記事のポイント

  • サイルリアン仮説」とは、数百万年前に存在したかもしれない人類誕生以前の工業文明について、地球の地質学的記録からその証拠を見つけることが可能かどうか? を問うものです。
  • この思考実験を行った宇宙生物学者は、「地球の地質学的記録にはそのような仮説を裏づける強力な証拠はない」と結論づけました。
  • 同時に、「このように長いスパンで、地球の挙動を深く掘り下げることができるような科学的手法はまだない」という事実も明らかになりました。よって、太古の地球について調べるなら、従来の考えにとらわない新たな方法を開発する必要があります。

私たちが住む惑星「地球」には、少なくとも4億年前から複雑な生命体が存在していたとされています。そしてヒト属(ホモ属)に関して言えば、およそ200万年前にアフリカでアウストラロピテクス属から分化し、現生人類であるホモ・サピエンスは40万年~25万年前に現れたということ(環境省発表2009年「環境白書」の序章より)。

ですが、一つの種として人類が工業文明が構築されていったのは現在のところ、18世紀の後半のIndustrial Revolution(産業革命)の時期…そう、「たった300年ほど前の出来事にすぎない」となります。「それ本当?」と思う人がいても不思議ではないでしょう。

そして陰謀論、フェイクニュースなどSNSの隆盛によってさまざまなストーリーが拡散され、事実と仮説さらには嘘の区別が困難になりつつある現在。2018年2月にオンライン世論調査会社YouGovによる調査では「アメリカのミレニアム世代の3分の1が、地球平面だと思っている」という結果は導き出されたように、「地球平面説」を信じる者が急増しているとのこと(ちなみに、The Flat Earth Society(地球平面協会)グループのFacebookメンバー数は現時点で5.6万Xは10.1万フォロワーです)。

さらにこれと同様に、太古の地球上にはすでに産業文明が存在していた「サイルリアン仮説」の支持も増えているようです。



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Humans vs Silurians | Cold Blood | Doctor Who
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サイルリアン(Silurian)

・日本語で言う古生代の3番目のあたる「シルリア紀」にあたる時期。

・また、BBCで放送された長寿SFドラマシリーズ「ドクター・フー」(1963年11月23日~1989年12月6日)に登場する、地球の先住民族の1種。1970年のシーズン7で初登場し、2005年から始まる新シリーズでは2010年に放映されたシリーズ5で再登場を果たしています。つまり「サイルリアン」は、地球外生命体ではなく、人類誕生以前に地球に生息していたトカゲに似た外観の知的生命体という設定。その名の「Silurian」は、(約4億4400万~4億1600万年前の時代とされる)古生代のシルル紀(Silurian period)に生息していたとされていたことから命名されたようですが、ドラマ内では3代目のドクター際には「(約5600万~3390万年前の時代とされる)新生代の中でも古第三紀にあたる始新世までの期間に生息していた」と3代目ドクター(ジョン・パートウィー扮する、第7シーズンから第11シーズンまでの主役)は指摘しています。ですが、のちの1人(匹?)が、「6500万年前のヒルや恐竜をその目で見た」と証言していることから、(約1億4500万~6600万年前の時代とされる)白亜紀には高度な文明を築いていたことも匂わせています。ちなみに、宇宙船も製造することができたようです。



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この仮説は、「(論文内の「サイルリアンSilurian)」が、「ドクター・フー」に登場するトカゲ似た先住知的生命体のことを指しているのかはこの段階では明確に判断できませんでした…)少なくとも数百万年以上前の地球には人類以外の文明が存在し、産業革命以降に人類が引き起こした気候変動に匹敵、もしくはそれ以上の自然環境の破壊によって、地球を温暖化させたうえで滅びた文明がすでに存在していた」を前提話に、それがもし本当だったとしたら、どのようにしてそれを証明するのか? あるいは、どのようにして反証するのか? を探る論文になります。

そんな「サイルリアン仮説」は2018年4月に、『International Journal of Astrobiology』に論文として掲載され、興味深い思考実験として注目されました。米マサチューセッツ工科大学が所有するメディア企業Technology Review, Inc.が運営する科学技術メディア「MITテクノロジーレビュー」でも、2018年4月20日公開で紹介されています(日本語版は同年5月15日公開)。

