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Roger Deckker
左からアンソン・ブーン着用:ジャケット 3570ドル、タンクトップ 990ドル、パンツ 1290ドル(アレキサンダー・マックイーン)ブーツ 250ドル(Underground)サングラス 600ドル(Jacques Marie Mage)/シドニー・チャンドラー着用:ジャケット 3625ドル、トップス 1750ドル、パンツ 1025ドル、ショーツ 895ドル(ヴェルサーチェ)/トーマス・ブロディ=サングスター着用:ジャケット 2790ドル、パンツ 1150ドル(ヴァレンティノ)ヴィンテージシャツ(Helmut Lang、スタイリスト私物)ヴィンテージブーツ(カルバン・クライン、スタイリスト私物)/トビー・ウォレス着用:ジャケット 2250ドル、パンツ 840ドル(セリーヌ オム by エディ・スリマン)ヴィンテージシャツ(カルバン・クライン、スタイリスト私物)靴 190ドル(Underground) /ジェイコブ・スレイター着用:ヴィンテージジャケット、カーディガン、シャツ、パンツ(ヴェルサーチェ、スタイリスト私物)ブーツ 150ドル(ドクターマーチン)

セックス・ピストルズはまさに、「カオス」という言葉が似あう稀有なバンドでした。1975年に結成され、1978年に解散した彼らは、数々のレコード会社を渡り歩きながら、パンクを世界的な音楽とファッションのムーブメントに仕立て上げていったのです…。

ダニー・ボイル監督の新作ドラマシリーズ『Pistols(原題)』は、バンドのギタリストだったスティーヴ・ジョーンズの回想録『Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol』をもとに、映画『ロミオ+ジュリエット』(1997年)や映画『ムーランルージュ』(2001年)を代表作に持つクレイグ・ピアースが脚本を手がけ、当時最も影響力のあったバンドの急速な盛衰を描いた作品です。

セックス・ピストルズのパンク精神へのこだわりは、ドラマづくりそのものにも表れています。

ボイル監督は従来の撮影フローにこだわらず、演技やシーンをすべて俳優に任せることが多かったとのこと。さらにパンクなことに、まだあまり知られていない若手俳優を中心に起用し、音楽や70年代について叩き込んだという点にも注目すべきでしょう。ここで、5人のキャストがどのように登場人物になりきっていったのかをご紹介していきます。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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ジャケット 3450ドル、パンツ 1090ドル(すべてルイヴィトン メンズ)ヴィンテージTシャツ(プラダ、スタイリスト私物)ブーツ 1295ドル(ジバンシィ)
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アンソン・ブーン
(ジョニー・ロットン役)

セックス・ピストルズのフロントマンであるジョニー・ロットンを演じるにあたり、アンソン・ブーンはこのアナーキーな問題児を、風刺的に表現することは避けたかったそうです。

「このバンドは悪魔のようなイメージを持たれているかもしれませんが、私は母親を愛し、毎晩寝る前に牛乳を飲み、恵まれない子どもたちのための青少年センターで働くようなジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)にも興味がありました」と、ブーンは話します。「彼はとても優しい人です。こんなことを言ったら彼は嫌がるでしょうけど、それが真実です」

英国ケンブリッジシャー出身のブーンは、写真撮影のために着飾ってロンドンにやってくると、まるでハンナ・モンタナのような気分になると笑います。22歳の彼は、これまでも映画界の大物たちと仕事をしてきました。映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』(2019年)ではケイト・ウィンスレットやスーザン・サランドンと共演し、戦争映画『1917 命をかけた伝令』(2019年)ではサム・メンデス監督と仕事をしています。

俳優になったきっかけを訊ねると、「いつも聞かれる質問ですが、いい答えが思いつかないんです」とのこと。「自然の流れだと思います。17歳で学校を中退し、ロンドンの公開オーディションを受け始めたら、運良くこの世界に入ることになりました」

