今回の記事作成にあたり、精神科医で米国・コロンビア大学精神医学臨床准教授のドリュー・ラムジー氏に監修協力をお願いしました。また、ラムジー氏の著『うつ病と不安障害に、食事で打ち克つ』の一部を、許可をいただいた上で抜粋しています。 

現役の精神科医が記事を監修

 精神科医としての教育を受ける中では、患者の食生活に注意を払うように教えられたことなどありませんでした。ですが医者となって、そこに目を向けてみると、実際に数多くの驚くべき変化を目の当りにしてきました。まさに発見です。食生活を多少なりとも見直し、それを実践すれば、患者の中には体調が目に見えて良くなる方もいたのです。さらに、ときには投薬の量を減らすこともできたのです。

 皆さんの中には、「うつ病の症状が食生活で改善する」などと聞いても、出来過ぎた話と思われる方のほうが多いかもしれません。ですが、考えてみてください。人間の脳は極めて複雑な機能を持っています。その重さは1.3~1.4kg程度しかないに、一日の摂取カロリーの約20%を消費しているのです。

 そんな脳が正常に機能するためには、脳細胞、神経伝達物質、絶縁体である白質などを健全に保つために、その構成要素や補助分子となる栄養素が必要不可欠になることは明白ではないでしょうか。だからこそ、精神疾患の治療と予防において、栄養状態を正しく評価することは重要なことだと考えるようになったのです。

うつ病と食事の関係性

 そして今日、多くの医師が地中海式の食生活を推奨しています。それは、果物・野菜・魚介類・全粒穀物、そして健康的な脂質を中心とした食事を摂ることによって、「心の健康を支えるために必須とされる栄養素を十分に得ることができる」と考えられているからなのです。

 そこで私(筆者ラムジー氏)個人の意見としては、なにか特定の食生活のスタイルを推奨するというのではなく、「脳の健康に寄与する栄養素を多く含む食材を、(本記事後半で)カテゴリーごとに適正な量を摂る」ということをおすすめしたいと考えています。

 現在では健康的な食生活が、いかに精神に良い作用を及ぼすかについてのエビデンス、つまり科学的な根拠が次々と明らかになっています。地中海式の食生活が心臓発作や脳卒中のリスク低減につながることが広く知られるようになったのは、今から60年以上前に米・ミネソタ大学の生理学者アンセル・キーズ博士が1958年から始めた、「世界七カ国共同研究」の結果を発表して以来の成果になります。その後、認知症やうつ病の発症率を抑える効果が期待できることも報告されています。

 研究はさらに進み、食生活の改善がうつ病や不安障害に対して効果的であることを示すデータが積み上げられていきます。しかしそれが「標準治療」となり得ることを示す(無作為化比試験などの)臨床研究がためされることはなく、精神科医にとっては食事療法を治療として組み込むことが困難な状況が続きました。

 しかし2017年、オーストラリアのディーキン大学医学部のフード&ムード・センターによって初めて医学的な研究発表がなされます。 

▼健康的な食生活が精神に良い作用を及ぼす医学的な研究

 栄養精神医学を牽引するふたりの研究者、フェリース・ジャッカ氏とマイケル・バーク氏は、重度のうつ病性障害を持つ67人の患者(その多くが薬物治療や対話療法の経験者)に対し、12週間におよぶ地中海式の食事療法や、「ビフレンディング(befriending)」と呼ばれる人間関係や交友関係を用いたセッション(うつ症状の改善に役立つ人間関係を提供する社会的支援)を行ない、その効果を研究報告にまとめたのです。

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 栄養管理を受けた患者の3人に1人に、うつ症状の完治が認められました。以降、様々な研究によって食生活の改善がうつ症状を軽減させるか、あるいは完治させるという結果が示されています。

 「驚くべき研究結果をいくつも得ることができました。そのなかで最大のものは、例えば中等度から重度のうつ病を患う人であっても、食生活の改善は可能であるという事実です」と、ジャッカ氏は述べています。

 食生活の改善が精神の健康に寄与するという素晴らしい結果が示されたのです。

 ジャンクフードの替わりに脳を活性化させる栄養素を摂取するように心掛けることで、脳の健康と機能とを向上させることが可能であることが分かりました。脳を鍛え健康に保つためにどのような食事をすべきか、それを最終的に決定するのはあなた自身なのです。 