これはNASAゴダード宇宙科学研究所の気候科学者ギャビン・シュミット博士とニューヨーク州ロチェスター大学の天体物理学者アダム・フランク教授によって、人類よりも前にあった高度な文明があったと仮定してうえで、「世界の地質記録で産業文明を検出することが可能かどうか?」について検証したものです。 この二人は、宇宙の他の場所に生命が存在する可能性や、人類が地球に影響を及ぼした現在の地質学的エポックである区分「人新世(Anthropocene)」との類似性に関して長年疑問を持ち続けていたようで、次のように語っています。

「『エネルギーの使用が現代の人類レベルに達すると、現在のような気候変動が起きる』というのは、どんな文明においても共通なのか? と、私は疑問に思っていました。もし異星人の文明があるとしたら、そこでも気候変動は起きるのか? ということです」

こうした疑問を抱いてたフランク教授は、ニューヨークのコロンビア大学内にある気候変動のエリート研究機関「NASAゴダード宇宙科学研究所(GISS)」を訪問しました。同教授の狙いは、自身の考えを気候変動の研究者たちと共有することでしたが、それを話せばきっと怪訝(けげん)な顔をされ、懐疑的な目を向けられるものと予想していました。

フランク教授は、『ポピュラー・メカニクス』誌にも次のように語ってくれました。

「私はギャビン・A・シュミット氏(気候学者であり、応用数学の博士号を持つGISSの所長)と会い、異星人の可能性について話し始めました。すると、ギャビンは私の話を止め、『ちょっと待ってください。なぜ地球上で文明をつくったのはわれわれ人類だけだとわかるのですか?』と言ったのです」

その答えであり質問でもある彼のセリフはフランク教授にとって、まさに 「アハ体験」(ひらめきや気付きの瞬間的な認識)だったのです。それが主なきっかけとなり、これまで当然だと思っていた事実を見直すことになったのです。

地球の地質学的記録に
おける証拠

geological time spiral illustration, silurian hypothesis prehuman industrial civilization
United States Geological Survey, Public domain, via Wikimedia Commons

ホモサピエンスが初めて地球に登場したとされているのは、およそ30万年前としましょう。万が一、それよりも前に工業文明が存在していたとしたら、「人類よりも先にそのような文明をつくった種が存在した」ということになります。シュミット氏はこの考えを、英BBCのSFテレビシリーズ「ドクター・フー」で1970年代に放送されたエピソードに登場するキャラクター(核実験によって4億年の冬眠から目覚めた、高度なトカゲ(爬虫<はちゅう>類)型ヒューマノイド)の名にちなみ、「サイルリアン仮説」と呼びました。

この研究の著者たちは、4億年前から400万年前までの期間に焦点を当てて考察することにしました。しかしながら数億年前にさかのぼって、ホモサピエンス以前の文明の痕跡を見つけるのはそう簡単なことではありません。

フランク教授は、「数百万年も前ということになると、地表の地層はほぼすっかり入れ替わっています。彫像や建築物があったとしても何も残っていないでしょう」と指摘。全て塵埃(じんあん=ちりとほこり)となっていて、化石という形での記録もほとんど存在しないでしょう。そうなると唯一の証拠は物理的なものはあきらめ、化学的な痕跡という形になるかと思われます。

そしてフランク教授は、次のように説明します。

「岩石の各層について、二酸化炭素のようなトレーサー(標識物質)である炭素同位体比や酸素同位体比に異常傾向がなかったかどうか? を調べるのです。工業文明があったとしたら、われわれ人類の文明と同様、大気中に二酸化炭素が大量に放出されます。プラスチックやナノ粒子も、太古に工業文明があったことを示す証拠になるはずです」

シュミット博士とフランク教授は、地質史上のいわゆる「暁新世-始新世温暖化極大(Paleocene-Eocene Thermal Maximum、PETM)」期に注目しました。約5600万年前のこのPETM期には、「地球の平均気温が現在よりも華氏15度(摂氏8.3度)高くなり、温暖化によって地球の氷が溶けてしまうという奇妙な現象が起きていた」という研究論文」があるからです。

調査では、PETM期の地質の炭素と酸素の同位体比には確かに急上昇が見られました。が、同時に減少も見られたのです。これらは数十万年かけて変化していっているもので、現在の気候変動のスピードには到底及びません。フランク教授によれば、PETM期の地質に見られる同位体比の違いは、長期的な気候変動を示唆するものと考えられます。