ロットンは『Pistol(原題)』には関わらないことを表明していたので、ブーンは役づくりのためにバンドのフロントマンと時間を過ごすことはできませんでした。その代わりに、この作品の監督であるダニー・ボイルがロンドンオリンピックの開会式の演出を担当した際に、ロットンと過ごしたときのエピソードを参考にしました。また若い頃から脊髄性髄膜炎を患っていたロットンの独特の姿勢や歩き方を真似るなど、メソッド演技法を一部取り入れたそうです。

「身体つきが私と大きく異なるので、彼になりきるのは大変でした」と、ブーンは明かします。「かなり体重を減らさなければなりませんでした。努力した結果、撮影が終わってから、自分の立ち姿や歩き方が変わっていることに気づいたほどです」

役に入り込むために、ブーンはデンマーク・ストリートにあるバンドのリハーサル場所の壁に描かれた有名な落書きを、自分の楽屋に再現しました。衣装も役づくりの重要なポイントで、衣装部門と密接に連携して14個あるジョニー・ロッテンのウィッグのどれを使うか毎日悩んだそうです。

「ロットンのために本物らしくしたかったんです」と彼は言います。「もし作品を見てもらえたら、私が親指のリングに至るまでよく調べて、すべて正確に再現していると感じてほしいです。彼にふさわしい敬意を払いたいと思っています」


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ジャケット 2595ドル、パンツ(ダンヒル)ヴィンテージカーディガン(カルヴァン・クライン、スタイリスト私物)、ブーツ 455ドル(Russell & Bromley)ハット 98ドル(Le Tings)ネックレス(Great Frog)
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トビー・ウォレス
(スティーヴ・ジョーンズ役)

「一番忘れられない瞬間は?」と問うと、「初めてのギターレッスンを、スティーヴ・ジョーンズから受けたことです」とトビー・ウォレスは言い、「ちなみに、ひどい出来でした」と笑顔で付け加えました。

ウォレスの大きな目と狼のような笑みは、インディーズのヒット作『ベイビーティース』(イライザ・スキャンレン演じる主人公が恋に落ちる行きずりの麻薬ディーラーを演じ、2019年のヴェネチア映画祭でブレイクスルー演技賞を受賞した作品)で見覚えがあるという人もいるかもしれません。このオーストラリア人俳優は、『Pistol(原題)』で大口を叩くバンドのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズを演じました。

ジョーンズは、Kutie Jones and his Sex Pistolsと呼ばれていた頃からいるセックス・ピストルズの創設メンバーの1人で、『Pistol(原題)』のインスピレーションとなった自伝『Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol』の著者でもあります。

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ジャケット 3145ドル(ドルチェ&ガッバーナ)ヴィンテージタンク 199ドル(Society Archive)ネックレス 180ドル(Underground)チェーンネックレス 235ドル(Great Frog)

ダニー・ボイル監督によるセックス・ピストルズを題材にした本プロジェクトのオーディションを受けたとき、ウォレスはパニックに陥ったそうです。

「仕事が決まったと電話がかかってきたとき、動転して10分間汚い言葉を発し続けました」と、その出来事を容易に想像できるほど興奮した様子で26歳の彼は振り返りました。撮影が始まってからも緊張していたウォレスですが、現場に偶然居合わせた伝説のミュージシャンのアドバイスで、すぐに落ち着きを取り戻しました。

「『トレインスポッティング』以来、ダニーと一緒に音楽をつくってきたアンダーワールドのリック・スミスとカール・ハイドと話したのを覚えています」とウォレス。「リックには、『ダニーなら、経験したことのないものを君から引き出してくれるよ。彼は自分が必要とするパフォーマンスを得るための空間のつくり方をよく理解しているからね』と言われました」

撮影中はノマド生活を送っているウォレスは、アメリカでの滞在期間も長く、パンデミック中は本物のジョーンズとビバリーヒルズを散歩しながら、彼が語るセックス、ドラッグ、ロックンロールの話に耳を傾け、パンク・ムーブメントについて吸収していったそうです。そしてもう1つ、彼の記憶に永遠に残るであろう瞬間があります。60歳を過ぎたロッカーが、ロサンゼルスの高級住宅街の道端で立ちションをしたときのことです。そのときウォレスは自分が演じている男に忠実でなければならないと感じ、もちろん立ちションに参加したのだとか…。


