米国で2つの注目すべき裁判が行われています。

 自責の念に駆られた各メディアの編集長たちは、裁判が行われている米国内陸部の荒野に記者を送ると言い張っていました。この2つの裁判は、選挙後に多くのコースタル・エリート(Coastal elites=自由な政治的見解をもち、ほとんどの普通のアメリカ人が持っていない利点があると考えられる米国の西部または東北部の沿岸の都市に主に住む、教育を受けた専門家集団)のお気に入りのテーマとなった「忘れられたアメリカ人」の話の対極にあるものです。

◇忘れられたアメリカ人

 実際、その「本当のアメリカ」の中には、危険思想をもつ人物がいます。それは石炭黄金時代に戻るとか、大統領がヤングズタウンの住民を大事に思って、経済エリートを引きずり降ろし、製鋼所を再開するという夢と同じくらい現実離れした思想です。銃も然りであり、今後銃がどんどん出回ることでしょう。

 1つめの裁判は、ネバダ州で起きています。長年の放牧代の支払いを拒否した、人種差別主義者のクリーブン・バンディが国有地の牧草を無料で自分の家畜に食べさせる権利を守るために、軽薄な愛国者が各地からネバダ州に集まりました。この裁判で、バンディ老人と(後に野鳥保護区を解放するためにオレゴン州に出向いた)息子のアモン、そして、ひと握りの忠実な支持者たちが、多くの連邦法違反に問われています。

 「ラスベガス・レビュー・ジャーナル」は当然のことながら、この裁判をずっと取材してきました。各地からきたガンマンの中には、これがインフォウォーズ(情報戦争)の世界のやり方で、自分の意志でやってきたと断言する者たちがいて、図らずもこの裁判を気のきいた風刺コメディに仕立て上げました。

 アイダホ住民のトッド・エンジェル被告は、自分で自分の弁護を行い、「祭り気分でした。旗が翻り、カウボーイが集まり、実に南部らしい雰囲気でした」と述べました。

 陪審員の注目を一身に集めたエンジェルは、チェックのボタンダウンのシャツという服装で、落ち着いた口調で陳述を続けました。自分たちがインターステート15の陸橋に着いたとき、水路にいた連邦当局者たちが抗議行動をする面々に、ライフルを向けていることに気づいたそうです。

 コンクリートバリアの後ろに身を伏せて、その隙間からライフルを構えているエンジェルの写真がありました。彼は10分ほどその姿勢でいましたが、それは最近手術した背中を楽にするためであったとして、「背中が痛くなったら伏せの姿勢になって連邦局の職員を狙撃中で狙えと整形外科医から言われています。これが魔法みたいに効くんですよ」と話しました。

 一方、テネシー州ではロバート・ドガートという男性がニューヨークのモスクを攻撃するために、大量の武器を集めた容疑で裁判にかけられています。自分を牧師だと言っているドガートは、ニューヨークのモスクが全米規模の殺戮を開始するところだと確信したということです。デラウェア川に毒を流すとか、ニューヨークシティへの大規模な攻撃も含まれていたそうです。「チャタヌーガ・タイムズ・フリー・プレス」紙は、次のように書いています。。

 2015年4月9日、午後11時すぎ、テネシー州シクワッチー郡シグナル・マウンテンの自宅にいたドガートは、イスラムバーグの住民がデラウェア川に毒を流すか、ニューヨークシティに大規模攻撃を開始するという懸念を抱いて興奮していた。そうした高揚はその日少なくとも3度目でありました。「だから、明日、ニューヨーク州ハンコックに行く。情報を集め、写真を撮り、市長や警察官に会ったり、色々するために」とドガートは話しています。

 ドガートは、白人至上主義地下組織が創り出した生き物で、尊敬すべき保守主義者たちはトランプ支持者が、ドガートのことを声高に語ってほしくないと思っていることでしょう。ドガートは議員に立候補したことがあり、米国政府が影の秘密結社にコントロールされていると思い込んでいます。チャタヌーガ紙は裁判に提出されている資料から、状況をかなり明確に報じています。

 検察官は、ドガートが第4地区から立候補したことがあり、ニューヨーク州ハンコック郊外にあるイスラムコミュニティのイスラムバーグの住民を殺害し、そのモスクや学校などを破壊する行動に加わる射撃手を募ろうとしたと陳述しました。また、「政府がガ-トの電話を盗聴して、数人の人物と計画を話し合っているのを聞いた」と述べました。

 ドガートは、この計画をフェイスブックに投稿したということです。ドガートは通話の中で、「あいつらを殺さないといけない。あいつらの建物を焼き払うんだ。1人も失わずに襲撃できたら、もっといい」と言ったという。

 検察官はドガートがナッシュビルに行き、ある人物にイスラムバーグの地図を見せて、破壊したい建物を示したと述べました。また、ダガートがサウスカロライナ州グリーンビルに行き、自分のM4は350メートル距離の「実践テスト済み」で、襲撃の間はスタンドオフ(迎撃可能範囲外)の射撃手としてイスラムバーグの住民を撃つと言ったと陳述しました。

 大統領選で多くの編集者やプロデューサーは、内陸部に別の世界があることに気づきましたが、そこから生まれた「地の塩(社会の中で最も善良な人)」を尊重する報道姿勢には、“ちょっと困ったこと”どころではない大きな弊害があります。

 深刻な経済的・社会的困難に苦しむこんなにも多くのアメリカ人が、インチキ薬を売りつける見え透いたペテン師に投票したわけですが、なぜそうなるに至ったかという原因究明だけのジャーナリズムには、もううんざりなのです。

 それがただの移民排斥主義であったと言う事実を控えめに伝える記事にも、うんざりしています。内陸部では、閉鎖された店や巨大な工場の廃墟よりも、ひどい荒廃が進んでいます。それを見ないふりをしているジャーナリズムは、誰のためにもならないのです。

Source / ESQUIRE US
Translation / Spring Hill, MEN'S +
※この翻訳は抄訳です。