米国の人口は世界全体の4%強にもかかわらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死者は世界の25%を占めているのが現状です。そして2020年7月10日時点で、米国の感染者数が311万人まで達し、世界全体の約4分の1に迫っているわけです。これは、米国がおかした大きな失敗と言えるのではないでしょうか。

米国では6カ月経っても、いまだ十分な検査体制が整っていません。それは検査キットだけの問題ではありません。ニューヨークのような検査の拡大を図っている地域でさえも、検査処理をする研究所のキャパシティという障害に直面しています。さらに現在、この世界で最も裕福な国の医療従事者が、個人防護具の不足というリスクに再びさらされている…ということも問題です。

2020年3月にニューヨーク州やニュージャージー州が「地獄への入り口」へと入ろうとしているタイミングで、フロリダ・テキサス・アリゾナといった州の民主党州知事は「なぜ、ただ傍観していただけだったのか? 一体何をしていたのか?」と、初動ミスの責任が追究されています。そして今や、これらの州が地獄への入り口にいるわけです。

残酷なことに現在、米国の多くの州で経済・社会活動の再開が行き詰まっています。これはすべて、米国連邦政府最上層部における国際的な危機に対する国家戦略策定のシステム的なミスの結果としか言いようがありません。

『日本封じ込め』などの著書があるジャーナリストのジェームズ・ファローズ氏は、『アトランティック』誌で大統領府の対応についての検証を行い、ありとあらゆる点、つまり大統領がよく「早期の英断だった」と自負する中国からの渡航者に対する入国禁止措置でさえも、失策だったと分析しました。

当時を振り返ると、禁止の対象外となった4万人の米国市民が中国からの入国禁止実施後に入国しましたが、到着時のスクリーニング検査は行われませんでした。欧州からの入国が制限された際も同様に、トランプ大統領は実施2日前に通達したため、先を争って帰国した大勢の人の到着時の検査を体系的に行うことができなかったのです。これこそ、失敗の始まりだったのです。

ホワイトハウス内で早くに警鐘を鳴らしていた数少ない人物の1人が、ピーター・ナバロ通商担当大統領補佐官でした。彼は2020年1月の時点で、大統領に脅威の可能性があることを報告していました。ナバロ氏の関心は、その強烈な対中強硬姿勢にもとづいたものだったかもしれませんが、その予想は的中しています。

しかし、トランプ政権内の人々は、自らが国民に仕えているのではないことを知っています。「そうあるべきだ」ということを知っていながら。彼らはただ一人の男に仕え、そしてその一人の観客に向かって演じているだけなのです。

この時点で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の状況に対して正直になることは、トランプ大統領側の過ちを認めることになってしまうわけです。そんなことは、許されることではありません。ナバロ氏が先日朝のニュース番組「CNN」の中で取った態度(話題の転換を図る)は、まさにそれだったというわけです。

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ウイルスの流行だけでなく、(マスクをするという)感染拡大防止のためのわずかな個人的責任でさえも果たすことを拒むような、おかしな人たちが横行している現況…。これが異常なほど間違った状況認識であることは、他の国と比較すれば一目瞭然でしょう。

ドイツや韓国という国はこのパンデミックによって、危機を真剣にとらえることができる有能な政府が存在し、さらに官僚組織がそれに対し十分対応できることが実証されました。

一方、米国の大統領は、最低限必要なレポートさえ読まないのではないでしょうか。トランプ政権は、「資金提供者が業界の規制緩和を望んでいる」というレベルから、「大統領の要望に合わせて、現実を変えなくてはならない」というレベルまで、ありとあらゆる理由をつけてはこの国をめちゃくちゃにしようとしているのです。

ナバロ氏は、疫学者でもなければ公衆衛生専門家でもありません。大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏がAmazonでの検索でヒットしたからという理由で政権に請われたと噂されていましたが、そうを考えると、ナバロ氏も何の専門的知識はないかもしれません。

しかし、この明らかな事実を見るまでもなく、米国政府の仕事ぶりは目を瞑(つむ)りたくなるほどで、これに匹敵するのはブラジルやロシアなどの権威主義体制の国ぐらいでしょう(コロナウイルスはメディアがつくったデマと言っていた、ブラジルの大統領は先日ウイルス陽性が判明しました)。

米国人はまるでお仕置きをされているように、欧州から入国禁止措置を受けていますが、それにも反論などできません。米国の政府に取り残されている元凶は、人種差別と外国人嫌悪への保守的な訴えなのです。

ナバロ氏は、「新型コロナウイルスは中国のせいだ」という点に焦点を当てようと、ここでもその一片のうろこを見せました。が、トランプ大統領とそのお抱え放送局である「Fox News」は、より本質的な訴えのほうに転換しています。

ナバロ氏はトランプ大統領に仕えているわけですから、決して大統領を批判しません。しかし、政府の対応が完全に失敗し、その結果多くの米国人が死亡したとしたら…国民に対して責任があると感じている政権関係者であれば声を上げたり、せめて辞任したり…という行動に出てもおかしくありません。

とは言えやはり、これらの人々は現状に満足しているわけで、現状のままが好ましいようです。彼らにとって報道機関向けの会見は、国民に政府の活動を知らせるためのものではなく、多くの敵のうちの一つと戦う場という心境で臨んでいるのかもしれません。彼らは、一人の男の気まぐれな要求に応じるために存在しているようなものなのです。こうした政権を覆いつくすバイアスによって、新型コロナウイルス治療薬として「ヒドロキシクロロキン」がまた推奨されるようになったというわけです。

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ところで、ナバロ氏が科学について言及したくなかったとは思われません。ニュース番組「CNN」のジョン・バーマン氏が指摘しているように、ナバロ氏は「ある程度」科学的なことについて積極的に発言しています。ただそれは視聴者に対し、「大統領は全く知能がない」という印象を残さない程度のものと言えます。

最近では、米国という実験的な国の有り様は落ちるところまで落ちた…と思えて仕方ありません。国民を政治的盲目に置くための詩人ユウェナリスが古代ローマ社会の世相を揶揄(やゆ)して詩篇中で使用した表現「パンとサーカス」的な策でさえ尽きているのではないかと感じざるを得ないのです。

もちろん、新型コロナウイルス感染症が「収束」し、さらに最終的に「終息」するまでは「サーカス」など行えないわけですが。これらの明らかに無鉄砲な人々が国政の舵取りを許されている間は、その「収束」させることもままならないでしょう。

多くの人は「パン」を買うのにも苦労し、その生活は二重の打撃を受けています。最初は不可抗力でしたが、今では人為的ミスによる打撃と言えます。ホワイトハウス高官たちが示していることは、事態の改善に特に役立つことではないとしか思えません。生死にかかわる問題に、「サーカス」的な見栄えのするものを重ねて見せているだけなのです。

ただこのことが、まさに米国がいかに底深く落ちているかを示すのに役立っているのは確かですが。

Source / ESQUIRE US
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。