2020年5月25日(月)、アメリカ・ミネソタ州で白人警官によって膝で首を押さえつけられた黒人男性のジョージ・フロイドさんが死亡する事件が起きました。警官は「I can't breath(息ができない)! 」と叫ぶジョージさんを無視し、8分以上にわたり押さえつけており、その残忍な様子は映像に収められすぐさまSNSで拡散されました。

同様の事件は2014年7月にも起きており、黒人市民に対する警察暴力の問題が一向に解決に向かっておらず、抗議デモや暴動が全米で広まっています。

これを受け、同年5月29日(金)にドナルド・トランプ大統領は最初、ホワイトハウスで「ひどい、ひどいことだ」と述べながら、フロイドさんの遺族を「最高の人たち」と呼び、話をしたと明らかにしました。さらに司法省はこれに先立って同日、「公民権法の違反がなかったか調査する」と発表しれいます。これに対してトランプ大統領は、その調査を迅速に進めるよう指示したと述べています。

その一方でトランプ大統領は、「これほど大勢が平和的に抗議しているのに、略奪者たちがその声をかき消すのを許してはならない」と強調。トランプ氏はこれに先立って、商店を略奪するのはフロイドさんの思い出を汚す「ごろつき」だとも発言しています。

ですがツイッター社は、終盤に書かれていた「when the looting starts, the shooting starts.(略奪が始まれば、発砲が始まる)」と書いた1960年代に起きた公民権運動を彷彿とさせるこの発言に対し暴力を賛美するものだと警告。自動表示されないように、警告文を上にかぶせました。そして利用者は、クリックしなければツイートの内容を読むことができないようにしました

トランプ, twitter, alart, when the looting starts, the shooting starts
Twitter

下にエンペットしたのが、現時点でもトランプ大統領のTwitter(@realDonaldTrump)の表示です。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

ちなみにトランプ大統領のFacebook(@DonaldTrump)では、現在もそのまま最後の文章まで…“Any difficulty and we will assume control but, when the looting starts, the shooting starts. Thank you!”と表示されています。

facebookView full post on Facebook

その翌日30日(土)、トランプ大統領は「ホワイトハウスに押しかける抗議者たちは『the most vicious dogs(最も獰猛(どうもう)な犬たち)』に直面する可能性がある」ともう一度警告し、再び暴力的な公民権運動時代を連想させるような発言を繰り返したのでした。

さらに、「ホワイトハウスのフェンスを突破して超えてくる人は誰もいなかった」と述べ、「激しく暴れたり手の負えない抗議者」に対抗したシークレットサービスを称賛した後、「彼らがここに来ることは難しい」「もし彼らがここに来た場合、最も獰猛な犬たちとまがまがしい武器で出迎えられていただろう」と、Twitterでさらに投稿しています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

このトランプ大統領が指す「最も獰猛な犬たち」という言葉には、1950〜60年代の公民権運動の活動家たちに襲いかかった警察犬を連想させます。ワシントンD.C.の市長を勤めるムリエル・バウザー氏はトランプのこのツイートに対し、「最も獰猛な犬に言及することは、人種差別主義者がアメリカ南部の女性・子どもそして無実の人々に行ったひどい仕打ちを連想させ、不快な気持ちにさせる」とコメントしています

「当時、生まれていなかった私たちですら、歴史を学ぶことでよく理解していることでしょう。そして、当時生きていた多くの人々は、アメリカの大統領が今、こんな言葉を口にしたことに対し唖然とし、強い驚きを示していることでしょう」とも、バウザー氏は述べています。

攻撃される抗議者
Afro Newspaper/Gado//Getty Images

「when the looting starts, the shooting starts.(略奪が始まると、発砲が始まる)」…この発言自体、歴史的なアメリカ人種差別とのつながりがあります。

1967年にマイアミ警察署長ウォルター・ヘッドリー本部長は、公民権運動のデモを食い止めるために警官たちに銃を取らせ、さらに警察犬を動員してアフリカ系市民を厳しく取り締まる際に使用していた言葉なのです。

「NAACP(全米黒人地位向上協会)と他の黒人組織は、マイアミ警察による黒人コミュニティの扱いについて、長年不満を抱いていました」「黒人若者による犯罪や凶悪犯、脅迫と呼ばれるものに、どう対処するかについて話し合う中で、マイアミがその時点まで暴動を起こさなかった理由は、“略奪が始まると、発砲が始まる”と刷り込まれていたからでしょう」と、ハワード大学のクラレンス・ルサネ教授はラジオ番組「NPR」のある聴聞会で語っています

ルサネ教授は、「当時のヘッドリー本部長は、同時期にアラバマ州バーミングハムの警察署長を務めていたブル・コナーからこのセリフを得たかもしれない…」という推測に留意しています。コナー警察署長とは、かつてアラバマの悪名高い人種分離主義の公安委員長であったことで知られており、子どもや無関係の人でさえ、消防用の高圧放水を浴びせたり、警察犬で攻め立てたりしていたのです。

トランプ氏は同年同月29日(金)に記者団に対し、「このフレーズの背後にある歴史は知らなかった」と語っています。ですが、彼は前々から人種差別的な言葉を、国の歴史から引き合いに出す癖があります。そもそも、その歴史を知らないと言うことも大きな問題ではあります。

「America First(アメリカ第一主義)」という言葉は、彼の最初の大統領選挙で頻繁に使用したスローガンでした。ですがこれも、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功したチャールズ・リンドバーグがスポークスマンを務めていた、二次世界大戦へのアメリカの参入に反対する、最も重要な米国の非介入主義的圧力グループ「America First Committee(アメリカ第一委員会)」を思い出させるのです。

Source / ESQUIRE US