プラスサイズモデルとは?

この言葉をまだ知らない人や、曖昧な人のために簡潔に説明するなら…「プラスサイズモデル」とは、平均より身長や体重が大きいモデルに使われる用語です。かつて日本では、「ぽっちゃりモデル」などと言われることもありましたが、現在は「プラスサイズモデル」という言葉が主流になっています。また最近では、「カーヴィーモデル」という言葉も出てきました。英語のcurvy(カーヴィー)とは「曲線美の」という意味で、ハリのあるバスト、くびれたウエスト、きゅっと上がったヒップ…といった流麗なボディラインのことを表していて、ただ痩せているのではなくメリハリのある体型のモデルをそう呼んでいます。

では、どのサイズで「モデルらしいモデル」であり、「プラスサイズモデル」と「カーヴィーモデル」の境界はどこにあるのか疑問を持つはずです。 …とは言え、この境界に関して明確な定義はないようです。が、例えばロンドンで人気カーヴィーモデルを輩出しているモデル事務所「Milk」のマネージング・ディレクター、アンナ・シリングロー(Anna Shillinglaw)によれば「サイズ12~14のモデルを『カーヴィー』と定義し、サイズ18以上のモデルに『プラスサイズ』という言葉を使用している」とのこと。また、「それまでファッションの世界では、サイズ10以上は『プラスサイズ』として使用されていた」とも言われています。

しかしながら、「欧米の女性サイズを例に挙げれば、平均的な女性が着る洋服はUKサイズで16、アメリカサイズでは18あたり…」とのこと。つまり、世の中的に平均サイズよりも小さい、あるいは同等のサイズの女の子たちを「プラスサイズ」と呼んでいるのです…この現状には、これまでさまざまな異論・反論が繰り返され、現在に至っているということになります。

幣サイトでも2017年12月にはイスクラ・ローレンス2018年5月に アシュリー・グラハムを「プラスサイズモデル」として紹介しています。が、そんな彼女らも今では、「カーヴィーモデル」と言われるようにもなっています。確かに前述の観点からすれば、「それはプラスなのか?」と論議が浮上するのは当たり前。素直に肯定することはできな領域であることは、確かではないでしょうか。

つまり、そんな面からもファッションにおけるサイズ問題はややこしいことになっているのです。


次にメンズウェアへ
視点を変えてみれば…

これまでウィメンズウェアにおける体形についての議論は多く交わされてきましたが、ことがメンズウェアになると、「“サイズの多様性”を取り入れることについてかなり遅れている」と声高に言えます。

グローバルビジネスメディア「Vogue Business」が最近報じたところでは、2023年秋冬コレクションのショーにおけるラスト1カ月間で、プラスサイズのメンズモデルが登場したのは69ブランドのうち8ブランドのみ…。2022年秋冬コレクションのときも同数だったということを踏まえると、全く進歩が見られていないということになります。

そして、キャットウォークを闊歩しているのはウエストサイズが28インチ(約71cm)以下のモデルばかりということ…。こうしたボディサイズにおける多様性の欠如は、サンプルサイズやそれに近いサイズではない人に、「スリムでもマッチョでもなければ、活躍への扉は閉ざされている」という明確なメッセージを伝えることと同じかもしれません。

おそらく、このこと自体はショッキングなことではありません。そもそもファッション業界は以前から、インクルーシビティ(包摂性。誰も排除せず、互いの個性を認め合うこと)という面で評価が高いわけではなかったからです。2022年に発表された非営利組織である英国ファッション協議会(BFC)の多様性に関する報告書によると、「この業界では、役員および社員のうち女性の割合は40%未満、少数民族の割合は10%未満である」ということが明らかになっています。

しかし問題なのはこの数値だけではなく、「なぜ多くのブランドが新たな前例をつくろうとしないのか」という点です。もちろん、ただPR効果だけを狙うことが主たる目的である場合は、それはそれで大きな問題でもあります。

2027年には、世界のプラスサイズ衣料品の市場規模は6967億1210万ドル(約90兆円)に達すると予想されています。つまり、「Lサイズまたはそれ以上のサイズの男性で、新商品を購入しようとしている人はたくさんいる」と考えることができます。この市場を見逃す手はないでしょう。ですが、ランウェイでそのような背景が反映されていると言えるでしょうか?

ウィメンズの世界では
ファッションに多様性を
求めることは当たり前化
!?