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ジャケット 4000ドル(プラダ)ヴィンテージカーディガン、セーター、パンツ、ブーツ(プラダ、スタイリスト私物)
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トーマス・ブロディ=サングスター
(マルコム・マクラーレン役)

トーマス・ブロディ=サングスターは、Netflixのチェスドラマ『クイーンズ・ギャンビット』でベニー・ワッツを、『ゲーム・オブ・スローンズ』でジョジェン・リードを演じている姿でおなじみかもしれません。とは言え、『Pistol(原題)』で演じたバンドのマネージャーで音楽界の仕掛け人マルコム・マクラーレンのような無愛想な姿は、決して見たことはないでしょう。

ブロディ=サングスターは、「いつも聴いていたのでファンになりました」とバンドの大ヒットアルバム『勝手にしやがれ!!』(1977年)を何度も聴いたことを明かしました。「あのエネルギーと歌詞の大胆さは、現在ではとても口にできないものです。しかも、ただ単に衝撃的な効果を狙ってのことではないと思うんです」と、彼は付け加えます。「例えそれが、私たちが口にできないという事実をさすためであったとしても、本当に何かを伝えたかったのだと思います」

最近「Prada(プラダ)」のランウェイも歩いたファッション好きのブロディ=サングスターは、ドラマのシーンで着用したヴィヴィアン・ウエストウッドの赤いタータンチェックのスーツがお気に入りだったそうです。マクラーレンのことを、「彼は本当にこの仕事を楽しんでいたと思います」と言います。「やんちゃでいたずら好きな少年だったから、他の人にもやんちゃしてほしかったんでしょう」


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スーツ 3095ドル、シャツ 675ドル(ジョルジオ アルマーニ)ネクタイ 175ドル(Title of Work)ブーツ 150ドル(ドクターマーチン)
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ジェイコブ・スレイター
(ポール・クック役)

ジェイコブ・スレイターは、15歳のときにダニー・ボイル監督の映画『トレインスポッティング』(1996年)を観て、ただただ圧倒されたことを今でも覚えていると言います。数年後、スレイターがイングランド最南端の海岸沿いのコーンウォールでサーフィンのインストラクターをしていたとき、友人がセックス・ピストルズをテーマにしたドラマのオーディションが行われていると教えてくれたそうです。

その監督は80年代のイギリスを暗闇の中で輝かせた人物であり、男たちとドラッグと悪魔を描いたあの物語をつくった人物なのです。「とにかく挑戦してみようと思い、役がもらえたのは本当にラッキーでした」とスレイター。その役とはバンドのドラマーであり、理性的なメンバーとして欠かせなかったポール・クックです。

「若い頃は、ピストルズやパンクを聴いていました」と語る24歳の彼は、かつてバンドDead Prettiesの前座を務めたこともあり、現在はWunderhorseとして音楽活動をしています。今回が俳優として初めての仕事となったスレイターですが、音楽制作の世界から飛び出し、大勢に見守られながらカメラの前で演じることに慣れるまで少し時間がかかったよう。そして、「勝手を知らない」自分に親切にしてくれた人たちに感謝しているそうです。

幸いなことに彼は、本物のポール・クックの助けを借りることができ、彼は「真の紳士」らしくドラムの練習に付き合ってくれたのだとか…。「自分が演奏しているときに、その曲を書いた本人から肩越しに見られているのは変な感じでした」とスレイターは言います。「でも、とても素敵な人でしたよ」高く評価されているこの有名ドラマーは、撮影現場でスレイターにあるアドバイスをしました。

「『曲の合間にドラムをいじるのはやめたほうがいい。俺はそんなことしたことないから』と言われ、なるほどと思いました」


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ジャケット 995ドル(Cast NYC)ドレス 1195ドル(Et Ochs)ブーツ 1150ドル(セリーヌ by エディ・スリマン)
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シドニー・チャンドラー
(クリッシー・ハインド役)

