現アメリカ大統領であるドナルド・トランプ氏(アメリカ国民が「将来、長きにわたって影響を及ぼすほど、世界的な出来事を動かすことができる巨大な権力を与えるにふさわしい…」と考えた男です)には、(ここで、「残念ながら」という言葉を加えるかを悩みなしたが…結局、加えません)ほとんどと言っていいほど称賛すべき資質はありません。

1つ挙げるとすれば、少なくとも言葉のうえでは「終わりなき戦争」に対して嫌悪を示し、「何が勝利なのか誰にもわからない」ような紛争から米国を救い出そうとする衝動があることぐらいです。

しかし、そんな正義にも類する資質を感じさせるところもあるのに、彼という人間を覆いつくす別の大きな特徴によって、そのことは全くといいほど相殺されてしまうのでした…いえいえ、それ以上に、マイナス側へと深くを穴を掘ってしまってるのが事実です。

特に彼の周りの世界へ対しての徹底した無関心と衝動的な意思決定プロセスの前では、それは取るに足らない資質に過ぎないのです。

このようなトランプ大統領の特徴がはっきり示されたのが、シリア北部の同盟勢力であるクルド人を見捨てたことであり、さらにこの地域へのトルコによる侵攻、および将来的な支配を可能にした彼の決断です。

トランプ大統領は、トルコの独裁的政治指導者であるレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と電話会談を経た2019年10月6日(米国時間)、明らかに早とちりした決定を下しました。

この決断については、トランプ大統領が信頼を置いてきた共和党のリンゼー・グラム上院議員共和党寄りのニュース番組兼トークショー『フォックス & フレンズ』司会者のブライアン・キルミード氏さえも、明らかに反発しているのです。

今回の決断は、トランプ大統領自身の軍隊や外交団のあらゆる政策立案にも完全に矛盾するもので、彼の元で対ISIS特使を務めたブレット・マクガーク氏からもすでに手厳しい評価がツイートされています。

確かに、マクガーク氏によるトランプ氏の評価は正論ですが(「トランプ氏は一切の知識や熟慮なしに衝動的に決断する。何の支援もなく軍人を危険地帯へと送り込み、ハッタリをかまして敵に見抜かれれば、同盟相手を平気で危険にさらす」というもの)、この決定には考慮すべき別の要素が存在します。

トランプ大統領は2015年12月に、「私には、ちょっとした利益相反がある。イスタンブールに巨大なビルを持っているからね…」と語ったうえ、「大成功しているビジネスで、トランプタワーと言います。2つのタワーがありまして…そう、1つじゃなくて2つあるのです」と続けていました。

当然ながら、この利益相反を解消するための方法は、大統領になって米国市民の利害を代表することを約束した時点で、自らの個人的なビジネスを完全に手放すことでした。それこそがトランプ大統領の、多岐にわたる国外ビジネスでの利害に対する懸念を緩和する方法でもありましたが、彼は現在もこれらのビジネスを保有しており、その利害は米国の外交政策に関して、彼が下すあらゆる決定に暗雲のようにつきまとっています。

例えば、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2018年、米国在住のジャーナリストであったジャマル・カショギ氏を殺したときにトランプ大統領がかばったのは、サウジアラビアとの同盟に大きな価値があると考えたからでしょうか? 過去の米国大統領であれば、サウジアラビアの残虐行為を同じように許さないはずです。それはサウジアラビアが、トランプ大統領の金儲けに役立っていたからに他ならないでしょう。

今回の決定にも、同じ疑問が浮かびます。

トランプ大統領がエルドアン氏の計画を電話で了承したのは、彼が騙されやすいからでしょうか? あるいは、国境内の誰に対しても責任を負わない独裁者の輪に加わり、縁故資本主義者の泥棒政治を自由に運営したいからでしょうか? そうじゃありませんね。これはすでに、自らが利益相反を認めたトルコ国内の資産の特定のビジネス上の利益を、単に守りたかっただけだと読めるでしょう。

エルドアン氏は、「これが米国にとって最良の政策です」と説得したのでしょうか?それとも、「あなたの金儲けにとって、おれが一番都合のいい政策です」と説得したのかもしれません。

Trump Towers Rise Above Istanbul
Chris McGrath//Getty Images
トルコ・イスタンブールのトランプタワーは、トルコのシリア干渉をめぐるトランプ氏の決定に影響を与えたのでしょうか?

