大人になってからの私(筆者、ダニエル・ドゥーマス)の睡眠は、科学的かつ生理学的に言えば、かなりヤバい状態が続いていました。夜更かしに早起き…午後にはカフェインを大量摂取し、夜遅くまでカクテルを飲む生活です。四度目の食事も、真夜中のスナックも欠かせませんでした。眠りにつくためのお気に入りの方法は、何も考えず限界までスマホをスクロールすることでした。
そして寝不足の翌日は、「明日こそは」「次の週末こそは」と自分に改善しようと誓います。土曜日や日曜日になれば、少し朝寝坊できることもあるのですが、そうでないこともあります。そして月曜日になると、また同じことの繰り返しとなるわけです。自分がどれだけ睡眠をとっているのか、あるいはとっていないのかなども気にせず、ただ単に「いつもグッタリして疲れているのも、生きる上で仕方のないことだ」と受け入れていたのです。
よくある話かもしれません。皆さんの中にも、これと同じような思いをしている人もいるのでは?
それが医学的な障害からであれ、仕事のスケジュールの都合上や24/7(毎日24時間・週7日ずっと、24時間年中無休の)ライフスタイルに関連するものであれ、すべてを含めて現在のアメリカでは睡眠不足が蔓延しているのです。
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によれば、「アメリカの成人のうち70%が、毎月少なくとも一晩は十分な睡眠をとっていない」という報告をしています。またさらに、「毎晩のように十分な睡眠をとっていない人は、全体のなんと11%にも及んでいる」とも報告されています。研究によると、この問題はあらゆる社会経済階級に影響を及ぼしますが、マイノリティと労働者階級が特にその影響を受けていることが数値で明らかになっているということです。
寝不足が続くと、どんな気分になるのか? この感覚をいままで味わったことのない人は少ないでしょう。イライラしたり、集中力や記憶力が低下したり、簡単な頼みごとですら耐えられなくなります。つまり、自分らしくいられなくなってしまうというわけです。赤ん坊が生まれたばかりの親に、何週間、あるいは何カ月も睡眠不足が続くとどうなるか訊いてみると、不安やうつ、慢性的な体調不良など、あらゆる問題を挙げられるはずです。
睡眠不足が生涯続くと、致命的な健康問題につながる可能性があることを示す証拠も増えてきています。ハーバード大学が進めた一連の研究では、肥満、心血管疾患、糖尿病、認知症といった問題も報告されていました。
ちょっと恐ろしいですよね? 私は41歳ですが、「心臓発作を起こしたり、頭がおかしくなる確率を高めているかもしれない」という事実を知って、気が重くなりました。ですが、どうすればいいのかわかりません。自分の限界はわかっています。パーソナルトレーナーをつけるまで、フィットネスの目標を達成することができなかったくらいですから…。友人や家族、同僚にも話を訊いてみたのですが、十分な睡眠を得られている人は誰一人としていませんでした。
そこで私は、最後の手段としてスリープコーチを雇うことにしたのです。
正確には違うのですが、似たようなものです。ジャスティン・ロスリングショーファー氏は、フォーチュン500のCEO、プロスポーツ選手、スタートアップの創業者など、生産性の高い人たちがよりよい人生を送れるよう支援するサービス、Own It Coachingの創設者です。
彼のアプローチはデータに基づいたホリスティック(身体面だけでなく、精神や霊気などを含めた全体を治療の対象として捉える医療のこと)なもので、栄養、運動、マインドフルネス、睡眠など、あらゆる側面を改善することに重点を置いています。「心と身体のバランスがとれていれば、どんなことでもうまくいく」と、ロスリングショーファー氏は言います。私はCEOではありませんが、ロスリングショーファー氏はこの案件を引き受けてくれました。そしてデータを分析し、どこを改善すればよいか?を考えてくれたのです。
最初のZoomミーティングでロスリングショーファー氏は、私のライフスタイルについて尋ねてきました。彼はプロスポーツ選手のような迫力と集中力を持ちながら、優秀な医師のような忍耐力と理解力を兼ねそろえています(それもそのはず、彼はスポーツパフォーマンスと人間生物学の修士号を持ち、NHL<ナショナルホッケーリーグ>とNCAA<全米大学体育協会>でパフォーマンスディレクターとして働いた経験があります)。
週1回のHIITトレーニング、それ以外は有酸素運動、ウェイトトレーニング、ヨガなど、私のフィットネスルーティンを説明すると彼は満足したようにうなずきました。寝室の状態(涼しくて静かで快適)と照明(暗めで調光可能)についても、いい感じだと認めてもらいました。