シドニー・チャンドラーにとってクリッシー・ハインドを演じるための本当のオーディションは、ロックバンド・プリテンダーズのシンガーであるハインドが彼女の資質を見るためにロンドンの自宅に招いたときでした。初めは完全に怖気づいていたチャンドラーですが、すぐにこの日は生涯忘れられない思い出となったそう。

伝説的なシンガーがセックス・ピストルズと一緒に遊んだ思い出や、70年代後半にパンクシーンが花開いた瞬間に居合わせたことなどを話してくれたのです。

「彼女の前で彼女の曲を演奏できるなら、撮影現場でも大丈夫だろうと思いました」と、チャンドラーは言います。「彼女は過去や自分の記憶に対してとてもオープンで、それがとても役立ちました。あそこまで心を開いてくれて、本当に感謝しています」

俳優カイル・チャンドラーの娘である26歳の彼女は、ハリー・スタイルズとフローレンス・ピューが出演するオリヴィア・ワイルドの新作サイコスリラー『ドント・ウォリー・ダーリン』の撮影を終えたばかりのときに、『Pistol(原題)』のハインド役として声がかかったそうです。

「母はいつもプリテンダーズの『My City Was Gone』を歌っているので、知らせを聞いた両親は飛び上がっていました 」と、彼女は振り返ります。「清水の舞台から飛び下りる気持ちですが、ダニー・ボイルに君ならできると言われたら、信じてついていきますよね」

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Roger Deckker
ヴィンテージタンク 199ドル(Society Archive)ベルチャーチェーンネックレス 545ドル、エッジチェーンネックレス 305ドル(Great Frog)ヴィンテージTシャツ 190ドル(Society Archive)ネックレス(ヴィヴィアン・ウエストウッド)

カリフォルニア州ロサンゼルスとテキサス州オースティンで育ったチャンドラーは、クリエイティブライティングの授業の一環で性格描写の演技クラスを受講していたときに演技にハマり、この世界に入ることになりました。

『Pistol(原題)』以前は、歌にもギターにも縁がありませんでした。が、他の出演者と同じように、ミュージシャンになるための数カ月のバンドキャンプに参加しました。その結果、どんなサウンドができ上がったかは、ぜひドラマで確かめてみてください。

「あとで音楽を足すのかと思っていたのに、編集はしないと言われてすごく怖かったけど、みんなの絆が深まったのはよかったです」と、彼女は振り返ります。「役を自分たちの手でつかみ取ったように感じました。ピストルズも同じように楽器を与えられて、それに向かって突き進んでいったのですから」

チャンドラーは初めて会った日に交わした、長い会話の中で見つけたクリッシー・ハインドを演じたいと思ったそうです。ハインドの言葉で、特に心に残ったことを明かしてくれました。

「物事を考えすぎないこと、コントロールできないなら考えないこと…と言われました」「その姿勢を彼女から感じられるのは、とても素晴らしいことです。言うのは簡単でも、実際に行えるかは別の話ですから。それを私も少しでも体現できたと思いたいです」


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左からシドニー:ヴィンデージタンク(Society Archive)パンツ(グッチ)ネックレス(Great Frog)ブレスレット(Cast NYC)/トーマス:Tシャツ 105ドル(Tagfree by Kervin Marc)ヴィンテージパンツ(Richard James)ネックレス(Underground)/アンソン:ヴィンテージTシャツ(Society Archive)パンツ(ジバンシィ)ネックレス(ヴィヴィアン・ウエストウッド)/ジェイコブ:ヴィンテージセーター 1590ドル(ディオール オム、Society Archive)ヴィンテージTシャツ(プラダ)パンツ 811ドル(Bianca Saunders)ネクタイとして着用したリング 235ドル(Great Frog)/トビー:Tシャツ 235ドル(Vintage Showroom)パンツ(ドルチェ&ガッバーナ))ネックレス (Underground)

セックス・ピストルズの伝記ドラマ・シリーズ『Pistol(原題)』は、2022年5月31日(火)にアメリカではHulu、UKではDisney+で配信開始。現時点で日本での配信は発表されていません。

※本記事は、「ESQUIRE」US版の2022年4/5月号に掲載された記事です。

Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。