「より健康的な生活を送る」という目標は、一般的な新年の抱負です。そして、1月の1カ月間はアルコールを断つ「ドライ・ジャニュアリー(断酒の1月)」を実践して、新たな1年をスタートするという人も多いのではないでしょうか。

新年の始まりは、
飲酒習慣を見直す
良い機会です。

年末年始の集まり続きで飲み過ぎ…という人も多いのではないでしょうか。また、寒く、ホリデー期間のパーティ気分もなくなった1月は、気分が滅入りがちという人もいるはず。そんな状態をリセットして元気を取り戻すには、お酒を控えめにすることが一番かもしれません。

このように感じているのは、あなただけではないようです。米調査会社モーニング・コンサルトのアンケート調査では、15%の人が「2023年に『ドライ・ジャニュアリー』に挑戦する予定だ」と答えており、そのうちの70%が「実際に1カ月間禁酒をした」と答えています。

認定臨床ソーシャルワーカー(LCSW)であり、メンタルヘルスの遠隔保健プログラム「ミッション・コネクション」のエグゼクティブ・ディレクターを務めるアシュリー・ペナ氏は、「1月はアルコール依存と闘っている人々にとって、意義深い一歩となる可能性があります」と述べています。「アルコールとの闘いを認識するという、立ち直りに欠かせない基本的な面が明らかになるから」ということ。

禁酒する男性
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しかし、このドライ・ジャニュアリーの効果があるのは、酒量の多い人ばかりではないようです。給食サービス大手エリオール・ノースアメリカのウェルネス・ディレクターで登録栄養士(RDN)のシェリー・ネルソン氏は、そう指摘しながら次のような見方を示しています。

「ドライ・ジャニュアリーは、普段から飲酒をしない、または控え目にすることを習慣化するのに役立ちます。このことがきっかけとなって、一部の人にとっては長期的な行動の変容が可能になるかもしれません。禁酒によって得られる具体的な健康メリットによってやる気は増して、禁酒を継続したり、一年を通して酒量を減らしたりできる人もいるかもしれません」

完全に「ドライ(禁酒)」にするにせよ、少しならOKとする「ダンプ(湿り気のある)・ジャニュアリー」にするにせよ、酒量を控えることによって健康へのメリットは大いに期待できると言えるでしょう。

実行するにあたってペナ氏は、自身のアルコール摂取量を客観評価することを提案しています。これは、飲酒を完全に断つべきか、摂取量を徐々に減らすべきか、を判断する指針になります。

ペナ氏によれば、かなり頻繁にお酒を飲む人には禁断症状が出る可能性があり、そのことが不快な体験になってしまうので、ドライ・ジャニュアリーを安全に行うには専門家からの「ガイダンスが不可欠」と言います。

ここでは、ドライ・ジャニュアリーが健康面にもたらす効果と、少しでも実行しやすくなるコツをご紹介しましょう。

ドライ・ジャニュアリー
とは?

禁酒する男性
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イギリスの非営利団体Alcohol Change UKが提唱したムーブメントで、公式に「ドライ・ジャニュアリー」が初めて行われたのは2013年ということ。その年、約4000人がこの運動に参加し、1カ月間アルコールを一切飲まないことを誓いました。もちろん、「ドライ」とは1カ月間の完全禁酒です。「チートデー(例外の日)」はありません。2017年には参加者が500万人超に急増したとされており、このキャンペーンの高まりはアメリカにも波及したそうです。

参加した人々は、「1カ月間の禁酒により、脂肪肝や血糖値の上昇など定期的な飲酒による身体への悪影響を可逆的に改善できる」と証言しており、「飲酒を控えることで睡眠が改善され、エネルギーが高まる」という実感も得ているようです。

ドライ・ジャニュアリーの
メリットは?