それから食事や飲酒についても訊かれました。これに関しては、ちょっとまずいです。私は普段から夕食が遅く、お酒も飲み過ぎています(『Esquire』の編集者ですから、仕方ありません)。就寝間際の飲酒は身体の消化器系に負担をかけ、これが睡眠を妨げるそうです。
「典型的な日を想像してください。最後にカフェインを摂取するのはいつになりますか?」と訊かれ、私は「毎日午後4時にエスプレッソを飲むのがお気に入りの日課のひとつ」と話しました。すると彼は、非難するように首を振ります。
「カフェインの半減期は5時間から7時間です。例えば午後4時に180ミリグラムのカフェインが入ったカプチーノを飲むと、夜の11時にはまだ90ミリグラムのカフェインが体内に残っていることになります」
その後の話し合いの結果、私は大好きな夕方のエスプレッソを、カフェインレスのコーヒーに置き換えることにしました。
さらに、フィットネスルーティンにちょっとした手を加え、ジョギングに全力疾走を追加することも提案されました。就寝時間と起床時間を決め、それを守るようにも言われました(夜11時と朝7時に決めました)。そして、多くの人と同じようにスマートフォンを使いすぎています。就寝前にスマートフォンを使用していると、脳がスマートフォンの画面から放たれる光から、その時間を「日中だ」と錯覚してしまい、睡眠に必要なホルモンが分泌されなくなるのだそうです。
一連のコーチングを訊いた私は、「(すべてを守るのは)かなり難しそうですね」とロスリングショーファー氏に伝えると、彼は「3-2-1ルールを守ることから始めてはどうですか?」と提案してくれました。
1.「3-2-1ルール」を取り入れる
ロスリングショーファー氏によると、最適な睡眠は最適な条件下でのみ達成されるそうです。その条件とは、就寝前の3時間は飲食をしないこと(水はOK)。 寝る2時間前には仕事を中断し、メールのチェックや滞納している請求書の支払いもしないこと。1時間前にはスマートフォン、タブレット、そしてテレビなど、すべてのスクリーンの電源を切ることです。
現在の私は、この「3-2-1ルール」の3と2をほとんど守っています。でも、画面を消すのは思ったより大変でした。最初の1週間は苦痛で、誘惑に負けないよう携帯電話を別の部屋に置く必要がありした。代わりに本を読んだり、ヨガをしたり、(イギリス生まれの著作家・哲学者)アラン・ワッツの昔の講義を聴いたりしました。私の目標は、TikTokをスクロールしたり、くだらないツイートに腹を立てたりする以外の楽しみを見つけ、アルゴリズム中毒の脳を回復させることです。
時間が経つにつれそれは容易になり、数週間後には、1日の終わりに携帯電話をしまうことが楽しみになってきたのです、信じられませんよね。
ガジェットを使って睡眠を記録する
ロスリングショーファー氏は私の心拍変動(HRV)、つまり、「ミリ秒単位で測定された各心拍間の時間を知りたい」と言いました。HRVの増加は間接的ではありますが、睡眠が改善されたことを示す明らかなサインです。そんなわけで、睡眠トラッカーを手に入れることをすすめられました。
お気に入りは、レブロン・ジェームズやパトリック・マホームズといったプロスポーツ選手が愛用するフィットネスガジェット「Whoop」ということ。これは取り外し可能なモジュールが付いた黒いリストバンドで、血中酸素濃度、安静時心拍数、皮膚温度など、驚くべき量の健康データを記録することができます。Whoopが提供する総合的なデータは、私もすぐに気に入りました。アプリのデザインもよく、UIも直感的です。
強いてデメリットを上げるとすれば、Apple Watchの隣に2つ目のガジェットを装着しなければならないことと、「Whoop」のバンドは一度濡れるとなかなか乾かないことでしょうか。それでも私は「Whoop」を装着し、この記事を書くためにその少し厄介な存在と付き合うことにしました。
寝室の環境を最適化する
「寝室という空間は、“睡眠”と“セックス”の2つの目的のみで使われるべき」と、ロスリングショーファー氏は教えてくれました。寝室にはスクリーンや飲食物、仕事などを持ち込まず、気が散らないようにすること。そして室温は15〜20度程度に設定することが望ましいということ。
幸い私は、この部分をしっかりと守れています。カリフォルニアの海岸沿いにある小さなサーフタウンに住んでいるのですが、そこは一年中涼しく、静かなところです。寝室には遮光カーテンがあり、マットレスは大好きな「Casper Nova Hybrid」を使用しています。
