《目次》

◇新たな研究が明かす、うつ病に対する興味深い発見

メンタルヘルスの専門家は何年も前から、気分を高める手段として“エクササイズをやること”を推奨してきました。ですが、定期的なエクササイズには実際にうつ病を防いでくれる可能性があることが、新たな研究による結果で示唆されています。

これは学会誌である、『JAMA サイカイアトリー』に掲載された新しい研究から導き出された推察です。研究者たちはこの研究のために、少なくとも3年間の追跡調査を行い、19万1130人の成人を対象にした15の調査から得られたデータを分析したということ。

そこで研究者たちは、調査に参加した人たちの運動レベルとうつ病になる割合を追跡し、推奨された運動(中程度の激しさのエクササイズを週に150分)を実際にやった人たちと、それができなかった人たちの心理状態を比較しています。

すると、中程度の激しさのエクササイズ(自転車、水泳、早歩きなどが含まれる)を週に最低150分やった人たちは、あまり運動をしなかった人たちに比べ、うつになるリスクが25%低いという結果が示されました。

また、週にやった運動が推奨された量の半分であった人でも、その効果は示されました。その場合の参加者では、うつになるリスクは18%低くなるという計算が出ています。

この発見は、「例え公衆衛生上で推奨しているレベルを下回った分量でも、肉体を動かすことから得られるメンタルヘルス的なメリットは顕著に得られるであろうことを示している」と研究者たちは結論に記した上で、「従って医療関係者は心の健康を向上させるためにも、肉体的な運動をポジティブに奨励すべき」と付け加えています。

◇エクササイズが、どのようなカタチでうつ病防止に役立つのでしょうか? 6人の心理学・医学博士が解説

なぜエクササイズがうつ病防止に役立つ可能性があるのか? この研究では、具体的な分析を行っていません。ですが、専門家たちはいくつかの考察を述べています。

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「運動は快感をもたらす化学物質、エルドルフィンを脳内につくり出してくれる」

通常、うつ病の治療はトークセラピーと抗うつ剤を組み合わせて行われるものです。ですが既に、ライフスタイルセラピーとしてエクササイズを取り入れることを推奨している専門家をいます。その一人が、『Finding Peace When Your Heart is in Pieces』の著者で心理学博士のポール・コールマンです。

「エクササイズを行えば、快感をもたらす化学物質のエルドルフィンを脳内につくり出されることが報告されています。うつ病の症状がある人たちは、『自分の行動は、何の役にも立たない』と感じる傾向にあるため、そこから活動的でなくなっていきがちなのです。なので私ちは、エクササイズを“自分は変われる”と言い聞かせるための手段とするようにすすめます。なぜなら、“自分は変われる”という考えを持つことこそが、楽観的な思考へと向上するのに大いに役立つからです」と、コールマン博士は説明します。

「身体の血流が増すことは脳の成長につながり、さらに変わっていく能力をサポートするはず」

さらにエクササイズを行うことで影響されるのは、エンドルフィンだけではありません。

「運動は気分をつかさどる神経伝達物質のセロトニンや、快感や意欲を与える神経伝達物質のドーパミンにも影響を与える可能性があります」と説明するのは、ニューヨーク・プレスビテリアン・ホスピタルの准教授で、「How Can I Help?」(ポッドキャストのプログラム)のホストを務める医学博士ゲイル・サルツです。

さらに、「エクササイズを行えば、自然と身体の血流が増します。なので脳へ運ばれる酸素量も増え、それが脳の成長につながりるでしょう。そして、変わっていく能力をサポートすることも強く期待できるというわけです」と、サルツ博士は語っています。

「満足感や達成感が
うつ病防止に一役買う」と言う医学博士も…

米国・ラトガーズ大学行動医療ケアの医療部長で医学博士のキース・R・ストーウェルは、「その人の日常の行動」からもその説明がつくと言います。

「何らかの活動に参加することで、人はより生産的な気分となり、ある種の計画性が得られるはずです。それが満足感や達成感へとつながっている点なども、うつ病防止に一役買っていると考えられるでしょう」と、ストーウェル医学博士は説明します。

