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サッカーのヘディングや、ラグビーやアメフトにおけるタックル、もしくはクルマに乗る際に頭をぶつけてしまうなど、どれも(それを日々行っている方にとっては)日常的で、「問題ない(NBD=Not a Big Deal)」とついつい考えてしまいがちかも知れません。

オールドタイプのスポーツマンにとっては、これはありがちなことですが…。めまいや違和感を覚えつつも、それでも「どうにかなる」とやり過ごそうとしている方にとって、このことは重大な間違いを犯している可能性があります。まずは、子どもの脳のダメージを懸念するスポーツ界のガイドラインを見ていきましょう。その後、大人でも「頭を打った」ときは注意すべき対処方法についても解説していきます。

脳振盪(のうしんとう)とその後遺症へのリスク軽減のため。子供の脳のダメージを懸念し世界のサッカー界は厳格

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2020年2月、イングランド、スコットランド、北アイルランドの3サッカー協会が、ユース年代でのヘディングに関する「ガイドライン」を共同で発表しました。「11歳以下のプレーヤーには、練習ではヘディングをさせない」という画期的なものでした。

「ヘディングは脳に悪影響を与える」という警告は、数十年前から繰り返しなされてきました。しかし、英グラスゴー大学が「サッカー選手は、そうでない人に比べ、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患で死亡する割合が3.5倍も高い」という研究を発表して以来、英国のサッカー界も真剣に考えるようになった背景があります。

米国でも、すでに2015年に10歳以下のプレーヤーのヘディングが禁じられており、11~13歳のプレーヤーには、練習中のヘディングの回数を制限するルールがつくられています。

ヘディングを行うと頭に直接的なダメージとなるため、さまざまなリスクが生じ、懸念される症状としては…

  • 認知症
  • 脳震盪
  • 慢性頭痛
  • 慢性外傷性脳症(CTE)

が挙げられています。また、脳だけではなく、ヘディングで首をひねることによる頸椎捻挫(けいついねんざ)などの症状も懸念項目に入っています。

◇大人も「頭を打った」ときは注意 ― 専門医が記事を監修

アメリカの疾病対策予防センター(CDC)」によれば、頭部の負傷で救急治療室に運び込まれる方の数は、毎年250万人にも上るのだとか。そのうち実に10パーセントの人々が、そのまま入院となっています。

ハーバード大学医学大学院によれば、救急外来に運び込まれる「頭部負傷」者の数は男性が女性の約4倍に及び、その約半数が飲酒中の負傷とされています。その他の要因としては、転倒と自動車事故が上位に挙げられています。

「私たちも人間ですので、頭をぶつけてしまうことは少なくありません。頭蓋骨はその際の怪我から生命を守るべくこの形状に至っています。『どこをどう打てばどうなる?』ということは、一概には言えません。因果関係もさまざまで、鉄則は存在しないのです」と説明するのは、米国メイヨー・クリニックの神経科医ロドルフォ・サヴィカ博士です。

生涯に及ぶ後遺症が残るケースは多くはないものの、全くないわけではありません。 

◇脳震盪(のうしんとう)とはなにか? またその危険性は?

脳震盪は軽度の外傷性脳損傷であり、一時的な脳機能障害(詳しくは本記事後述)を引き起こす要因になります。頭部への打撃や衝撃により、脳が頭蓋骨内部で揺さぶられ、そのことが脳の機能や活動に影響を及ぼすわけです。ですが、多くの場合は時間と共に症状は改善されていくことも報告されています。

「脳震盪を表す英語“concussion”の語源をたどると、『激しく揺らす』という意味の“concutere”、そして『物体同士をぶつけ合う動作』を指す“concussus”というラテン語に行き当たる」と、サヴィカ博士は解説を加えてくれました。 

▼治療が必要なレベルの頭部損傷は?

「ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)」のスポーツ医学脳震盪プログラムによると、脳震盪を起こしても報告も検出もされないケースが実際の約半数に上るとのこと。

「治療が必要なレベルの頭部損傷は、軽傷の場合を含め、かなり日常的に発生しています」と言うのは、クリーブランド・クリニックで脳神経外科医を務めるエドワード・ベンゼル博士です。

「負傷者がその事実に気づいていないという場合もあれば、スポーツ選手が負傷を隠すというような場合も少なくありません。『一度の脳震盪が、重大な危険を招く』とは言い切ることができませんが、繰り返されることで結果として重度の脳損傷の原因となってしまうことは、十分にあり得ることなのです」と、ベンゼル博士は注意をうながします。

「脳震盪を起こした後5分~10分程は、スポーツ選手の多くは異変を感じることなく競技へと戻る場合が多いのです。ですがダメージは、その後やってくるのです」とベンゼル博士。

◇では、どのようにして我が身を守れば良いのでしょうか? 対処法は?

頭を強く打ってしまった際のチェックリストを、以下に示しておきましょう。

▼事態を把握する

まずは、「頭部への強い衝撃や外傷によって、脳震盪が引き起こされる」ということを知っておく必要があります。とは言え、単発かつ軽度の衝撃の場合には、大きな心配には及ばないとも言えます。

また、「度重なる怪我や衝撃を受けた場合は、程度が軽い場合においても充分な警戒が必要がります」と、「脳震盪レガシー財団(CLF)」は注意を呼びかけています。

頭部を強烈に打ちつけた自覚がある場合、または周囲の目撃者に心配されるほどの衝撃を受けてしまった場合には、脳震盪とその影響を疑うよう努めて、検査を受けるべきです。また、例え衝撃の程度が軽かった場合でも、それ以上の衝撃を再び受けないようにするため、しばらくは安静に過ごすことが推奨されます。軽い衝撃も、それがたび重なって生じた場合には、迷わず医師の診断を受けるようにしてください。

怪我の状況とその影響の大小に関しては、必ずしも相関関係があるわけではない、ということも知っておくべきでしょう。

注意:お酒で酔った状態で頭部打撲のケースが多い

「重度の脳損傷の原因として、しばしば見られるのは、バーなどの酒場で酔って椅子から転落し、頭を打ち付けるというケースです。わずか1メートルほどの高さからの転落だったとしても、酔った状態では頭を床に激しくぶつけてしまうことが多く、重度の脳損傷の原因となるか、最悪の場合には命の危険さえあります」と、ベンゼル博士は注意をうながしています。 

▼脳震盪の症状を知っておく(14のチェックリスト)

脳震盪の症状は、常に目に見えて明らかではありません。そして、瞬間的なものである場合も多々あります。

「脳震盪を起こした直後、足がもつれたり、その原因となったプレーのことを思い出せないという選手は珍しくありません。大抵は、あっという間に回復してしまうものですが、それが繰り返される状況は避けられるようにすべきです」と、ベンゼル博士は警鐘を鳴らします。

脳震盪には、次の症状が含まれます:

  • 意識を失う
  • バランスやコントロールを失う
  • めまい
  • 視界の変化
  • 吐気や嘔吐
  • 集中力の低下
  • 意識の乱れ
  • 理解能力や発話能力の低下
  • 読み書きの困難
  • 記憶障害
  • 頭痛
  • 倦怠感
  • イラつきなど、行動の変化
  • 発作

以上の症状が現れた際には、例え軽度で瞬間的なものであったとしても、医師の診断を受け、もとどおりの体調に戻るまで数時間は安静にすることが推奨されます。

「特に頭部外傷が意識の喪失を伴う場合には、すぐに医師の診断を受けるべきです」と、サヴィカ博士は断言します。脳震盪の症状が繰り返し起こる場合においても、同様です。 

▼数時間、安静にして様子を見守る

脳震盪の症状が長時間続いたり、もしくは、さらに悪化するような場合には、できるだけ早く医師の診断を受けるべきでしょう。「それは症状が進行している可能性が高いと言っていいかもしれません。ごく稀にですが、脳内に血栓が発生していることもあり得ます」と、ベンゼル博士。