ですがロスリングショーファー氏はひとつだけ、辛いことを言います。それは…「動物を寝室に入れないようにしてください」ということ。今では毎晩、愛犬を(とても豪華な)犬用ハウスとして使用するケースである「クレート」に入れて、寝室の外に寝かせています。
薬を検討する
何十年もの間、私は眠りにつくために“最も危険な薬物”のひとつに頼っていました。その薬とは、ブラックタールヘロインです…というのは冗談ですが、実はアルコールに頼っていました。お酒は就寝前に摂取するものとしては、最悪なもののひとつとのこと。レム睡眠を阻害し、中枢神経系を夜中に何度も目覚めさせ、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を抑制してしまうと言うのです。
私は以前、本当に眠る必要があるときや深刻な時差ボケに襲われたときに、メラトニンのサプリメントを飲んでいました。しかしながら、私はこれもやめました。ロスリングショーファー氏によると、「私たちの身体はすでにメラトニンを生成しているので、さらに追加すると短期的には役立っても長期的には悪影響だ」と言うことなのです。
アルコールとメラトニンを使えなくなったので、私は大麻、特にCBNと呼ばれるカンナビノール抽出物に注目しています。30年代に初めて発見され、40年代に合成されたCBNは、酸化したCBDからつくられた麻の誘導体です。THCを含まないので、ハイになることはありません。その使用したときは効果的面で、非常に生産的だった一日の後に感じるいつもの疲労感とは異なった、とても心地よい眠気が生じました。
SandlandはさまざまなレベルのCBNを含む舌下錠を製造しており、寝る1時間ほど前に服用します。同社は1~2錠の摂取を推奨していますが、私は半錠飲んだだけで眠くなることに気づきました。メラトニンやお酒、他の大麻で経験したようなダルさもなく、朝はすっきりと目覚めることができます。
何より素晴らしいのは、少なくとも私が知る限りでは中毒性がないことです。唯一の問題点は、アメリカにおけるCBNの合法性がグレーゾーンのままであること。多くの州では完全に合法なのですが、連邦法ではそれを含む製品や他の大麻エキスは医療用としては違法とされています。
私からのアドバイスは、お住まいの地域の法律を確認し、慎重に使用してくださいということです。
変化を実感する
午後のカフェインを減らし、運動習慣を変え、そして酒量を減らし、午後に10分の昼寝をし、就寝時間を決め、「3-2-1ルール」を守るという新しい習慣を3週間続けると、変化に気づき始めました。
最初は少しの変化ですが、日中の疲労度がなくなりました。エネルギーに満ち、脳はフル回転し、イライラすることも減りました。運動も少し楽になり、回復も早くなったと個人的には感じています。長年、私の脳を覆っていた疲労の霧が蒸発したかのようで、とてもいい気分です。
私のWhoopのデータもこれを裏づけています。Zoomでロスリングショーファー氏は、「全体的なHRV(心拍変動)が高く、身体がより良い休息を得ている証拠だ」と教えてくれました。
そして私は、ある疑問を彼にぶつけました。以前はほとんど眠らなくても、例え睡眠時間が3時間以下だとしても問題ありませんでした。しかしながら現在は、睡眠時間が6時間未満だと翌日には身体がだるくなり、機能しなくなります。それは一体なぜなのでしょうか? 「基準値が上がったからです」とロスリングショーファー氏は答えました。身体が必要な休息と回復に慣れてきているので、「睡眠不足の影響をより強く感じるようになった」というのです。
睡眠をハックする方法
より良い睡眠を得るための近道はありません。必要なのは、ライフスタイルを変えることです。例えば夜遅くまでお酒を飲まず、寝る前にスクリーンを見ないようにし、早く就寝すること。別にスパルタな生活をしているわけではありません。
今でも少しハメを外すこともあります。確かに翌朝は身体がだるくなりますが、それは「全体的に気分を良くするために支払う正当な対価だ」と考えています。
これらのテクニックは、誰にでも通用する万能の解決策とは言えません。私には効果があっても、あなたには効果がないかもしれません。私もまだ、自分の習慣に改良を重ねているところです。最近はWhoopを、より軽量なOura Ringに変えました。ただひとつ、覚えておいてください。安らかな眠りを得ることは、決して遠い夢ではないのです…。
Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。