一方、トランプ大統領は、2019年10月7日の決定への反発にTwitter上で反応しました。このツイートは、彼が完全に正気でないことをはっきりと示しているのではないでしょか。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
ドナルド・トランプ氏のツイート:
以前に強調したことを繰り返し言っておくと、もしトルコの手で私の偉大かつ比類なき知性が、「一線を越えた」とみなすようなことが行われれば、私はトルコ経済を完全に崩壊させ、抹消する(以前にもやったことです!)。トルコは欧州やその他の国々とともに、捕虜にしたISISの戦闘員やその家族を監視しなければならない。米国はイスラム国全域の制圧を含めて、誰もが予想できなかった大仕事を成し遂げてきました。今度は他国がこの地域で、自分たちの領土を守るべきときなのです。なぜならこの地域には、かなり裕福な国もあるのです。いままで米国は、よくやってきました。

道をその男が横切ったら絶対く避けたくなるような人物が、米国大統領を務めている現状において、米国国民たちは今後やっていけるのでしょうか?これまでできたわけなので、「今後もできる…」とも言えるのですが。

いずれにしても私たちが知る利益相反は、イスタンブールの不動産のことだけになります。AP通信は2019年10月7日(米国時間)、トランプ政権のウクライナでの失態について新たな一面を明らかにしました。これはトランプ氏やその仲間たちが、トルコを含む世界中で行っている不正な取引について、疑念を抱かせるのに十分な内容となっています。エネルギー長官であるリック・ペリー氏は、これまで基本的にトランプ政権の一連の腐敗への関与からうまく逃れてきました。ですが、それも「これまでのこと」と言えるでしょう。 

AP通信:01
2018年春、ルディ・ジュリアーニ氏(トランプ氏の顧問弁護士)がウクライナ当局に対し、トランプ大統領にとって有力な政敵の一人を調査するよう要請したとき、トランプ大統領および彼の顧問弁護士につながるある実業家グループも、この旧ソ連の国で活発な動きを見せていました。彼らの目的は金儲けであり、政治では決してありませんでした。共和党の献金者でもあるこの実業家グループは、ジュリアーニ氏やトランプ氏とのつながりを誇示しながら、ウクライナの巨大な国営ガス企業に新たな経営陣を送り込もうと試みていたのです。同グループの計画について知る2人の人物によれば、「この計画はトランプだいと大統領に近しい実業家たちが支配する企業に対し、金になる契約をもたらすためのものであった」と言います。
しかし、国営ガス企業のナフトガスに都合のいい経営陣を据えようとする彼らの試みはすぐに、米エネルギー長官のリック・ペリー氏によってウクライナの新たなウォロディミル・ゼレンスキー大統領へと取り次がれることに。送り込まれる予定となっていた経営陣の候補には、ペリーのかつての政治献金者の一人であり、彼と親しいテキサス出身の人物が含まれていました。
ナフトガスの経営陣を入れ替えようとするペリー氏の試みが、同じような結果を求めていたジュリアーニ氏周辺の実業家グループと申し合わせたものであったかはわかってはいません。また、これらの試みの中で、何らかの犯罪行為が行われたという主張も浮上していません。そしてジュリアーニ氏については、自らのクライアントがウクライナの国営企業とのガス販売契約を獲得する手助けをするうえで、どんな役割をはたしたのかもはっきりはしていなのは事実です。
しかし、この出来事が示すのは、トランプ大統領やトランプ政権とつながりのある実業家たちが、ウクライナでどれほどビジネス上の取引を追求していたかということです。このような取引は、トランプ大統領の個人的な政治的利益の範疇(はんちゅう)をはるかに超えています。また共和党が、ウクライナにジョー・バイデン氏とその息子のハンター・バイデン氏(ウクライナの別のエネルギー企業であるブリスマで、5年間幹部を務めていました)の調査をするよう要求していた件と同じように、トランプ大統領の協力者たちがビジネスと政治を混同している可能性についての疑問も、蒸し返すものであることは確実です。

引用部の最後の段落は従来の通信社の基準で言えば、かなりの「火傷」と言えるでしょう。これほどの偽善行為は、トランプ政権が誕生するまでは前代未聞でした。ですが、それ以降は当たり前のものとなってしまいました。

例えば大統領以前からトランプ氏自身は、大統領選でヒラリー・クリントン氏による私的メールアドレスの公用に関して声高に非難してきたにも関わらず、彼の多くの側近は同様の行為をしていたのはご存知のとおりです。

イヴァンカ・トランプ氏もそんな側近の一人であり、彼女は「それが問題だったとは知らなかった」とほのめかすような、信じられない図々しさも示していました。そんなイヴァンカ・トランプ氏と言えば、こんなツイートもありました。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
イヴァンカ・トランプ氏のツイート: 
エルドアン首相、昨日はトランプタワー・イスタンブールの棟上げをお祝いするために参加していただき、ありがとうございました。 

このウクライナへの圧力が犯罪でなければ、AP通信が示唆するように、私たちには新たな法律が必要です。今回の疑惑は、トランプ政権のあらゆる試みから容赦のない腐敗がもたらされる可能性を示しています。

そもそもは、大統領が詐欺師であることが大問題なのですが、明らかに大統領にふさわしくない男トランプが、有能さと倫理観を兼ね備える人物を政権に引き込むことができないということにも問題があります。

あらゆるトランプ政権の取り組みが停滞しつつあるのは、関係者の圧倒的な厚かましさのためということでしょう。彼らはあまりにも愚かで、自分たちの失脚を予想できないのか、あるいは単純に現実自体を否定しているのでしょう。

そして、この結果を最終歴に受け入れなければならないのは、この男を「将来、長きにわたって影響を及ぼすほど、世界的な出来事を動かすことができる巨大な権力を与えるにふさわしい…」と考えた米国国民たちなわけです。

Source / Esquire US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。