うつ病と不安障害に打ち克つための食品リスト

 以下に挙げるグループに属する食材には、1)腸内の善玉菌のエサとなる貴重な栄養素、2)炎症を抑える効果のある栄養素、3)脳の成長を促す栄養素などが含まれています。

 それぞれのグループのなかから自分の食事に合う食材を選び、なるべく多く食べるように心がけましょう。 

【1】葉菜類(葉物野菜)

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 栄養密度とカロリーの比率を考えたとき、葉物野菜ほど効果的な食材はありません。

 ホウレン草、ケール、ルッコラ、コラード、ビーツ菜、チャードなどは食物繊維を豊富に含んでいます。ビタミンCにはフリーラジカルや活性酸素による脳細胞のダメージを抑える働きがあり、ビタミンAは脳の成長や適応力に欠かすことができません。

 また葉酸は、新たな細胞の生成を促します。

■理想の目安量:刻んだ葉菜類を、毎日1~2カップ分が推奨されています。

■おすすめの食べ方:スムージーに混ぜたり、スクランブルエッグにクレソンを加えたりするのも良いでしょう。

【2】果物/緑黄色野菜

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 色とりどりの果物や野菜を食べることで、そこに含まれている重要な栄養素の数々と、腸内の善玉菌の餌となる食物繊維を上手に摂取することができます。

 例えば、茄子やブルーベリーのような紫色の食材に含まれる栄養素には、優れた抗炎症作用があるのです。オレンジ色の野菜類にはカロテノイド(ビタミンAの前駆体)が豊富に含まれています。

■理想の目安量:毎食、半カップ以上の緑黄色野菜や淡色野菜を食べるようにしましょう。

■おすすめの食べ方:焼いたり、炒め物に加えたり、食べ方は様々です。トマトやパプリカは、パスタソースやシチューの具としても最適です。

【3】魚介類

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 脳の神経成長因子を刺激し、炎症の抑制にも活躍する長鎖オメガ3脂肪酸の摂取をサポートしてくれるのが魚介類です。ほかにも亜鉛、ヨウ素、セレンなどのミネラルを豊富に含んでもいます。またアサリなどの二枚貝にはビタミンB12が大量に含まれています。

■理想の目安量:週に2~3回は魚介類を食べるように心がけましょう。

■おすすめの食べ方:魚のタコスやムール貝のパスタも絶品です。

【4】ナッツ類/豆類/種子類

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 食物繊維、亜鉛(脳内の神経伝達や適応を調整)、鉄分(灰から脳へと酸素を運ぶ赤血球に必要なタンパク質を生み出す)など、脳に必要な栄養素が豊富に含まれています。さらに、健康的な脂質とタンパク質も多く含みます。

■理想の目安量:毎日、最低でもひとつかみ分。

■おすすめの食べ方:クルミは朝のスムージーに、レッドビーンやブラックビーンなどの豆類ならスープやシチューの具としても完璧です。

【5】肉類

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 私自身、かつてベジタリアンだったこともあり、肉食に抵抗を覚える人の気持ちも理解できます。肉類は絶対に口に入れないという人もいるでしょうが、それならそれでも構いません。

 しかし、肉類には鉄分、タンパク質、ビタミンB12が豊富に含まれています。

 また、私たちの気分を左右するセロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミンといった化学物資鵜の生成に、重要な役割を果たしているのです。

■理想の目安量:週に3食ほど(必須ではありません)。

■おすすめの選び方:牧草で育った牛の肉は、穀物飼料で育てられた牛の肉よりも低カロリーで、脳に良い脂肪を含んでいます。

【6】卵/乳製品

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 卵にはタンパク質、ビタミンB群(脳内の化学物質を調整する)、コリン(ビタミンB群に属する栄養素で、不安障害の軽減に役立ちます)など、豊富な栄養をが含まれています。また、ヨーグルトやケフィアなどの発酵乳製品には善玉菌が大量に含まれています。

■理想の目安量:週に卵5~7個。乳製品3~5食分(発酵乳製品が理想的です)。

■おすすめの食べ方:朝・午後のおやつをヨーグルトにしても良いでしょう。

Source / Men’s Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。