「脳震盪第二波(sub-concussive blow)」とベンゼル博士は呼んでいますが、事故後6~7時間が経ってから、脳震盪の症状が現れることも珍しくありません。そのケースに陥った場合には、すぐに救急治療を受けるべきです。「想定するよりも、さらに深刻な損傷を負っている可能性は低くありません」と、ベンゼル博士は強調します。

▼より深刻な症状の兆候が無いか、注意深く見極める

ごく稀にではありますが、頭部の強打によって頭蓋骨骨折が起きている場合、致命的な出血(大量出血)や「血栓(硬膜外血腫=脳を包んでいる硬膜と頭蓋骨の間にできる出血)」や、「硬膜下血腫(頭蓋骨の内側で脳を包む膜(=硬膜)と脳の表面との間にゆっくりと血液がたまって血腫ができた状態)」が生じている可能性が高まります。

いずれの場合にも、脳震盪と診断されて見過ごされてしまうことが多いようです。そのような理由から、以下の症状に当てはまるものがないか? 常に再確認することをベンゼル博士は推奨しています。

  1. 透明な液体および血液の耳や鼻からの流出
    …損傷を負った患部からの出血は、単なる切り傷である場合が多いわけですが、耳や鼻からなんらかの液体が流出している場合には、髄液である可能性を疑うべきでしょう。
     
  2. 耳の後ろや目の周囲における打撲
    …額(ひたい)にできた痣(あざ)なら、大した問題ではないことも多いのですが、耳の後ろや目の周囲を打撲した場合、痣は内出血(大量出血)のしるしである可能性がありますので、注意が必要です。
     
  3. 負傷箇所の反対側で起こる倦怠感など
    …意識の混乱や記憶障害の悪化の場合と同様に、負傷した患部の反対側で起こる倦怠感などは、血腫の存在を示している場合があります。

▼突然重症化する「トーク・アンド・ダイ(話しながら死ぬ)」とは?

「硬膜外血腫が起きたり、もしくは頭蓋骨のすぐ内側に血栓ができてしまったような場合に、単なる脳震盪だと思って、一時の回復症状から問題ないことだと判断してしまう方が少なくありません」と、ベンゼル博士は指摘します。

「しかし、静脈の断裂が起きていたり、その後のタイミングでなってしまった場合には、それから数分~数時間をかけてじわじわと血栓が形成され、進行性の神経障害が引き起こされることとなり、昏睡や死に至る可能性さえあるのです。これが、『トーク・アンド・ダイ(話しながら死ぬ)』症候群と呼ばれるものです」とも語ります。

「アメリカンフットボールやサッカーの試合などで、開始早々に頭を強打した選手が、無症状のまま試合を続行してしまうことがあります。その試合中に再び強打しても、また自覚症状なく立ち上がってプレイへと戻り、そして話をしながら死んでしまうようなことが現に起こっているわけです」と、ベンゼル博士は警鐘を鳴らします。 

◇スポーツ界における死亡事例

スポーツの競技中に、硬膜外血腫が起こることは稀ですが、「それでもいくつかの見過ごせない事例がある」とベンゼル博士は指摘します。

例えば1920年、MLBクリーブランド・インディアンズの名遊撃手レイ・チャップマンが頭部にデッドボールを受けた後、回復が認められてプレイに復帰したものの、数時間後に死亡してしまったのは有名な話です(この事件は、打撃用ヘルメットの開発につながる一つの契機となりました)。

「このようなことが実際起こっているので、可能な限り頭を打った場合は多少に関係なく経過観察することが大切となります」と、ベンゼル博士は説明します。 

◇自動車やオートバイによる事故直後にも注意

硬膜下血腫もしくは脳血栓は、よく自動車やオートバイによる事故や大きな転倒事故などの結果として起こる比較的珍しい症状です。脳震盪をともないますが、そのままにしておくと瞬く間に動脈から出血が起き、数分~1時間以内という短時間のうちに致命傷となってしまいます。

