ノルウェーで突如として発生した「謎のバッテリー劣化問題」について、ご紹介します。

 ある朝、旧型のテスラ「モデルS」のオーナーが目を覚ますと、このアメリカ製EV(電気自動車)の走行可能距離が短くなっており、さらに充電にも時間がかかるようになっていたのです。

 果たしてこれは、「極寒の地として名高いノルウェーならでは…」とも言える、酷使されたバッテリーのありふれた経年劣化によるものでしょうか? ご承知のとおりバッテリーは、温度が低くなると化学反応が鈍くなって性能が下がるものです。

 いいえ、そうではありません。ここで登場したのが消費者苦情委員会でした。ノルウェー当局によると、「この劣化はテスラのアップデートされたソフトウェアによって、旧式のハードウェアの動作を故意に遅くさせた」、という事件だというのです。

 EVに特化したアメリカのウェブメディア「Electrek」が報じたところによると、アメリカの連邦取引委員会に相当するノルウェーの国内機関はテスラに対し、2019年のソフトウェアアップデート後にバッテリーの機能劣化に見舞われた1万人のオーナーに対して、補償金の支払い命令を出すことになりました。

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 対象となっているのは、2016年型の「モデルS P85D」(このモデルは、公表されている691馬力を新車の時点で発揮していなかったことがノルウェー国内で明らかになった車種)と、「モデルX P85D」の2つのモデルです。

 「Electrek」の記事によれば、「モデルS P85D」はテスラの市販車の中で最速を誇り、走行距離も最長、おまけに最も高価なモデルでした。が、アップデート直後から走行距離が縮まり、充電時間が大幅に長くなったとのこと。テスラは全車両に対して、ソフトウェアの自動アップデートを行っており、インストールも自動的に進められています。

 程度の差はさまざまでしたが、例えばアップルのソフトウェアアップデートを行った後、iPadやiPhoneの動作がいきなり重くなったり、電池の消耗が早くなってしまった事件(バッテリーゲート事件)をご記憶の方もいるかもしれません。

 アップルの新型OSは、「旧式デバイスのバッテリーでも問題は生じない」とされていたはずですが、現実には動作が重くなる、もしくは電源が突然落ちてしまうなどの不具合が立て続けに生じたのです。問題となったアップデート後、アップルは2020年に1億1300万ドル(約117億4800万円)もの和解金を支払う羽目になりました。

 「Electrek」の取材によれば、アメリカ国内のテスラ車のオーナーたちからも、ノルウェーで生じたものと同様の苦情が寄せられているとのこと。カリフォルニア州のオーナーによるテスラに対する集団訴訟もアップデート後に起きており、現在も係争中です。ちなみにアメリカ国内のテスラ車オーナーたちに対する補償金は、まだ一銭も生じていません。

 オーナー側の訴えの内容が不当であることをテスラ側が証明できない限り、ノルウェーの各オーナーはそれぞれ1万6000ドル(約175万円)相当の和解金を受け取ることになる見込みです。ちなみにノルウェーでは、2016年に公表された数値と異なる馬力不足を理由に、「モデルS P85D」オーナーへの約8000ドル(約86万円)の補償金の支払いをテスラに科しています。

 「ロサンゼルス・タイムズ」紙の報道によれば、問題となったソフトウェアアップデートが行われた後、テスラはノルウェーで最も多くの苦情を受けた自動車メーカーとなりました。ノルウェーと言えば、テスラ車をはじめとする電気自動車の購入率が、世界で最も高い国の1つとして知られています。

 結論として、次のことが言えるかもしれません。ソフトウェアアップデートの結果、クルマや携帯電話などのデジタル機器の機能が著しく不自然に低下したとすれば…、それは念のため、機器の故障とは別の何かの要因も探ってみる必要は大いにあるのかもしれません。

Source / CAR AND DRIVER
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です