「パラダイス・ビーチ・グリル」を訪ねてみました。ここのワインリストは、ジンファンデルというブドウ品種のワインが充実しており、“ジンファンデルの中心地”として有名なロダイから届くワインがリーズナブルに味わえます。ロダイはキャピトラの北東80キロに位置するワイン産地で、凝縮感にあふれるリッチな味わいのワインが高評価を得ています。海からの照り返しでカラフルに輝くヴェネチアン・コートを眺めながら、ビーチタウンの昼下がりを満喫します。

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次回はサンタクルーズからハーフムーン・ベイをご紹介します。セントラル・コーストとはお別れして、ノーザン・カリフォルニアに入ります。

Text & Photo / Hidehiko Kuwata
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)