アルコールを断つ(または少なくとも減らす)ことは、心と身体に多くの恩恵をもたらすとされています。「ドライ・ジャニュアリー」を実践することで得られる健康上のメリットを、以下にいくつか挙げてみましょう。

情緒の改善

禁酒をすると、最初は少しいらだちを感じることもあるかもしれませんが、「長期的には情緒が改善する」と言われています。

ペナ氏は、「常にアルコールを摂取していると、気分の変化を起こす物質に頼らずに自身の情緒を正しく認識する能力が衰える」と説明しています。

そこでアルコールを断つことで、頭がすっきりし、考えたくないことを考えてしまう“侵入思考”が減って、感情を調整しやすくなるとのこと。これによって気分の落ち込みも少なくなり、日常のタスクもこなしやすくなる、そして人間関係の改善などの効果も期待できます。

よく眠れるようになる
就寝している男性
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一説では、「アルコールで寝つきがよくなる」と考えられていることも多いようです。ですが、2013年に行われた研究のレビューによると、睡眠の初期ではアルコールが入眠を早め、深い眠りを導く可能性はあるものの、その後の眠りが妨げられる可能性が高いこともわかりました。

研究の共著者で睡眠の専門家であるクリス・イジコフスキー博士は声明の中で、「一晩の睡眠全体でみると、アルコールは概して睡眠の改善には役に立たないと言えるでしょう。最初の眠りは深いかもしれませんが、その後乱れます」と指摘しています。

「さらに言えば、アルコールによる深い睡眠では、いびきや無呼吸などが起きやすくなるでしょう。このような理由から、『アルコール摂取で良い睡眠が得られる』と期待すべきではありません」


通年でも飲酒量が減る

禁酒して初めて、飲酒の頻度や量に気づくのかもしれません。

適度な飲酒は、2020年度版の「米国民向け食事ガイドライン」では「女性は1日1杯」「男性は2杯まで」とされています。日本の場合は厚生労働省によれば、“節度ある適度な飲酒”として「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、1日平均純アルコールで約20g程度(例:ビール中瓶1本、清酒約1合)」とされており、「アルコール代謝能力の低い人や女性、65歳以上の高齢者などにおいてはそれよりも少ない量が適当」としています。

が、飲酒は悪いことばかりではありません。実際、「適度な飲酒は心臓病のリスクや死亡リスクの低下と関連している」とも言われています(ただし「全く飲まない」というのが、健康的な選択肢であることに変わりはありません)。

それでも、1カ月間の禁酒で通年の飲酒量を減らせる可能性があります。「ドライ・ジャニュアリー」を実践した成人に関する2016年の調査研究では、「対象者の飲酒回数および飲酒時の摂取量がともに、半年後も減っていた」ということが明らかになりました。

ですが結局、酒量を控えるのに適した方法ではないかもしれません。2月1日になった途端に再び、これまでの飲み過ぎ習慣に戻る…というのも望ましいことではありませんので。

持続可能な変化をもたらすような計画もなく、単に1カ月間禁酒するよりも、常日頃から1日1~2杯までに制限するほうが健康的な飲酒習慣を身につけるためには望ましい方法なのかもしれません。

内臓をいたわることになる
お腹を押さえる男性
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アルコールの分解には、胃や膵臓などいくつもの臓器が関与しています。しかし、アルコールの分解で最も負担がかかるというのは肝臓です。

飲酒を繰り返す生活をしていると、脂肪肝になる恐れがあります。ワシントン大学の研究者であり肝臓専門医であるロトーニャ・カー博士によると、「脂肪肝というのは、飲酒量がガイドラインの推奨量を超えている人によく見られるものです。そして禁酒あるいは酒量を減らすことで、回復をもたらすというエビデンスもある」とのこと。

研究では、「脂肪肝は、可逆的な病態でアルコールを断つことで正常化し、生存率が向上する」という結果が示されています。カー博士は、「肝臓は非常に寛容な臓器で、損傷の原因、つまりこの場合は、アルコールがなくなれば自然治癒するのです」と述べています。

「ドライ・ジャニュアリー」を行ったからといって、夜な夜な飲酒した過去の事実を帳消しにできるわけではありません。とは言え、良いスタートにはなるでしょう。

また、気をつけておきたいのは、「リスクがあるのは肝臓だけではない」ということです。飲み過ぎは心臓、皮膚、陰茎、筋肉など、身体全体に悪影響を与えます。

代謝が改善

2018年に行われた研究(1日平均2.5杯の中・多量飲酒者が対象)では、1カ月間の禁酒がもたらす影響について調査されました。食事や運動の量を変えなくても、被験者には、血圧やインスリン抵抗性の低下など多くの改善が見られました。これらの改善は血糖値の調節や糖尿病リスクの軽減に重要なものです。被験者はまた平均4.5ポンド(約2キロ)減量し、がん関連増殖因子の減少も見られました。