彼らはまた、PETMの地質学的記録に見られる海洋無酸素事変(海水中の酸素欠乏)や生物絶滅事象など、他の“突発的事象”についても検討しました。やはり、そして恐らく少し残念なことに、それらは工業文明を示すものではありませんでした。

「オッカムの剃刀」の適用

ニューヨーク・フォーダム大学のスティーブン・ホラー准教授(物理学)は『ポピュラー・メカニクス』誌に対し、「地球には大昔に滅亡した工業文明が存在した可能性があり、その存在が気候変動との関連性を示す地質的特徴の中に残されているのではないか? という仮説は魅力的ですが、当事者の研究著者たちでさえ、それが真実である可能性について納得のいく答えを得ていません」と語っています。

もし太古に工業文明が存在し、その滅亡の原因が産業活動による壊滅的な気候変動の結果だとしたら、私たちはその警告に耳を傾ける必要があります。

科学の世界には、「オッカムの剃刀(かみそり)」という偉大な経験則が存在します。14世紀にイギリスの哲学者で神学者でもあったフランシスコ会修道士オッカム村出身のウィリアムが提唱したもので、「ある問題に対する最も可能性の高い解決策は、最もシンプルなものである」という考え方です。

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Contact: Occam's Razor
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この言葉は、1997年公開の映画『コンタクト』の中でもジュディ・フォスターが演じる主人公エリー・アロウェイが「物事の検証において、真実を仮説によって立証するには余分な枝葉をそいでいくことでより真実が見えてくる」という数学の定義として引用しています。

ホラー氏は、「この場合、この考えがあてはまる可能性が高い」と指摘しており、地質学的な記録の大部分は自然現象の観点で説明でき、失われた文明という概念を持ち込む余地がない」との考えを示しています。

しかし、もし太古に工業文明が存在し、その滅亡の原因が産業活動による壊滅的な気候変動の結果だとしたら、文明としてまさにその瀬戸際に立たされている私たちは、その警鐘に耳を傾けることが必要です。ホラー氏は警戒を示しています。

「この境界を越えれば、私たちにはハードランディング(急激な悪化)が待っており、存続できる可能性はほとんどないでしょう」

持続可能性が向上すれば
痕跡も少なくなるという
ジレンマ

a futuristic city where robots and flying saucers are common place
Getty Images

「サイルリアン仮説」には、一つのジレンマがあります。それは、エネルギー生成や資源製造の方法において社会がより持続可能であればあるほど、つまり、社会が先進的であればあるほど、地球に残す足跡(環境フットプリント)は少なくなるということです。フットプリントが少ないということは、その時代の地層にほとんど痕跡が残らないということになるのですから…。

例えば、私たちがプラスチックや難分解性の合成分子を多く生産すればするほど、未来の文明人が私たちの存在の痕跡を見つける可能性は高くなります(現代の社会では、全世界のプラスチック年間生産量は、なんと世界の人口の合計体重に匹敵する3億トンです!) 。核による大惨事で人間が地球上から姿を消したとしても、長期間消えることのない放射性粒子が後世まで残り、私たちの存在の悲しき痕跡を教えてくれることでしょう。

「サイルリアン仮説によって現在の文明が消滅し、1000万年あるいは2000万年後に誰かが私たちの文明を探した場合、どのような痕跡が残るか? という点が明確になりました」とフランク教授は話します。

しかし何より、この研究によって、現在の科学装置にはある欠点があることが明らかになりました。フランク教授は、「人類以前に存在した種の産業活動が特に短期間だった場合には、現在のようなツールや方法で古代の堆積物から痕跡を検出することはできない」との見方をしており、「太古の文明が存在した証拠を探したければ、まだ誰も行っていない研究をし、新たな方法を開発する必要があります。例えば、もっと細かいタイムスケールで地層を調べる方法を考え出さなくてはなりません」と言います。

ここで忘れてはならないことは、数百万年にわたる複雑な生命の進化と、その過程でさまざまなものを地球が滅亡させてきたということです。そしてフランク教授もシュミット博士も、人類以前に工業文明が存在したとは実際に考えていないようですが、「サイルリアン仮説から得られる主な教訓は、『何かを明確に探さなければ、それを見ることさえもできないだろう』ということだ」とフランク教授は結びます。

Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics