秋山さんが13歳のときだったそうだ...。あるオーケストラの演奏会を聴き、「その演奏に心が動かされた…」と言う。

その楽団の指揮をしていたのが、まだ学生の小澤征爾さんだったのだ…。当時は、現在のような「世界のオザワ」といったディグニティ(威厳)を感じることもなく、とても人懐っこさを感じさせる印象であったと言う。

公演後、楽屋を訪ねたところ、小澤さんの師であり、指揮者としても音楽教育者としても知られる齋藤秀雄さんを紹介され、あっという間に音楽修業の道に入っていった秋山さん。

その出会いはまさに青天の霹靂(へきれき)がごとく、秋山さんは以来、「指揮者」としての仕事の魅力に取りつかれ、どんどんのめり込んでいったそうだ。

オーケストラに合わせ
華麗にバレリーナが舞う

ここで今回の写真をご紹介しておこう。

2019年8月1日(木)、首都圏のオーケストラが集結し、独自のプログラムでクラシック音楽ファンを楽しませてくれる夏の川崎の風物詩「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2019」(会場:ミューザ川崎 シンフォニーホール)のひとつのコンテンツ、「オーケストラとバレエが織りなす夢物語」より。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
秋山さんの指揮のもと、音楽に合わせて舞うバレリーナ。演目はアラム・ハチャトゥリアン作『仮面舞踏会』、振付は洗足学園音楽大学教授であり、東京シティ・バレエ団の芸術監督でもある安達悦子さんによるもの。

秋山さんがタクトを振るい、洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団が演奏を開始すると、ホールはたちまち華やかなバレエ劇場へと変身する。洗足学園音楽大学の芸術監督として長く指導にあたるマエストロ秋山さんによる指揮で演奏するのは、もちろん学生たちのオーケストラだ。そこにバレエのクラスに所属する学生たちと、名門・牧阿佐美バレヱ団のダンサーの共演によって、バレエの名作にここでさらにフレッシュな命が吹き込まれた見事なものだった…。

またトップの写真は、コンサートリハーサル中のもの。普段は見られない、厳しい表情の秋山さん。「眉間にしわをよせた」一瞬で、まさに決定的瞬間となった。その気迫と威厳を伝えるために、あえてモノクロで表現したのだ。背景の一部分を少し明るくし、顔の部分は濃いめに焼き込んだ。ぜひ文章と共にバレエの美しい世界もお楽しみいただきたい。

この「ミューザ川崎」での饗宴は、毎年夏の恒例となっており、名作バレエと音楽を同時に楽しめるということで好評を博している。コロナ禍となった今2021年も万全なる感染対策の中、ハイブリッドな方法により無事に取り行われた(2021年7月22日~ 8月9日)。ホールアドバイザーも務める秋山さんは、もちろん参加。第一回が開催された2005年からの連続参加ということで、今回で17回目となったというわけだ。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
『仮面舞踏会』の一幕。右上のライトで印象づけた。
才能を開花させる

話は戻して...1963年に、桐朋学園大学音楽学部を卒業した秋山さん。翌1964年に東京交響楽団にて、指揮者としての鮮烈なデビューを果たす。秋山さんの凄いところは、膨大な楽器編成、しかもかなり難しい演奏作品でも、難なくこなしてしまうところだ。

複雑な楽譜であっても、その内容もきちんと熟知していて、指揮法も完璧に操る。その後どんどんとその才能を開花させる...。言葉の通じない国のオーケストラにおいても、日本と同じであった。「指揮棒の動きひとつひとつに全神経を張り巡らすことで、全てを伝えるよう努めている」と言う。

アメリカ響音楽監督、バンクーバー響音楽監督。ニューヨーク・フィル、ボストン響、ベルリン放送響、ケルン放送響など、世界の名だたる楽団や国内の主要オーケストラの指揮をこなし続け、不動の地位を築くことになる秋山さん。

ところで指揮者として、一番大切にしていることや、本番前に必ずやることなど尋ねてみると...。「ルーティーンなどは特にないです。強いて言えば、平常心を保つことです」と、安定した自信を感じさせる返答だ。しかも、そこに驕(おご)りなど微塵も感じさせないところが素敵だ。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
演奏後に部屋で、陰影をつけ後ろから光を強調して撮影。ポーズを決める秋山さん...。

マニアもびっくりするほどの
実は…大の「鉄ちゃん」

著名指揮者として世に知られる秋山さんではあるが、実は現在もとてもマニアックな趣味を持っている。それは「鉄ちゃん」…つまり、大の鉄道ファンであるということだ。それも電車に乗ることを目的とする、いわゆる「乗り鉄」という領域を超え、鉄道模型も収集する筋金入りの鉄道ファンなのだ。

「カナダのバンクーバーの自宅に行くと、マニアが涙を流して喜ぶほど、所狭しと模型が広がっていますね」と言うから、驚きの一言に尽きる。ぜひ、今度見せてもらいたいものだ。そして、その自宅に戻ると直ぐに、ミニチュアの鉄道を走らせて余暇を楽しんでいるということだ。