ウィメンズウェアに詳しい人ならは、「ここ数年でサイズにおける多様性に注目度が高まっている」と実感しているはずです。業界ばかりでなく一般の人たちの日常会話の中にも、サイズおよび人種の多様性について意見が交わされることも増えているのは明らか。さまざまなボディサイズのモデルが、ウィメンズのランウェイでもレギュラーでキャスティングされつつあります。

Gucci、Prada、COSなどのエディトリアル、広告キャンペーン、ショーに携わるキャスティングディレクター、リサ・ディンフ・メーゲンスはメンズウェアが後れを取っている理由の一つとして、「サイズの多様性に関する議論が不足しているから」と指摘しています。

「なぜデザイナーは、多様性についてもっと議論しないのでしょう? ウィメンズウェアでは比較的一般的な話ですが、男性にはある種の圧力があります。各ブランドは、『誰も言い出さないのだから、発表する必要もない』と考えているのかもしれません」

エス・エス・デイリーのランウェイ
Jeff Spicer/BFC//Getty Images
エス・エス・デイリー(S.S.DALEY)の2023年春夏コレクションのショーでは、プラスサイズの男性モデルが数人登場しました。

その一方で、ファッションブランドが議論しないのなら…とでも言うかのように、“スリム至上主義”による差別を払拭しようと積極的に活動しているインフルエンサーたちがいることを見逃してはいけません。

ファッションジャーナリストであり講師であり、ハンドバッグ愛好家という肩書を持つディノ・ボナチッチは自身のニュースレターである「Handbags At Dawn」に注目してみましょう。そこで彼はハンドバックといったアクセサリーの愛好家になった理由を、「ファッション業界におけるサイズ設定の悪しき慣行が原因で、『ファットフォビア(肥満嫌悪)』に陥ることを避けられるから」と述べています。

LAブランドであるERLのXLサイズのパンツが入らないことについては、「笑えるけれど泣きたくなります」とボナチッチは語っています。さらに続けて…

「一番大きいサイズが入らないという経験は、これまで何度もしてきました。特に新興ブランドのパンツでは…。

そうした経験をするたびに、ファッションが自分にぴったりのサイズを求めている人の大部分を無視するような、いかに限定的なものであることを思い知らされます」

加えて、多くのブランドではサイズ設定の規格が完全にバラバラで、サイズ感がわかりにくくなっていると嘆いています。

「あるパンツは実際にMサイズで大丈夫でも、他のパンツをはこうとしたらXLサイズでも入らない…。全く無秩序な世界なのです」


リアルな民衆の想いは
ブランドには届かないのか

そこで注目すべきなのが、SNSです。ファッション・ウィークが少数派への対応を重視する際によくあることですが、ソーシャルメディア上にはリール動画といった親しみやすいコンテンツで人々の声が挙がっています。

サイズの多様性に関して言えば、TikTokまたはInstagramの動画フィードを少しスクロールすれば、プラスサイズの体を堂々と披露する男性たちの動画を目にすることができ、ハッシュタグである「#ootd(または #outfitoftheday)」がスリムな人だけのものではないこともわかるでしょう。

TikTokでは19万4000人のフォロワーを持つドレイク・アンドリューズが、6XLサイズまでの人が購入すべきブランドやアイテムについて日々投稿しています。また、ダニエルが着こなすXLサイズのミニマリストスタイルは、このスタイルの美学がスリムな北欧人だけに当てはまるのものではないことを、身をもって示しています。

そしてカイル・プレツラフは、Instagramでキャットウォークからインスピレーションを得た2XLサイズのコーディネートを披露しています。

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彼らを結束させているのは、投稿を支持し感謝を伝えるたくさんのコメントです。ディンフ・メーゲンスも、体脂肪ゼロの体形からリアルなお父さん体形までさまざまな男性をキャスティングしたファッション記事を投稿した後、同様の経験をしたそうで、「たくさんのいいねとコメントをもらい、多くの人がその記事を気に入ってくれました」と語っています。

これまでにキャットウォークでサイズの多様性を実現した例はいくつかあり、それに対する反応もポジティブなものでした。

メンズのサイズにおける
多様性はインフルエンサー
によって進化へと導かれる

LVMHプライズ(若手デザイナーの育成・支援を目的としたLVMH主催のコンテスト)で受賞したイギリスブランド「エス・エス・デイリー(S.S. DALEY)」は、2023年春夏コレクションのショーでミッドサイズからプラスサイズのモデル4人を起用しています。

