世界最大のテクノロジー見本市と言えば、そうCESです。シーイーエス(日本では「セス」と呼ばれることも)とは、毎年1月全米民生技術協会 (CTA) が主催する電子機器の見本市のことで、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで開催されます。あくまで業界向けの見本市であり、一般公開はされていません。展示会には多くの新製品が出品され、プロトタイプも多く出展されます。今後のテクノロジーの行く末を占うイベントとしても注目されています。

 2019年、そのCESにデンマーク出身の自動車デザイナー、ヘンリク・フィスカー氏によるEV(電気自動車)スタートアップであるフィスカー社が1台のEVを出展しました。そのクルマこそバッテリー駆動の新型SUV「オーシャン(Ocean)」ですが、それが2021年11月のロサンゼルス・オートショーにも出展されることになりました。

 「オーシャン」 の連続航続距離は300マイル(約483km)、基本価格は3万7499ドル(約411万円)からとされており、オーストリアのマグナ・シュタイヤー社の独自のEVアーキテクチャーを用いて2022年秋から生産開始される予定となっています。

 
FISKER

順調な滑り出しに見える「オーシャン」

 2022年の第4四半期の生産開始に関しては、フィスカーがマグナ・シュタイナー社との契約を公表して以来、頑として譲らなかったスケジュールです。それに先駆けて、2021年11月のロサンゼルス・オートショーが大きなデビューの舞台として用意されています。

 気になるのが、市販モデルのプロトタイプのテストでしょう。それは2021年後半のどこかのタイミングで開始される予定です。すでに有料予約が1万7300件、購入検討が6万2000件、さらにはアメリカ、デンマーク、フランスの会社から一括注文が入っていることが明かされています。

 フィスカーの会長兼CEOであるヘンリク・フィスカー氏は、次のように話しています。

「当社の予約・注文のシステムは透明性が高く、量よりも質を優先し、ステークホルダーの方々に対しては信頼に足る予約情報などを提供できるように設計されています。発売が近づいた時点で、予約いただいた方々と確認を行いながら、予約注文を契約へと移行していきます。すでに『オーシャン』を評価してくださる多くのロイヤルカスタマーの存在があり、ご予約された方々への公平な対応を第一とした予約システムを備えています」

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 また、欧米6都市における「フィスカー・ブランド・エクスペリエンス・センター」の開設も計画されています。第一弾の拠点となるアメリカ・ロサンゼルスとドイツ・ミュンヘンでは2022年初頭のオープンを、それに続く拠点(NY、コペンハーゲン、マイアミ、ロンドンを予定)についても2022年後半のオープンを目指しているとのことです。

 「フィスカー・ブランド・エクスペリエンス・センター」とは、テスラをはじめ、多くの自動車メーカーが展開している直営店のような存在となることが予想され、試乗を行ったり専門家が相談に応じたり、直接注文の受付なども行われるものと考えられます。

フィスカーの展望

 2011年にはEVセダン、「カルマ」を投入して話題を呼んだものの、ここ数年のフィスカー社は電気自動車のスタートアップ企業の中でも、以前ほどに注目されることも少なくなってきました。2011年と言えば、テスラの「モデルS」がデビューする前年のことであり、両社が新たな市場で覇権を奪い合う可能性さえあると当時は思われていたほどです。

 しかし、「カルマ」の生産台数はわずか2500台弱と低迷。その後はバッテリーメーカーの倒産なども逆風となり、計画を見直さざるを得ない状況に陥りました。言ってみれば残骸となってしまった「カルマ」に関する一連のプロジェクト、これは中国の大手企業に買収され、カルマ・オートモーティブというブランド名で再生されることとなりました。その一方で、フィスカー氏は自身の名を冠したEVスタートアップで再び市場競争に参戦する計画を練り直し、機が熟すのを待ち構えていたというわけです。

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 「オーシャン」登場のタイミングとなる2022年後半は、これまでのEV市場とは明らかに異なる状況が待ち構えています。つまり、以前フィスカーがEV市場の話題の中心にいた頃とは比べ物にならないほどに多くの競合がひしめき合っています。その中でフィスカーがどのように差別化を図り、EV市場のパイを確保していくのか…。その点についてはまだ未知数と言えます。

 「『オーシャン』の生産開始まで、残り500日を切った今。私たちはカスタマー・サービスの構築にも大きな力を注いでいます。ブランド・エクスペリエンス・センターは購入を検討される多くの方々にとって、物理的な意味でのタッチポイントとなります。当社のグローバル展開はEV普及率の高い大都市圏に焦点を当てており、販売の大部分もそのエリアが中心となることでしょう」と、フィスカー氏はコメントを残しています。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。