電動化の未来を見据え、飽くなき情熱を注ぎ続けるベントレー。ここで紹介するベントレーの最新となる1台は、1919年創業のブリティッシュカーメーカーらしい優雅さはそのままに、電動化も未来もどこ吹く風と言わんばかりに、わが道を行く車です。

クラシックな伝説の名車が復刻

昨年(2021年)、ベントレーは伝説の名車「ブロワー」をコンティニュエーション・バージョンとして復活させました。それに続き今回は、1930年のル・マンを駆け抜けた「スピードシックス」を現代によみがえらせるというのです。

 
Heritage Images//Getty Images
1929年当時のベントレー「スピードシックス」。

現在の基準では、“やや遅い車”という部類になるかもしれません。それでも、この「スピードシックス」こそが当時のベントレーのレースカーとして最も成功を収めたものであり、ベントレーの歴史上最も重要な車の一つであるという事実に変わりはありません。

そしてこの車は、ベントレーの世界最高水準の性能を示しただけでなく、快適かつラグジュアリーでありながら長距離を楽に移動できるグランドツアラーのコンセプトを定義したモデルとも言えるのです。

実は2021年、私たち(アメリカのカーメディア「Car and Driver」)は、「ブロワー・コンティニュエーション」を走らせる機会に恵まれました(パイロットゴーグルを装着しながら、「環境意識の高い今の時代に、よくあの親会社のフォルクスワーゲン・グループの顧問弁護士が、このような車の製造に許可を出したものだな…」と驚いたのも良い思い出です)。

 
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1933年モデルのベントレー「ブロワー」。

「ブロワー」の不確かなステアリングや、お世辞にもよく効くとは言えないブレーキが1930年当時のニュアンスを忍ばせ、時速80マイル(時速130キロ弱)も出せば、それはまるで冒険映画の世界に紛れ込んでしまったかのようなスリル満点の体験でした。そうして今度はあの「スピードシックス」で、限られた幸運な人たちにはなりますが、同じような興奮を味わう機会を得ることができるのです。

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BENTLEY
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BENTLEY

ベントレーのマリナー(ビスポーク部門)により生み出されることになる“新車”の「スピードシックス・コンティニュエーション」ですが、1台当たりの価格は180万ドル以上(約2億4000万~2億5000万円)になることが見込まれています。

しかし、エドワード朝時代の作法を真似て、ベントレーの拠点であるイギリス・チェシャー州クルーに問い合わせの電報を打ったり、伝書鳩を飛ばしたりする必要はありません。なにせ予定されている限定生産台数分の12台は、すでに完売してしまっているのですから…。

2台の「スピードシックス」のCADモデルを作成

新たな「スピードシックス・コンティニュエーション」を手掛けるのは、「ブロアー・コンティニュエーション」を生み出したチームです。あのル・マンを走った当時の実車を入念にスキャンし、それを現代のパーツでよみがえらせることとなります。

かつてはサーキット用に設計された車を、公道でも走らせることができた時代です。参考となった「スピードシックス」は2台。一つは1930年にスタートから2時間でクラッシュした本物のワークスカー「オールド・ナンバー3」。もう1台がそのワークスカー同様の機構に、バンデン・プラ製のボディをかぶせた1929年製のロードカーです。

当時の図面と照合しながら2台の3D CADモデルを作成し、それを元に12台の“新車”がつくられることになります。

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BENTLEY
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BENTLEY

1929年のル・マン24時間レースと言えば、当時のベントレー会長であったウルフ・バーナート氏、そしてヘンリー・ティム・バーキン卿の操る「スピードシックス」が、2~4位となった3台の4.5リッターエンジンのベントレーに対して7周もの大差をつけて圧勝しました。

1930年のル・マンには、ルドルフ・カラッチオラ選手とクリスチャン・ヴェルナー選手の駆るメルセデス「SSK」がベントレーの最大のライバルでした。メルセデスの前評判は極めて高く、その実力どおり実際厳しいレースとなりました。

いざレースが始まってみると、スーパーチャージャーを搭載したベントレー「ブロワー」での個人参戦となったバーキン卿がレースを引っ張り、それをカラッチオラ選手が追走します。ところが両車ともに、故障に見舞われてしまいます。その間隙を縫うように優勝を手にしたのが、バーナート氏の駆るワークス参戦の「スピードシックス」だったのです。そして2号車は準優勝に輝きます。

ベントレーの創業者であるウォルター・オーウェン・ベントレー氏は、スーパーチャージャーを好んでいませんでした。そういった関係から、ワンツーフィニッシュを果たした「スピードシックス」には、自然吸気の6.6リッターエンジンが積まれていました。あの「T型フォード」が20馬力だった時代に、「スピードシックス」は公道用モデルでは147馬力、レース仕様車では200馬力を誇る…と謳(うた)われていたのです。

発表の舞台はグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード

この「スピードシックス・コンティニュエーション」が発表されたのは、2022年6月下旬にイギリスで催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでした。ベントレーのエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOは発表の席で、次のように述べています。

「『スピードシックス』は、103年の当社の歴史の中で最も重要な車の一つであり、12台のコンティニュエーションシリーズはエンジニアリングの品質と細部への執拗なまでのこだわりを持って製作された、W.O.ベントレーのオリジナルと同じ価値を体現します。幸運なオーナーは自分の車で世界中をレースし、オリジナルのベントレーボーイズの活躍を追体験することができるのです」

今後の見通しですが、2022年後半にはプロトタイプが製作され、その後販売用の車両の生産に移る予定とのことです。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です