それに対し批評家たちは、「エス・エス・デイリーのデザイナーであるスティーブン・ストーキー・デイリーは、ロンドン・ファッション・ウィークのショーでさまざまなボディサイズのスタイルを提示した数少ないデザイナーの一人であり、そのコレクションは多様性を示す唯一のメンズウェアだ」と賞賛しました。

ブランドのウェブサイトに掲載されている、「Coming soon to(まもなく取扱いを開始する小売店)」の欄に挙げられている数の多さを見れば、このコレクションが経済的にも成功していることがわかるでしょう。

エス・エス・デイリーのショーに登場したプラスサイズモデルの一人であるジェームズ・コービンは、この出来事について「何か新しいことが始まるような気がしました」と語り、次のように話しています。

「キャスティングプロセスからランウェイを歩くときまで、とても特別な気分を味わいました。

私は、スティーブンがとても好きだし、彼のデザインが気に入っています。この経験はとても貴重なもので、ファッションの進むべき方向性を教えてくれました。ソーシャルメディアでの反響もとても大きかったです!」

ランウェイ
Jeff Spicer/BFC//Getty Images
エス・エス・デイリー 2023年春夏コレクションのランウェイを闊歩するジェームズ・コービン(写真中央)。※トップの画像もコービンです

昨シーズンは、ウィメンズウェアにおけるプラスサイズの発表が2020年以降で最も少なくなり、「TagWalk(ランウェイ検索エンジン)」によると、ロンドンとは対照的にミラノ・ファッション・ウィークに登場した“カーヴィーモデル(メリハリのある体型)”は77%減少。残念ながら多くの人が案じていたとおり、「カーヴィーモデルは一過性のトレンドだ」ということが再確認された形となりました。

ですが、ランウェイでプラスサイズの男性モデルを見られること自体、正しい方向への第一歩と言えるのかもしれません。ウィメンズウェアが90年代の理想体型に回帰しつつある一方で、少しずつではあるかもしれませんがメンズウェアでは、サイズの多様性がもっと真剣に取り上げられるようになる可能性はあります。

ラグジュアリーの世界をよりインクルーシブなものにするための取り組みにおいて、コービンのエージェントである、SUPAモデルマネジメントの創設者チャーリー・クラーク=ペリーはその中心人物の1人です。彼は次のように述べています。

「メンズウェアにサイズの多様性をもたらすことは、私にとって非常に重要なことであり、男性はあらゆる体形やサイズで表現される必要があります。

まさにそれを実現することを目標に、私は2013年にこのエージェンシーを設立したのです。ただしサイズだけでなく、性別、人種、障がいの有無に関しても…ダイバーシティ&インクルージョン(D & I=人種・年齢・性別・能力・価値観などさまざまな違いを持った人々が組織や集団において共存し、その多様な個性や経験を持った集団がそれぞれを認め合い、各々の特性を活かした活動が行われる状態)への改善を目指しています

そんなクラーク=ペリーは、周囲に働きかけて変化を起こそうともしています。

「もし、より多くのモデルエージェンシーが、さまざまなサイズやバリエーションのあるモデルを所属させれば、ブランドにとっても選択肢が広がり、ひいては、キャットウォークでこうしたモデルが起用される機会が増えることになります」

(前述のエス・エス・デイリー 2023年春夏コレクションのランウェイに登場した)コービンの成功は、「エージェンシーのサポートと変化を起こそうとする意思がなし得た好例」と言えるでしょう。彼はキャットウォークだけでなく、『Vogue Italia』『DAZED(イギリスのカルチャー誌)』『Perfect Magazine(イギリスのファッション、アート、カルチャー誌)』のエディトリアルページにも登場しています。

クラーク=ペリーは、メンズウェアの世界が変わりつつあると考えているのでしょうか? その疑問に対する彼の答えはこうです。

「ゆっくりと、少しずつ進歩しています。ただ、ウィメンズウェアに比べると進歩の具合はかなり小さく、今シーズンは特に一歩後退しているように見えますが…」

先述のボナチッチは、直近の買い物で経験した辛い出来事に関して、「太もも、お尻、お腹に肉がついている体形は流行らないんですよね」と語りました。確かにその傾向はあります。ですが、それが悪いことなのでしょうか? ボディサイズはトレンドではなく、さまざまなボディサイズが受け入れられる社会を築き上げていくべきではないでしょうか。そう、こうした体形も流行りになるべきではないと言えるのです…。

つまり、プラスサイズのボディは単なるマーケティングの道具ではなく、当たり前のものであるべきこと。そして、ゆっくりとではありますが、私たちはそんな未来に向かおうとしている手ごたえを感じいます。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。