「子どものころ、どういうきっかけで始めたのか?」とお伺いすると、「幼稚園に電車通学していたある日、混雑してぎゅうぎゅう詰めの車内で熱心に運転席を見ていたものですから、運転士さんが小さな私を膝の上に乗せて、ハンドルを握らせてくれたんですよ。もう75年も前のことですから、時効ということにしてくださいね(笑)」と、秋山さんはにこやかに答えた。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
バレエ組曲『ガイーヌ』。振付は、東京シティ・バレエ団の小林洋壱さん。
夢のオーケストラ列車

以前、樽見鉄道(岐阜)にあの懐かしいSL、つまり蒸気機関車を走らせてしまったということだ。それはその機関車に客車をつなげ、オーケストラと共にお客さんも乗せて走らせるというものだった。名前はもちろん、夢の「オーケストラ列車」だ。

まさに男のロマンそのもの…何往復も走らせたとのこと。ただし、100メートル間隔で警備員を立てないといけなくなり、結構お金がかかかってしまったそうだ。

個人的なお気に入りは、広島を走る「広島電鉄」とのこと。ひとたびその地に立ったときは、一日に何度も乗ってしまうそうだ。そこでも、前出の「オーケストラ列車」を実現させてしまったということだから、スゴ過ぎだ。「広島電鉄」とは、大正元年に開業。JR広島駅から横川駅間を運行する広島市内の路面電車で、通称「広電」として知られている。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
バレエ組曲『ガイーヌ』の中で見せた、一瞬の表情を撮影。こちらの振付は東京シティ・バレエ団の小林洋壱さんによるもの。

「オーケストラ列車」のことなのですが、今後走らせる予定のところ、または走らせてみたいところはありますか?」という質問に、「やりたいとは思っているのですが、今はコロナ禍でストップしてます」と、残念そうな秋山さん…。

有言実行の頼もしく優しい人…秋山さんは、1941年生まれ。数々の賞を受賞され、その功績で2014年度文化功労者に。私が撮影でミューザ川崎シンフォニーホールでお会いしたときの印象は、丁寧で物静かなお人柄。それは音楽にも反映されているようだ。

そして今回は、バレエとの饗宴が見るものに彩りを与えてくれた…。

秋山和慶,kazuyoshiakiyama,女優,東京交響楽団桂冠指揮者,バンクーバー交響楽団桂冠指揮者,広島交響楽団終身名誉指揮者指揮者,高橋福生,,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi

指揮者の仕事は過酷そのもので、全ての楽譜が頭に入っていないといけない…。「暴飲暴食を控えています。時間があるときにウォーキングをしています」というお話だが、本当に長時間の立ちっぱなしのお仕事にもかかわらず、お元気そのもの。

いつまでもタクトに夢を乗せて、われわれに感動を与えていただきたい。

 
◇撮影協力

ヒラサオフィス社長:平佐素雄 
Artists|ヒラサ・オフィス 
洗足学園音楽大学教授 安達悦子
洗足学園音楽大学
井上千佳子バレエ
牧阿佐美バレヱ団
谷桃子バレエ団
東京シティ・バレエ団
洗足学園音楽大学バレエコース学生
洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団
ミューザ川崎シンフォニーホール


コンサートのご案内

■10月1日(金)19:00 
会場:ザ・シンフォニーホール
大阪フィルハーモニー交響楽団 ソワレ・シンフォニー Vol.18


■10月8日(金)14:00、9日(土)14:00 
会場:すみだトリフォニーホール
新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだ クラシックへの扉 #2


■10月24日(日)15:00 
会場:三井住友海上しらかわホール
中部フィルハーモニー交響楽団 第77回定期演奏会


■11月12日(金)19:00 
会場:ザ・シンフォニーホール
日本センチュリー交響楽団 第259回定期演奏会


■11月28日(日)14:00 
会場:ザ・シンフォニーホール
Osaka Shion Wind Orchestra 第139回定期演奏会


■12月18日(土)14:00 
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
東京交響楽団 名曲全集 第127回


■12月21日(火)19:00 
会場:東京オペラシティコンサートホール
東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第125回


■12月25日(土)15:00 
会場:北九州ソレイユホール
九州交響楽団 第九公演


■12月26日(日)15:00 
会場:福岡サンパレス ホテル&ホール
九州交響楽団 第九公演

* * * * *

写真家,カメラマン,高橋福生
Tomio Takahashi

写真・文/高橋福生(たかはし・とみお)

撮影スタジオ勤務中の23才のとき、カメラ誌に載ったグラビアが、報道写真界の草分け三木 淳氏に高く評価される。それが転期となり、写真家を志すためにフリーとなる。メーカ-フォトサロンをはじめ、数多くの写真展を開催。雑誌や広告などでも活躍中。「癒しの水の情景」「美しい光の情景」をテーマに、水と光の情景写真家として媒体などで作品を発表。テレビ朝日系『人生の楽園』に出演し、癒しの水風景「水園」の作品が紹介される。これらの「水園」シリーズは東京都写真美術館でも展示された。現在もライフワークとも言うべきプロジェクト、著名アーティストを光で演出した情景「未来に残したい光のアーティスト」を継続している注目のフォトグラファー。現在、高橋作品を使用した「癒しの水の情景」のデジウォールを「壁紙のトキワ」で販売中。

公式サイト