2019年4月末、ノルウェーの漁師らはハーネスを身に付けた奇妙なシロイルカを発見しました。シロイルカは北極海に生息する海洋生物であり、今回発見されたのはロシアの海軍基地があるムルマンスクから415キロ離れたIngoy(インゲヤ)島沖になります。そのシロイルカは実に人懐っこく、その場にいた漁師の人気者になったそうです。ですが後日、ノルウェー海洋研究所からは「ロシア軍の海獣養成オペレーションから逃げてきたスパイイルカなのではないか」という見方をしています。

 そしてノルウェー国営放送NRKの報道によれば、「ハーネスがキツキツで、かわいそうだと思った漁師さんが通報し、ハーネスを取り外す作業のためノルウェー海洋研究所の研究員たちが応援に駆けつけた」とのこと。

 現場に居合わせた漁師らは、このシロイルカの安全を第一に考え、保護できるかどうかを科学者のグループに連絡したそうです。そして出動した研究員たちは、イルカの場所を突き止め、ハーネスを取り除くことができたそうです。その際、研究者たちはそのハーネスから彼らはいくつかのテキストを見つけました:「サンクトペテルブルクの備品」。一部の科学者たちは、偵察のために飼いならされたクジラを使ったロシア海軍のプロジェクトの一部であると信じているようです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Reddet rømt russisk «militærhval»
Reddet rømt russisk «militærhval» thumnail
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 上の動画をご覧ください。シロイルカは餌の魚をあげようとすると、笑顔を浮かべているかのようにそばに寄ってくるのが確認できるかと思います。ですが、肝心の身に着けているハーネスに研究者が手を伸ばすと…すぐさまスルリと逃げてしまいます。

 結局、このままでは無理だと感じた研究員が自ら海に潜り、ハーネスの取り外し作業を行ったのでした。そうして取り外したハーネスを観察すると、そこにいくつかのテキストがあることを確認しました。そのひとつに、「 Equipment of St. Petersburg(サンクトペテルブルクの備品)」という文字が書かれていたというのです。

 これに対し、海洋生物学者であるオードン・リカルドセン教授による見解は、「このハーネスには小型カメラホルダーが取り付けられており、ラベルからサンクトペテルブルクのものだと推測する」とのこと。さらに世界最北端トロムソ大学(ノルウェー北極大学)のAudun Rikardsen教授は、ノルウェーのニュースサイトVGに「さっそくロシアの研究員に問い合わせてみたんだが、そんな調査にはまったく心当たりはないし、一番考えられるのはムルマンスク海軍基地だ」とコメントしています。さらに、「ハーネスにはGoProカメラのようなものを装着できる部位もあったが、実際はカメラは見つかっていないようだ」とも綴られています。

 ちなみにロシア軍が、海洋軍事目的で動物を使用することを実験したのはこれが初めてではありません。動物の軍事利用は、米ロ両国ともに長い歴史があることは確かです。冷戦下、アメリカとロシアの両国は水中鉱山を探し、港を守るという目的でイルカを訓練していたという事実があります。

 米国では、数十年前にこれらの実験の大部分を中止したとのことなのですが、ロシアに関しては、2015年に新しいイルカを探していたという報道もあります。2017年にはロシア国防省直轄TV局であるZvezdaが、イルカ、アシカ、シロクジラの軍事訓練の話を報じたばかりでもあるのです。

シロイルカ, スパイ, ベルーガ
hisutton.com
発見されたシロイルカのデジタル解説図。そして、そのハーネスはGPSトラッカーを取り付けるために科学者が使用するタイプとは異なる様相をしていたそうです。

 「Guardian」紙によれば、このシロイルカはダイバーへの機器運搬から軍事基地警備まで、幅広い任務遂行能力を身につける訓練を受けている可能性があるとのこと。実際に米海軍の海洋哺乳類プログラムでは、イルカやアザラシを魚雷探査で活用しているほか、遭難者捜索活動でも使用しています。必要な場合は、見知らぬ人を殺すこともできるというセンセーショナルな調査報告もあるのです…。

 しかし実際問題として、シロイルカを殺戮兵器にするというストーリーはまだまだSFワールドの話ではないでしょうか。かつて…1973年公開になりますが、『イルカの日(Day of the Dolphin)』という映画がありました。その中では賢いイルカが、ある組織の悪だくみとして「大統領暗殺」に利用されるという設定でした。ですが、いま見直せばかなり無理のある設定だと気づくことでしょう。

 話が逸れてしまいましたが、少々気になる点もありました。それは…このハーネスに表示されていた文字は英語だったこと。このことは、のどかな人口100人に満たないインゲヤ島の住人たちも「?」が浮かんできたことでしょう。

 ウェブメディアの米「Navy Times」によれば、「もしかしたらロシアのムルマンスク基地というのは思い違いで、米フロリダのセントピーターズバーグから逃げてきたのかもしれない…」とのこと。一方で、こちらの説のほうが盛り上がっているとのことです。

 いずれにせよ、そのシロイルカが「人懐っこい」という点も気になります。そして、ハーネスに手を掛けようものなら、すぐさまに逃げる様子を動画で確認すれば、「これはまさにスパイイルカでしょ」と思うのも無理のないことと理解できるでしょう。実際、そのハーネスにGoProが取り付けられたままで回収され、その記録された映像まで確認できていれば明確な答えが出せたかもしれませんが…現在は、藪の中となっています(でも実際は、回収しているのかもしれませんが…)。今後のこの件に関する進展はないか? 注目したいと思います。

From POPULAR MECHANICS
Sources: Gizmodo / The Washington Post
Translation / Utah Zion
※この翻訳は抄訳です。