どちらのタイプの血腫も、通常であればすぐに自覚症状が現われます。

しかし、軽度の頭部損傷が高齢者に起きた場合などには、無症状の慢性硬膜下血腫が発生した後、数週間をかけて血栓が拡大し、状態が悪化するような事例も報告されています。

「高齢者の脳は加齢にともなって萎縮するため、衝撃による揺れを受ける機会が増え、場合によってはそのせいで血管が破裂してしまう場合もあります。出血が微量であっても、じわじわと継続する中で血栓が生じ、最後は取り返しのつかないことになるという場合も少なくありません」と、ベンゼル博士は念を押します。 

▼対処方法:二週間は安静にして経過を見守る

負傷してしまったら、その後の数週間は「脳震盪の症状がないか?」に対して注意を払いながら安静に過ごし、完全に治癒するまで気を抜くべきではありません。頭部を強打した際に脳震盪の症状が見られなかった場合においても、同様の注意を払うべきでしょう。

「脳震盪は、大きな自覚症状を伴わない場合が多いのです。ですが、数日から数週間後に症状が現われるということがあります。また血腫は気づきにくく、明確な初期症状を伴わないことも多いため、油断はできません」と注意を喚起するのは、サヴィカ博士です。

脳震盪と診断された場合には、医師の指示に従って1週間ほど空けた後に、再診を受けるのが望ましいでしょう。

一見軽傷と思える症状であっても、完治するまで待たなければなりません

症状が完全になくなるまで、安静に過ごすということが基本です。また、特に激しいチームスポーツを行なうような場合においては、専門家の許可を得るまで再開を見合わせることが不可欠です。 完治しないうちに再び強い打撃を受けてしまうようなことがあれば、その状況を深刻化する可能性は急激に高まるのですから。

「一見、軽傷と思える症状であっても、十分なリスク要因になり得るのです」と、ベンゼル博士は言います。「とにかく、また強い衝撃を受ける可能性があるのであれば、一度完治するまで待たなければなりません」とのこと。 

▼脳震盪に備える ― 健康なときに検査がおすすめ

健康なときに脳震盪検査を受けておくことは、おすすめです。それは頭部のダメージを負う前と、ダメージ後の脳機能に変化が起きていないか?を評価するのに、大いに役立つからです。

医師などの医療専門家に従って、バランス感覚や記憶力、集中力、応答時間などの数値を計測することになります。頭部への衝撃で脳震盪が起きた際には、この検査結果をベースラインとして状態を比較することができます。

現在では、「軽度の外傷性脳損傷(TBI=Traumatic Brain Injury)」のダメージについて、即座に結果の出る脳震盪検査も米国アボット社(日本法人はアボットジャパン)の科学技術により一般化しています。

ちなみに米国の場合は、「アメリカ食品医薬品局(FDA)」により承認されているこの検査法は、腕から少量の血液サンプルを採取して、TBI後に生じる特定のタンパク質を分析して行うもので、15分以内に結果が示されるそうです。

「脳損傷の評価は複雑であり、TBIの疑いで診断を受けた患者の約半数の症状が見過ごされているという研究結果もあるほどです」と、プレスリリースの中で説明しているのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経外科で副院長を務めるジェフリー・マンリー博士です。

「脳震盪検査を予め行っておくことが、頭部を負傷した後の検査の精度を上げることへとつながるので推奨されています」。 

◇脳震盪と診断されたら、どうしたらいい?

脳震盪と診断された後は、その次のステップが非常に重要な意味を持つことになります。回復のためには安静を心掛け、身体と精神とを十分に休めることが必要になるのです。

高い集中力を求められる活動などは自粛すべきだと、「米国疾病予防センター(CDC)」は提言しています。さらに、以下のガイドラインに従うことが回復の役に立つでしょう:

  • 十分な睡眠をとる
  • スマートフォンやパソコンなど、眼精疲労の原因となる活動を制限する
  • スポーツなど身体に負荷のかかる活動を避ける
  • アルコール摂取を控える
  • 症状を職場に報告し、仕事と通院のスケジュール調整を行なう
  • 日常生活は一歩いっぽ、慎重に戻すことを心掛けましょう

Source / Men's Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。