最多ノミネーションは『バービー』。宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』が2部門で候補になりアニメ作品賞受賞。日本作品初の快挙達成
第81回ゴールデングローブ賞のノミネーションが現地時間2023年12月11日に発表されました。
最多ノミネーションは『バービー』の9(7部門)。本年度から1部門の候補枠が5から6に増え、興行収入を評価するシネマティック&ボックスオフィス賞も新設されたからとは言え、これは『キャバレー』(1972)と並び歴代2位の立派な記録。これに次ぐ8部門8候補が選ばれたのは、ようやく日本での公開も決定したクリストファー・ノーラン監督の“最高傑作”と呼び声も高い『オッペンハイマー』。部門数で言えば今回最多と言える本作は、日本公開もようやく決定しました。
日本からはアニメ作品部門と作曲部門で候補となったジブリ最新作『君たちはどう生きるか』。アニメ作品部門には『すずめの戸締り』もノミネートされました。
授賞式は2024年1月7日(日)CBSで生中継。日本時間2024年1月8日(月)午前10:00より発表された授賞結果(映画の部)は以下になります。
【映画部門候補一覧】
作品賞(ドラマ)
- ★受賞 『オッペンハイマー』(2024年日本公開決定 / 公式サイト)
- 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(公開中 / 公式サイト)
- 『マエストロ:その音楽と愛と』(Netflixにて12月20日配信開始)
- 『Past Lives(原題)』(公開未定)
- 『The Zone of Interest(原題)』
- 『Anatomy of a Fall(原題)』
国際作品も複数入り、激戦の作品賞(ドラマ)は…『オッペンハイマー』が文句なしの受賞!
作品賞(コメディ&ミュージカル)
- 『バービー』(U-Nextで配信中)
- ★受賞 『哀れなるものたち』(2024年1月26日公開 / 公式サイト)
- 『American Fiction(原題)』
- 『The Holdovers(原題)』
- 『May December(原題)』
- 『AIR/エア』(Amazon Prime Videoにて配信中)
毎回この部門は、候補作のセレクト自体が論争になります。今回もまた、年齢差夫婦にまつわるグルーミング問題とも言える実話ベースの『May December』は例え“ブラック”を頭に付けたとしても、「コメディ」と呼んでいいのか…疑問の声もあがっています。
結果は『哀れなるものたち』が受賞。来るアカデミー賞では『オッペンハイマー』と一騎打ちとなるか?
主演女優賞(ドラマ)
- ★受賞 リリー・グラッドストーン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- キャリー・マリガン 『マエストロ:その音楽と愛と』
- ザンドラ・ヒュラー 『Anatomie d'une chute(英題:Anatomy of A Fall)』
- アネット・ベニング 『ナイアド ~その決意は海を越える~』
- グレタ・リー 『Past Lives(原題)』
- ケイリー・スピーニー 『Priscilla(原題)』
『ヴァラエティ』誌で堂々と監督マーティン・スコセッシの「限界」について語ったグラッドストーンは、現時点で最も注目される女優のひとり。2023年カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールと、次点のグランプリ受賞作の両方で主演したドイツのヒュラーがダークホース。3カ国語(+α)を使いこなす彼女の演技とともに、ある転落事故の裁判劇が普遍的夫婦関係の闇を浮き彫りにする『Anatomy~』は必見です。
結果はリリー・グラッドストーンが『キラーズ~』で初受賞。ネイティブアメリカンを祖にもつ彼女自身が、アメリカ史に刻まれる残酷な事件に巻き込まれたネイティブアメリカンの女性を見事につとめ受賞しました。
主演男優賞(ドラマ)
- ブラッドリー・クーパー 『マエストロ:その音楽と愛と』
- ★受賞 キリアン・マーフィー 『オッペンハイマー』
- レオナルド・ディカプリオ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- コールマン・ドミンゴ 『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』(Netflixにて配信中)
- アンドリュー・スコット 『異人たち』(2024年春日本公開予定 / 公式サイト)
- バリー・キオガン 『Saltburn(原題)』
2023年11月29日にこの世を去った、山田太一氏原作『異人たち』のスコットがイン。クーパーは『ヴァラエティ』のエマ・ストーンとの対談で、「6カ月やそこらで役を作り上げわけがない」といった旨の発言をし、「これは暗に準備期間が半年ほどだったキリアン・マーフィーへの牽(けん)制では?」 「アカデミー会員にアピールか?」と騒がれていますが、英国版『リプリー』とも言える『Saltburn』でキオガンが見せた、執着する男が浸かった風呂の残り湯をすする狂気の演技は、他候補者全員を吹き飛ばすほどのインパクトがあります。
結果は…『オッペンハイマー』の主役を6か月で仕上げたキリアン・マーフィー! 2度目のノミネーションで初受賞です。
主演女優賞(コメディ&ミュージカル)
- ファンテイジア・バリーノ 『カラーパープル』(2024年2月9日公開 / 公式サイト)
- ジェニファー・ローレンス 『マディのおしごと 恋の手ほどき始めます』(Amazon Prime Video, Apple TV+にて配信中)
- ナタリー・ポートマン 『May December(原題)』
- アルマ・ポウスティ 『枯れ葉』(2023年12月15日公開 / 公式サイト)
- マーゴット・ロビー 『バービー』
- ★受賞 エマ・ストーン 『哀れなるものたち』
自身プロデューサーも務めた『哀れなるものたち』が、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞・金獅子賞に輝いたエマ・ストーンは確かに強力な候補。ですが、オーディション番組「アメリカンアイドル」史上最年少受賞を果たしながら薬物過剰摂取でどん底に落ち、そこから見事復活したバリーノや、カンヌ国際映画祭審査員賞受賞アキ・カウリスマキ作品の主演ポウスティにも注目。
結果はエマ・ストーン! プロデューサーも務めた意欲作で主演女優賞に輝きました。
主演男優賞(コメディ&ミュージカル)
- ニコラス・ケイジ 『Dream Scenario(原題)』
- ティモシー・シャラメ 『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
- マット・デーモン 『AIR/エア』
- ★受賞 ポール・ジアマッティ 『The Holdovers(原題)』
- ホアキン・フェニックス 『ボーはおそれている』(2024年2月16日日本公開 / 公式サイト)
- ジェフリー・ライト 『American Fiction(原題)』
歌って踊って「サタデー・ナイト・ライブ」のホストも務めたシャラメを始め、スター俳優と実力派が入り乱れるこの部門。アカデミー賞俳優のライトが久々の当たり役を生き生きと演じているのは『バスキア』以来のファンにとってうれしい驚きのはずです。『ナポレオン』での怪演も評判のフェニックスは、アリ・アスター(『ミッドサマー』)と組んだ毒親映画『ボーは~』で選ばれました。
結果は?と言えば…ポール・ジアマッティ『The Holdovers』。6度目の候補、3度目の受賞です。
助演女優賞
- エミリー・ブラント 『オッペンハイマー』
- ダニエル・ブルックス 『カラーパープル』
- ジョディ・フォスター 『ナイアド ~その決意は海を越える~』
- ジュリアン・ムーア 『May December(原題)』
- ロザムンド・パイク 『Saltburn(原題)』
- ★受賞 ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ 『The Holdovers(原題)』
トッド・ヘインズと再びタッグを組んだムーアが、親子ほど年の離れた少年と結婚しゴシップのネタとなる中年女性を、行動規範の核の部分がつかめない不可解さをもって演じています。
ゴールデングローブは『The Holdovers』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフへ。
助演男優賞
- ウィレム・デフォー 『哀れなるものたち』
- ロバート・デ・ニーロ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- ★受賞 ロバート・ダウニー・Jr. 『オッペンハイマー』
- ライアン・ゴズリング 『バービー』
- チャールズ・メルトン 『May December(原題)』
- マーク・ラファロ 『哀れなるものたち』
史上稀にみる「嫌な男」を演じたラファロに対抗するのは、「金髪白人以外にとりえのないケン」を歌から踊りからコメディ演技(ついでに肉体改造)まで多様なスキルを発揮し、こともなげに演じて見せたゴズリング。しかし、妬(ねた)みと嫉(そね)みにとりつかれたルイス・ストローズを演じ、キャリア史上最高の演技と評されるダウニー・Jr.が手堅い。
結局、受賞したのはロバート・ダウニー・Jr。受賞スピーチではゴールデングローブ賞の主催が変更されたことに触れ、「名前を変えてくれてありがとう」とチクリ。
監督賞
- ブラッドリー・クーパー 『マエストロ:その音楽と愛と』
- グレタ・ガーウィグ 『バービー』
- ヨルゴス・ランティモス 『哀れなるものたち』
- ★受賞 クリストファー・ノーラン 『オッペンハイマー』
- マーティン・スコセッシ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- セリーヌ・ソン 『Past Lives(原題)』
どうしてもオスカーが獲りたくてたまらない(ように見える)クーパーは、順当にリスト入り。自分で演技をしながらカメラの後ろにも立つという離れ業は、本人も「毎日崖から飛び降りるような思い」だったと先述の『ヴァラエティ』のトークで表現していま す。
ですが、受賞は当然のようにクリストファー・ノーラン。
脚本賞
- グレタ・ガーウィグ&ノア・バームバック 『バービー』
- トニー・マクナマラ 『哀れなるものたち』
- クリストファー・ノーラン 『オッペンハイマー』
- エリック・ロス&マーティン・スコセッシ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- セリーヌ・ソン 『Past Lives(原題)』
- ★受賞 ジュスティーヌ・トリエ&アルチュール・アラリ 『落下の解剖学(英題:Anatomy of a Fall)』
中年男性の視点で、フェミニズムを最初から学び直したように思えるバームバックの脚本をさらに導いてあげた(と思われる)ガーウィグ。しかしながら、同じ共作カップルとして非常に優れたフェミニズム的告発を行ったトリエ&アラリが並んでいるため、少々不利かもと思っていたら…。
受賞はカンヌを制した『落下の解剖学』。アラリは不在でジュスティーヌ・トリエが登壇しスピーチしました。
作曲賞
- ★受賞 ルドウィグ・ゴランソン 『オッペンハイマー』
- ジャースキン・フェンドリックス 『哀れなるものたち』
- ロビー・ロバートソン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- ミカ・レヴィ 『The Zone of Interest(原題)』
- ダニエル・ペンバートン 『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
- 久石 譲 『君たちはどう生きるか』
ひたすら低音が響き続けるゴランソンの音楽は、『オッペンハイマー』の物語自体を牽引したと評判。久石 譲氏がこれまでのジブリ作品への功績を認められて受賞なるか、期待していましたが…。
ここでも『オッペンハイマー』が受賞。ルドウィグ・ゴランソンがゴールデングローブを手にし、残念ながら久石譲氏の受賞はなりませんでした。
非英語作品賞
- ★受賞 『落下の解剖学(英題:Anatomy of a Fall)』(フランス)
- 『枯れ葉』(フィンランド)
- 『Io Capitano(英題:My Captain)』(イタリア)
- 『Past Lives(原題)』(アメリカ)
- 『雪山の絆』(スペイン)
- 『The Zone of Interest(原題)』(イギリス)
ホロコーストの強制収容所のすぐ隣に、平々凡々とした理想的な自分たちの”庭”をつくろうとしたナチ将校ルドルフ&ヘドウィグ・ヘスの「凡庸さ」が、長いものに巻かれる人たちに衝撃を与える『The Zone of Interest』。そしてヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を獲得した、マッテオ・ガローネの『My Captain』まで国際的評価の高い作品がずらり。その中でアメリカ映画『Past Lives』が非英語作品として候補に挙がり、アメリカ映画界の多様性をアピールしています。
受賞は脚本賞も受賞した『落下の解剖学』。ジュスティーヌ・トリエは共同で脚本を務めたパートナーのアルチュール・アラリに「愛してる」とスピーチ最後を締めました。
アニメ映画賞
- 『マイ・エレメント』
- 『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
- 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
- 『すずめの戸締まり』
- 『ウィッシュ』
- ★受賞 『君たちはどう生きるか』
英語版予告編がSNSにアップされるや、「ロバート・パティンソンの声がすごい!」と話題になった『君たちはどう生きるか』。パティンソンは演じるにあたり、菅田将暉氏が演じる本家アオサギ役の声に近づけた何パターンもの声を録音し、提案してきたのだとか。
結果は…宮崎駿監督のジブリ作品『君たちはどう生きるか』が受賞! プレゼンターとして登場したのは英語版でキリコを演じたフローレンス・ピュー。封筒を開けて思わずガッツポーズを披露。
シネマティック&ボックスオフィス・アチーブメント(興行成績賞)
- ★受賞 『バービー』
- 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
- 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
- 『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(U-Next, YouTube Moviesなどで配信中)
- 『オッペンハイマー』
- 『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(Amazon Prime Video, U-Nextなどで配信中)
- 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(U-Nextで配信中)
- 『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』(劇場公開中/ 公式サイト)
世界興行収入1億5000万ドル、米国内興行1億ドルという売上を達成した作品を選出するこの部門。映画界への経済的貢献甚だしい作品とあって、これまで賞には絡まなかった種類のフランチャイズ作品が入ってきている所が興味深い。
新設されたこの部門。初受賞は『バービー』。プロデューサーとしてスピーチしたマーゴット・ロビーとグレタ・ガーウィグ含め、登壇した女性たちに拍手喝采が起こりました。
歌曲賞
- “Addicted to Romance” —『She Came to Me(原題)』 Music & Lyrics by: Bruce Springsteen
- “Dance the Night” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Mark Ronson, Andrew Wyatt, Dua Lipa, Caroline Ailin
- “I’m Just Ken” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Mark Ronson, Andrew Wyatt
- “Peaches” —『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 Music & Lyrics by: Jack Black, Aaron Horvath, Michael Jelenic, Eric Osmond, John Spiker
- “Road to Freedom” —『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』
Music & Lyrics by: Lenny Kravitz - ★受賞 “What Was I Made For?” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Billie Eilish O’Connell, Finneas O’Connell