この記事をざっくり説明すると…

  • フランス軍における生体倫理に関する倫理委員会で、生体工学で身体能力を増強するバイオニックソルジャー(拡張型超人的兵士)の開発を推し進め、ハイテクを駆使してアップグレードを目指すという方針を示しました。
  • このハイテクによるアップグレードでは、生身の人間の運動能力や探知能力を超えるハイテク機器を兵士に装備することだけではなく、兵士の精神状態やその他の軍事関連機能を向上させる可能性があります。
  • このように精神状態にまで及ぶ軍事テクノロジーの向上を目的とした場合には、個々の兵士の権利がまず保護される必要があり、その制度設計にいくつかの条件が付けられています。

 このたびフランス軍は、軍の生体倫理に関する審査委員会(A French Military bioethics Panel)の報告を受け、ハイテクノロジーを用いて兵士の能力を増強させる「拡張兵器」の開発を許可する方針を明らかにしました。「軍の作戦実行上の優位性を維持するためにテクノロジーを用い、開発及び配備を進めることを認める判断を行った」と、倫理委員会は伝えています。

 また、2020年12月8日の公開されたレポートによれば、「医療措置や義肢または装置の埋め込みなどによって、体力・認知力・知覚力・精神力の増強についてを検討。これによって兵士が、兵器システムと交信して所在場所を突き止めこと、さらに同僚の兵士と連絡を取ったりできる」としています。この他に考えられる介入措置として、「苦痛やストレス、疲労を防ぐための医療措置や、兵士が捕虜にされた場合における精神力を高めるための薬物」に関しても言及しているのです。

 中国人民解放軍が軍事作戦遂行能力の向上を目的とした生体実験を行っていることが、アメリカの情報機関によって公表されましたが、それに続く衝撃的なニュースと言えるでしょう。

 CNNの報道でも、フランスが認可した拡張兵器の導入とは、兵士の「身体的、認知的、地殻的、心理的」能力の増強を目的としたものということ。今回の認可された項目の中に、兵士の精神的強度を増補する内容も含まれていることにも注目しなければなりません。ならば、倫理的な判断が最重要事項となるはずです。

フランスがサイボーグ兵士の計画に踏み込みました
THOMAS SAMSON//Getty Images
装甲人員輸送車の横にしゃがむ、フランス軍兵士。
拡張兵器は、兵士の「身体的、認知的、地殻的、心理的」能力の増強を目的としたものです

 そんなわけで、この認可には制限が設けられています。

 兵士の基本的人格が、軍のテクノロジー使用によって侵されるようなことがあってはなりません。兵士の自由意思は保証されなければなりませんし、兵士が行使する能力のレベルについても、本人の選択が尊重されなければなりません。例えば、死を逃れる選択肢があるにも関わらず、拡張兵器を装備した兵士に対して致死力の行使を強制するようなことは許されません。

 そして、ハイテク拡張兵器を用いた軍事作戦を行った兵士が、民間として一般の生活へ復帰する際の妨げとならないようにしなければなりません。退役後にもかかわらず、身体から奇妙な金属片が付き出している…などということはあってはならないのです。

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 フランスのフロランス・パルリ(Florence Parly)国防大臣は現時点において、そのような事態が懸念されるバイオニックソルジャー(拡張型超人的兵士)を開発する計画はないことを以前述べています。ですが、今回の軍における生体倫理に関する審査委員会の認可によって、将来における開発への道筋が開かれたことには変わりはありません。

フランスがサイボーグ兵士の計画に踏み込みました
KEVIN FRAYER//Getty Images
建国70周年記念パレードで隊列を組んで叫ぶ、中国兵(2019年のもの)。

 フランス軍による今回の決定は、中国の拡張兵器開発を目的とした生体実験に関する告発として、ジョン・ラトクリフ米国家情報長官が米「ウォールストリート・ジャーナル」紙(12月3日付)に寄稿した記事が発表された数日後になされたものです。

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 ラトクリフ長官はフランスと比べて、「中国の倫理観ははるかに低い」と主張した上で、「中国側の権力闘争においては、倫理的な制限は存在していないも同然」とまで述べています。その後、長官自身も情報機関も、その発言の真意についての説明をしてはいません…。

 アメリカ国防総省については、現時点で遺伝子研究などに具体的に着手しているわけではありません。ですが、拡張性のあるテクノロジー開発の模索は続けています。オバマ政権が立ち上げた先端・革新的神経学技術を通した脳研究イニシアティブである「ブレイン・イニシアチブ[BRAIN (Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies )Initiative]の一環として、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が取り組む「Neuro-FAST プロジェクト(脳情報デコーディング)」やBCI 研究(革新的人工装具の開発)」は、その一例と言えるでしょう。

 ホワイトハウスは「ブレイン・イニシアチブ」について、「アルツハイマー病、てんかん、外傷性脳損傷など、脳障害の治療や予防を目的としたもの」であると、2013年に発表しています。一方、アメリカ国防高等研究計画局が推し進めようとしているのは、「脳とデジタル領域をつなぐ、前例のない信号分析技術及びデータ転送のための帯域幅」を運用しながら、利用者が自らの心で選択を制御することを可能とする…つまりは移植型インターフェイスの開発と言えます。

 これは障害などによって、慢性的に困難な状態にある人々にとって役立つ技術とされています。四肢麻痺や半身麻痺を持つ人々が義肢や車椅子を操作したり、また、コンピューターを直接的に操作するためのインターフェイスとなる可能性を秘めています。さらにホストを通じて、全ワイヤレスデバイスへの接続が可能になれば、用途はさらに広がりるでしょう。

 そうして思考を介して機器の操作が行うことができ、コンピューターとのやりとりが行えるようになれば、その軍事的有用性はさらに明確となります。戦闘機からレーダーシステムに至るまで、あらゆるものを兵士が心(頭)でコントロールできる日がいつか訪れるかもしれません。現在、その可能性は誰にも否定できないところまで来ている…と言えるでしょう。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です