また、6~8カ月後も被験者の多くがアルコール摂取量の制限を継続していました。

ネルソン氏は、「観察研究では飲酒量が中~多量の人が1カ月禁酒すると、血圧、体重、インスリン抵抗性が改善し、がん関連増殖因子が減少する可能性があることが示されています」と述べています。

飲酒をしなくなる

学術誌『ジャーナル・オブ・ヘルス・サイコロジー(Journal of Health Psychology)』に掲載されたある研究では、「ドライ・ジャニュアリー」に成功したグループを対象に、禁酒終了1カ月後と6カ月後の飲酒習慣について追跡調査を行いました。その結果、対象者の1週間の平均飲酒量は大幅に減少しており、1週間のうちの飲酒日数も減少していたのです。

この挑戦に成功する前、参加者の「飲み過ぎで酒に酔った」回数は、平均で1カ月約3.4回でしたが、半年後は2.1回に減っていました。

ペナ氏は「『ドライ・ジャニュアリー』は多くの人にとって、新しい健康の旅へのスタートとなることが多く、アルコールがなくても幸福感が高まることがわかると、長期的な断酒への道を歩むようになります」と語っています。

自分の飲酒パターンと、『なぜ“もう一杯”に手が出てしまうのか?』を意識することは、飲酒を習慣ではなく自主的な選択にするのに役立つ」と同氏は指摘しています。そうすれば、長期的にアルコールとの付き合い方を改善できるとのこと。

ドライ・ジャニュアリーを
もっと簡単に行う方法

「ドライ・ジャニュアリー」の実践に正解はありません。ネルソン氏によると、1月1日から禁酒に成功する人もいれば、軌道に乗るまでに数日の猶予が必要な人もいます。

同氏は、「自身が過去にどのような方法で行動を変えることに成功したかを考え、そのやり方に従ったほうがよいでしょう。行動を変えようとしても過去にあまり成功したことがない人は、別の方法を試したほうがいいかもしれません」とアドバイスしています。

「ドライ・ジャニュアリー」を、少し楽に行える方法をいくつかご紹介しましょう。

モクテルを試してみる
ジュース
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アルコールでなくとも、何か飲んでいれば人との付き合いの場を楽しむことができるはず。つまり、グラスの中身を変えるだけでOKです。現在は風味のよいアルコール代替品がたくさんありますので、ノンアルコールのカクテル「モクテル」をつくるのも楽しいものです。また、新鮮なフルーツやジュース、その他のフレーバー入りのセルツァー(炭酸水)を是非つくってみましょう。

ノンアルコールのビールやワインを飲む

驚くほど味のいいノンアルコールビールや、ノンアルコールワインも増えています。ハイネケンやラグニタスなどの定番ブランドからも、ノンアルコール製品が出ています。

CBDドリンクを試してみる

CBD(カンナビジオール)入りの飲み物もあります。中には味も良く、健康にも良いものもあります。

飲酒への誘惑をなくす

「人によっては、飲酒の誘惑をなくすことも不可欠だ」と、ネルソン氏は指摘しています。具体的には「自宅にアルコールを置かない」「バーやナイトクラブなどの飲酒が一般的な場所には行かない」など。「目に見えなければ、思いつかないものです」と、同氏は語っています。

趣味に没頭し、運動を増やし、あなたを応援してくれる協力的な人たちとともに過ごしましょう。そして、もし1月に少しお酒を飲んでしまったとしても、神経質になることはありません。また明日から始めればいいのですから。

「ドライ・ジャニュアリー」の実行が難しい、あるいは禁酒のために特別な助けが必要というのであれば、専門家に相談するか、専門の医療機関やサポートグループなどを利用するのも一つの手です。

Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Men's Health US