現地時間2月18日(日)、英国ロンドンのロイヤルフェスティバルホールで開催された英国アカデミー賞授賞式(BAFTA)に、英国映画テレビ芸術アカデミーの会長を務めるウィリアム皇太子が出席しました。毎年、キャサリン皇太子妃と共にドレスアップしてレッドカーペットを歩み、注目を浴びる皇太子でしたが、今年は皇太子妃が手術後の回復期にあるため、ウィリアム皇太子は単独で式典に臨みました。そのため、例年に比べてやや華やかさに欠ける雰囲気がありましたが、バックステージでの彼の発言が多くの関心を集めています。
授賞式の後、皇太子はバックステージで受賞者やノミニーたちと対面しました。新人賞に当たるライジングスター賞の候補者たち--フィービー・ディネヴァー、アヨ・エデビリ、ソフィー・ワイルド、ミア・マッケナ=ブルースらと共に、短い時間ですがおしゃべりを楽しみました。
皇太子はスタッフから俳優たちを紹介されると、「この部門は激戦でしたね。誰が受賞するのだろうという感じで、誰が獲ってもおかしくありません」とコメント。そして受賞したマッケナ=ブルースのほうを向くと、「おめでとうございます」と祝福。「撮影を最後までとても楽しんだようですね」と話しました――新聞『デイリーメール』は、そう報じています。
このひと言がネット上をざわつかせました。マッケナ=ブルースは、『How To Have Sex(原題)』での演技が評価されこの賞を受賞しました。これはイギリスのモリー・マニング・ウォーカー監督による長編デビュー作で、2023年のカンヌ国際映画祭では「ある視点部門」の最高賞に輝いています。
彼女が演じたのは16歳の少女タラ。夏休みに友だちと3人でギリシャのクレタ島に旅行に行ったタラは、自分だけ性的経験がないことに焦りを覚えます。「このバカンスで処女を捨てたい」と考えた彼女は、同じく旅行者の若い男性たちと親しくなります。が、その1人と完全に合意していないままセックスに至る-つまり、彼にレイプされるわけです。ネット上の作品紹介には、「英国の10代の少女3人が通過儀礼の休暇に出かける物語」と書かれていますが、テーマは性的同意や性的暴行に対する意識のギャップ。作品をきちんと観ていれば、「楽しんだ」発言は出てこないはずです。
実際に皇太子は、この作品をまだ観ていないことを認めています。マッケナ=ブルースは「この作品が性的同意に関する会話をより深め、人々が自分の経験を話す助けになることを望んでいます」と語り、皇太子にもぜひ観て欲しいとしすすめました。すると皇太子は、今回の新人賞のノミニーたちの作品はどれも未鑑賞であることを告白。「追いかけて観なくてはならない映画がたくさんあります」「いつもは授賞式のずいぶん前にかなりの本数を観ています。でも今回は、まだそんなに観れていないんです」。
この言葉は誇張ではなく、事実だったようです。バックステージで皇太子は、映画『関心領域』(日本公開2024年5月24日)の監督ジョナサン・グレイザーとプロデューサーのジェームズ・ウィルソンにも対面しています。『関心領域』は今回非英語作品賞と英国作品賞を受賞、音響賞も獲得するという強さを見せましたが、皇太子は「まだ観ていない」と2人に正直に打ち明けています。グレイザーとウィルソンも、最近の皇太子がキャサリン皇太子妃の手術やチャールズ国王の入院や療養で忙しいことを理解したのか、皇太子の言葉に頷いていました。
ちなみに2人は、一般人が疑問に思うことを代表して質問してくれています。それは「皇太子は映画をどこで観るのか?」ということ。2人から尋ねられた皇太子は、「テレビで」と答えています。でも、「大作だと映画館に行くこともある」とも。『関心領域』はたくさんの人からすすめられたので、「観るべき作品リストに入っているんだ」と話していました。
皇太子の名誉のためにいうと、「全く何も観ていない状態で授賞式に臨んだ」というわけではありません。クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(2024年3月29日日本公開)は観ていました。『ピープル』誌によると、授賞式前に「私はノーラン監督の大ファンなので、彼が受賞すればうれしいですね。『オッペンハイマー』はとても気に入りました」と語っていました。同じ日に公開された『バービー』のほうは、「まだですが、観たいと思っています」と…。
今回の授賞式ではその『オッペンハイマー』が作品賞や監督賞、主演男優賞を含む7冠に輝きました。準備不足ゆえの失言もありましたが、皇太子にとっては「うれしい結果になった」と言えそうです。
***
Text / Yoko Nagasaka
Edit / Minako Shitara