個性際立つハイエンドのクルマと言えば、テスラ「モデルX」やマクラーレンのスーパーカーなどが該当します。そういった最先端のテクノロジーを搭載したクルマと聞くと、どうしてもその特殊性能が注目されがちではないでしょうか。確かに、テスラを支えるEV用のバッテリー技術や、サーキット上で驚異的なグリップ力を生み出すマクラーレンの空力性能などは気になってしまうものです。

しかし、そういった時代を先どる先進的なクルマにも、おなじみの乗用車との共用部品が数多く使用されていることをご存知でしょうか? このページでは、各モデルの基本パーツやその不思議な使われ方について掘り下げて紹介します。

空調パーツも共有する「モデルX」

まずは、テスラ「モデルX」について。このクルマは姉妹車に当たるセダンの「モデルS」と多くの部品を共用していることは、よく知られています。つまり、メルセデス製のステアリングコラム(自動車のハンドル軸)やウィンドウ用のスイッチパーツなどが、両EVに使われているのです。

実はそれ以外にも、他メーカーの部品を共有しているパーツが存在します。「モデルX」の最新技術の1つに「生物兵器防衛モード(Bioweapon Defense Mode)」がありますが、その空調システムにも他のクルマにも用いられているありふれたパーツが流用されているのです。それがヒーターコア・ブレンドドア・アクチュエーター(heater core blend door actuator)という、ドアの開閉や吹き出し口の温風/冷風の強弱などを調整するのに用いられる電動サーボモーターです。

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「モデルX」のブレンドドア・アクチュエーターは部品サプライヤーの韓国のウーリー(Woory)社によって製造され、この部品はヒュンダイやキアのクルマにも純正パーツとして用いられているのです。アメリカ市場において、2009年のヒュンダイ「ソナタ」に搭載されたのを皮切りに、海外でもヒュンダイ「i30」やキア「Kia Cee’d」などにも搭載されて出回りました。

テスラの「生物兵器防衛モード」の空調システムは極めて高度な技術ですが、ウーリー社製のブレンドドア・アクチュエーターのように信頼性の高い既存の部品を流用することが、コストと信頼性の観点から最良の選択とされるケースも決して珍しくはありません。

テスラ、マクラーレン、メルセデス・ベンツ…

テスラがメルセデス・ベンツの内装部品やスイッチなどを大量に借用したのみならず、マクラーレンも小型ミッドシップのスーパーカー「570S」にメルセデス・ベンツ「Eクラス」のウィンドウモーターを採用しています。

ドイツの自動車部品メーカーのブローゼ社が製造するウィンドウモーター「No. 934531-102」ですが、まずは2010年式メルセデス・ベンツ「Eクラス」に初搭載され、その後マクラーレンの車両にも使用されるようになりました。「570S」のドアパネルを外した経験のある人がもしもいるのであれば、ブローゼのブランドネームと並んでメルセデス・ベンツのロゴが刻まれたモーターカバーがそこにあるのを、ご覧になったかもしれません。

このウィンドウモーターですがメルセデスAMG「GT-R」を始め、さまざまなモデルに搭載されている人気製品となっています。

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MERCEDES-BENZ
2010年式メルセデス・ベンツ「E350」。

またテスラ「モデルX」には、マクラーレン用に設計されたパーツが一部流用されていることも判明しています。「モデルX」と言えば、あの奇抜なファルコンウィング式の後部座席用ドアのインパクトも強いですが、実はフロントドアにも先進的なソフトクローズドア(半ドアの状態から電動で閉まるメカニズム)が装備されています。

これは、イギリス・ロンドンのハイテク部品メーカーのシュバリエ・テクノロジー社製の電動ラッチ式のドアですが、マクラーレン「MP4-12C」の初期モデルに採用されていたメカニズムの流用です。これは、他のマクラーレンのラインナップにも同様に用いられています。

アフターマーケットへの恩恵も

マクラーレンとテスラの、このようなユニークな関係により生み出された恩恵の1つが、アフターマーケットにおけるグレードアップの選択肢の拡大と言えるでしょう。マクラーレンの一部車種でも装備しているこのソフトクローズドアですが、「モデルX」にも同じくシュバリエ社製のバージョン違いが標準装備されています。これら2種類のパーツに互換性があることに気づいた一部のマクラーレンオーナーたちが「モデルX」用のパーツをマクラーレンに取り付け、ソフトクローズドアの改造を行うようになりました。

以下の動画は、このアップグレードについて説明したわかりやすい例と言えるでしょう。あるマクラーレンのオーナーが、改造のために必要なテスラ用パーツの部品番号などを解説しています。そこでは、テスラとマクラーレンという毛色の異なるクルマの部品が共有可能であることが示され、結果的に両者のオーナーにとって小さくないメリットとなっているのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
How I installed soft close doors on my McLaren (using Tesla parts)
How I installed soft close doors on my McLaren (using Tesla parts) thumnail
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別格的な存在とも言えるハイエンドの超高級車に、なぜ乗用車の一般的な部品が用いられているのか、不思議に思われる人もいるかもしれません。ですが、少量生産のメーカーにとって既存のパーツから互換性のあるものを利用することは、特に経済的観点から大きなメリットと言えます。販売されているクルマの各種部品はすでに大規模な研究開発やテストが行われた結果の製品であり、その流用がかなうのであれば、生産台数の小さな自動車メーカーにとっては新たなパーツ開発のための費用削減とリスク軽減にもつながるのです。

例えば、マクラーレンのように少量生産が前提となるクルマにおいては、数少ない台数に分散された開発費用が1台ごとの価格に上乗せされています。もしかしたら、“もともと超高価格帯で販売されるスーパーカーなのだから、大した問題ではないはずだ”、と考える人もいるかもしれません。

ですが、現代のクルマを1台つくるのに、一体どれほどの部品が必要であるかを想像してみてください。何から何まで自社で開発しようと思えば、クルマの価格はさらに大きく跳ね上がることは確実です。例えば、テスラやマクラーレンが採用するドアラッチのような部品であれば、その有効性がどれほど顕著であるかおわかりになるでしょう。開発しようと思えば、膨大な費用を投じなければならないだけでなく、一般市場におけるドアの開閉に関する安全規制に適用させるための検査費用にも大きなコストが生じるのです。

このような共用パーツは、歩行者の目にもドライバーの目にも映らないものが大半です。とは言えクルマを分解してみれば、何か見覚えのあるパーツがそこには必ず取り付けられているものなのです。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。