またエクササイズは、「ジムに入会したり、フィットネスのクラスに参加したり、同じ趣味を持つ人たちとトレーニングメニューについて話し合うなど、社会的なつながりを持つ機会をつくり出してもくれます」と言うのは、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部精神科の助教で心理学博士のヒラリー・アモンです。「エクササイズは、ストレス対策としても利用することができるます」と付け加えています。

「週に3時間の運動を行う人はうつになるリスクが17%低くなる」と言う医学博士も…

「エクササイズの習慣がうつ病になるリスクの軽減につながることを示した研究は、ほかにもある」と指摘するのは、『Family Fit: Find Your Balance in Life』の著者で臨床心理学者の資格を持つ医学博士のジョン・メイヤーです。

彼が引き合いに出したのは、「身体を動かさない人に比べると、少なくとも週に3時間のエクササイズを行う人はうつになるリスクは17%低くなる」と2019年に発表されたハーバード大学の研究です。

「私たちの身体は数千年の歳月をかけて、“じっとしている”ようにではなく、“活動的に動き回る”ように進化してきているのです。私たちの身体は、行動するようにつくられているというわけです。そのため私たちの身体には、アロスタティックバランスまたはアロスタティック負荷(=ストレスによる心身の疲弊)と呼ばれるものがあって、動くこと(運動)がそのバランスの維持に役立っているという研究もあります。つまり、心と身体には直接的なつながりがあるわけで、身体のバランスが心と気分のバランスを保ってくれるというわけです」と、メイヤー医学博士は説明してくれました。

「運動は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と同じくらい効果的」と言う心理学博士も…

「軽度から中程度のうつ症状の場合、エクササイズが選択的セロトニン再取り込み阻害薬(うつ病治療に使われる一般的な薬)と同じくらい効果的であることを示すデータは、ずっと前からありました」と説明するのは、ニューヨーク大学のランゴーン医療センターの臨床准教授で、ポッドキャストの「Mind in View」で共同ホストを務めている臨床心理学者で心理学博士のテア・ギャラガーです。「脳に与えるエクササイズの影響力には、とてもパワフルなものがあります」とも言います。

「ウォーキングやランニングの動きのパターンが、気分に良い影響を与える可能性」と言う専門家も…

「どんな運動であっても、気分に大きな影響を与える可能性があります」と言うのは、シカゴのスカイライト・カウンセリング・センターのオーナーで『You Are Not Crazy: Letters from Your Therapist』の著者でもあるセラピスト、デヴィッド・クロウです。

「左右の脚を交互に繰り出すウォーキングやランニングの動きのパターンでさえ、自分の身体をきちんとコントロールできているという気分(わずかとも言える高揚感)に役立っている可能性があります。その逆に、惰性や1カ所に留まっていることは停滞感や行き詰まり感に関与している可能性も否めることはできないでしょう」とのこと。

「うつが進行するリスクを軽減するには、どんな運動でも役に立つ可能性が大いにあります」と、コールマン博士も言っています。そして、「鼓動が激しくなるようなものである必要はありませんが、血流がよくなるものをぜひ」と付け加えています。

◇うつ病を防ぐ運動は、どのような人に役立つのでしょうか?

「うつ病になるリスクを軽減するエクササイズは、すべての人に役立つと言っていいでしょう」と、コールマン博士は言います。「なぜなら、ほとんどの人は『毎日、さまざまなストレスにさらされている』と答えるに違いないからです。

「このことは、すべての年代の人にとって大いに役立つものです」と説明します。とは言え、身体的な制限や健康上の問題がある人もいるでしょう。そのように定期的なエクササイズを行うことが困難は人は、まずはかかりつけ医に相談することをストーウェル医学博士はすすめています。

また、「エクササイズのメニューに関しては、自分にできることをやるようにしていください」と、サルツ博士は推奨しています。

研究では、1日に10分から15分の早歩きでも有効であることが示されています。それくらいなら、ほとんどの人ができるでしょう。完璧を目指す必要もありません――少しのウォーキングでも何もやらないよりはマシです。『ランニングやエクササイズを1時間やるのなんて無理だから、何もやらない』なんていうのは、可能な限る避けるべきです」とのこと。

◇注意点:運動のみが、うつ病の防止や治療を行う唯一の方法ではない

とは言え、「エクササイズを行うことだけが、うつ病の防止や治療を行う唯一の方法であるとみなすべきではありません」と、ギャラガー博士は強調しています。「私がいつも言っているのは、「規則正しい食事」「推奨されている長さの睡眠」そして「エクササイズ」です――これらのすべてが、心の健康の基礎を築いてくれることに関与するということ。ですが心の健康を保つためには、もっとたくさんものが必要になるかもしれません」とも言います。

◇うつ病とは、正確には何なのでしょう? うつ病の症状11項

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うつ病とは、否定的な考えや感情を持続的に引き起こす精神状態のことであり、「大うつ病性障害」とも言います。「アメリカ国立精神保健研究所(NIMH)」によると、うつ病の人には以下のような症状が出ることがあるとのこと。

  • 持続的な悲しみ、不安、あるいは“空虚”感
  • 絶望または悲観的な感情
  • 怒りっぽさ、欲求不満、落ち着かなさなどの感情
  • 罪悪感、無気力感、あるいは無力感
  • 趣味や活動への関心や喜びの喪失
  • 活力の減少、倦怠感、あるいは“減退”感
  • 集中、記憶、あるいは決断の困難
  • 不眠、早朝覚醒、あるいは寝過ぎ
  • 食欲の変化、あるいは意図しない体重の変化
  • 痛み、頭痛、けいれん、原因不明で治療の効果がない消化不良
  • 自殺未遂、または死や自殺の考え

例えば「全米不安うつ協会(以下、NIMH)」によると、うつの影響を受けている成人アメリカ人は1610万人以上――18歳以上の人口においては全体の約6.7%――にのぼります。

◇では、どんなときに医者に診てもらえばいいのでしょう。

「もし、自分を傷つけたいと思ったり、自殺することが脳裏に浮かんだりしたときは差し迫った事態となります。その場合は、できるだけ早くケアを求めるべきです」と、ストーウェル医学博士は言っています。

NIMHによると、うつ病と診断されるには(上記の)うつ状態を示す症状の5つが、毎日ほぼ1日中、それが少なくとも2週間続いている場合に下されるというのが、一般的な診断の流れということです。

もし自分がうつ病かと思ったら、医療機関に素早く相談すべきです。一般的な医師であればうつ病の診断が可能ですし、治療を行ったり、場合によったら心理学者や精神科医のようなメンタルヘルスの専門家を紹介してくれるでしょう。

「気分が落ち込んで、あなたの日常生活に影響を及ぼしているようであれば、専門家に相談したくなるはずです。悲しい気分の日は誰にだってありますが、それに覆(おお)いつくされているとくは大きな問題で、このような状態は『時が解決してくれる』などとは思えませんので」と、ストーウェル医学博士。

◇まとめ

「自分がうつに苦しんでいるのかどうか? よくわからないという人は、とにかく声を上げてみることです」と、アモン博士は言います。「自分の気分の変化に気づいていたり、心配しているという場合は、それについて医師と積極的に話し合うのがよいでしょう。自分の心配事を医師に相談するのに、不適切なときなどありません。いつでも相談してください」とのこと。

日本での、悩み相談窓口(電話やSNSでも…)

  • よりそいホットライン(24時間対応): TEL 0120-279-338(フリーダイヤル・無料) 岩手県・宮城県・福島県からの場合は TEL 0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)
  • 生きづらびっと:LINE「生きづらびっと」友達登録
  • こころの健康相談統一(対応の曜日・時間は都道府県によって異なります): TEL 0570-064-556
  • 厚生労働省が推奨する電話相談窓口総括:公式サイト

Source / Prevention US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。