pool boy summer trend 2022
CDLP, Hotel Poros, Alamy

欧米の場合…特に、英国から観たアメリカはこうなるでしょう。

それは、海も含めプールで監視員として働く、いわゆる「プールボーイ」に対して。彼らには、同情にも近い声も上がっています。おそらく彼らは、父親の母校であるという理由だけで退屈なアイビーリーグに通うことを強要され、さらにはその父親に夏休みのバイトを強いられたのだろうと…。そうして物静かでいつも二日酔いをしているその大学生は、焼けるような太陽の下で常に人々の視線を感じながら、「小遣いくらい自分で稼げ」はたまた「社会勉強のため働け」と言う父親のセリフを噛みしめながら働いているのでしょう。ですが彼は、すでにそんなことにも慣れて、当たり前のように感じているかもしれません…。UK編集部を含めた英国人の多くが、アメリカで働くプールボーイたちをそうイメージしていることでしょう。

では、日本でのプールボーイのイメージはどうでしょう? ちょっと話は別になるかもしれません。日本では昔から、少々不純な理由を含めながら率先して「プールボーイ」のアルバイトを好例にしていた、熱烈な志願者たちがいました。もちろん、少数派ではありますが…。そして夏が終わる頃には、さまざまな自慢話を聞かされたものです…いわばプールボーイ=プレイボーイというわけです。なので、そうした金銭的な面以上の打算を想像する人が多いはず。国が違えば、そのイメージもさまざまです。 

話を、UK編集部側に戻しましょう。

スイスの小説家マックス・フリッシュ(Max Frisch)による1975年の代表作『マントーク(原題Montalkのドイツ語読み)』、そして1984年米公開の映画『フラミンゴキッド』に主演した19歳のマット・ディロン、さらにポルノサイトにある低クオリティな動画まで、プールボーイという存在は長い間、イライラした旅行者やお金持ちのマダムからの視線に耐えながら仕事をこなす、ちょっと気の毒な存在に思えていました。ですが、最近の私たちはそんなプールボーイたちへの同情は、いつしか憧れにも似た思いへと移り変わります。私たちは、彼らのスタイルを真似するようになっているのです。ファッション観点で言えば、彼らこそこの夏の救世主と言えるのです。

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Michael Ochs Archives
1984年の映画『フラミンゴキッド』に出演した、プールボーイの生みの親とも言えるマット・ディロン。

「プールボーイ」スタイルの台頭

英メディア「Health Club Management magazine」に2017年に掲載された記事には、英市場調査会社Mintelのレポート「Mintel UK Health and Fitness Club Report 2017」の段階で、「英国のジム会員数は2022年に700万人と過去最高を記録する見込み」としていました。これは、相当な数の人々が身体を鍛えているということになります。ですが、この間にパンデミックを経験し、この予想は下回っているはずですが…。

直近の状況を、市場および消費者データを専門とするドイツ「Statista」の2021年12月の発表されたレポート「Number of gyms and fitness centres in the United Kingdom (UK) from 2011 to 2022」から読み解けば、「パンデミックと英国の封鎖の結果、英国のジムの数は2020年の3654ジムから、2021年の推定3610ジムへと7年ぶりに減少しました…ロックダウンが終了すると、英国では「ジム」という用語の月間検索ボリュームが急激に増加。2回目の英国のロックダウン前に検索ボリュームは40万以上になっています」とのこと。筋トレ熱は、増していることは確かなようです。

また、ファッションの面では…。デンマークのテニスウェアブランド「Palmes Tennis Society」、「Rowing Blazers(ローイングブレザーズ)」、そして「Giorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ)」までもが、白いテニスウェアのコレクションを製作しており、プレッピーなレジャーウェアの衰えも感じられません。

しかしながらブランドが提案するワードローブは、私たちを“海辺の別荘地”といったお洒落な場所ではなく、スタッフルームの方向へと導いているようにも思えます。つまり、テニスコーチのような、パーソナルトレーナーのような、そして本題のプールボーイのような服が、いまやトレンドの主流となりつつある、というわけです。

「プールボーイたちは白いウェアを着こなしている」というのは、欧米での固定観念的なイメージとなっています。ポロシャツはニットかコットンで、身体にぴったりとフィットし、大抵はその裾をパンツにタックインしています。靴下はスニーカーから長く伸び、刺しゅうされたロゴもユニフォームの一部なのです。

かつては立派なリゾートで使われていたお宝のような中古品か、スポーツクラブを模した「Sporty & Rich」や70年代のジェットセッターに敬意を表してつくられた「Casablanca」のテニスウェアといったレーベルが販売する、「どこかで見覚えのあるロゴ」がついているアイテムが一般的と言えるでしょう。

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Ron Dorff
「Ron Dorff(ロンドルフ)」より、プールボーイの中でもかなりセクシー路線のスタイル。

2022年夏にブランドが提案するスタイル

Ron Dorff(ロンドルフ)」による最新コレクションには、プールボーイの名前が使われています。フランス人とスウェーデン人が立ち上げたこのスポーツウェアブランドは、セックスアピールを加えたコレクションを発表しています。その代表的なアイテムは“DAD”、“SWEAT”、そしておそらく最も過激な”DISCIPLINE”など、誤解を招くほどシンプルなフォントでダブルミーニング(片方はきわどい)的な言葉がつづられたクラシックなスウェットです。そして今、このセクシーなスイムウェアがプールボーイコレクションに加わりました。

「ブランド設立当初から、marathon man、working man、beach boyなど、さまざまな“boy”や“man”のといった文字の含まれるコレクションを展開してきました」と「Ron Dorff」の共同設立者であるクラウス・ロンドルフは言います。「プールボーイとは、昔ビバリーヒルズの豪邸で大きなプールの手入れをしていたセクシーな若者のことですが、現在ではビーチに行くより、プールサイドに寝転がるほうが好きな人のことを指すかもしれません…」

その結果、太ももの一番いいところ(つまり真ん中のがっしりしたところ)を強調したスイムショーツと、1982年頃の海辺の遊歩道の看板によく見られた柄がプリントされたタンクトップやビーチタオルがコレクションにそろいました。プールボーイのためのスターターパックと言えるでしょう。

「これらはすべて、非常にセクシーなものと言えるでしょう。“プールボーイ”という言葉は、実際にはどこか中立的な意味合いを持った言葉の組み合わせだと思います。ですがここでは、この組み合わせには何か別の…もう少し皮肉なものを暗示しています」

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CDLP
ブラックのプールシャツ(£155 cdlp.com

プールボーイの人気は高まるばかり。プレッピーやその派生スタイルがボタン付きのコンサバなメンズウェアを誇る一方で、カルト的な人気を集めるブランド「CDLP」はセクシーな雰囲気を漂わせています。この北欧ブランドは、当初は非常に優れた下着のメーカーとして有名になりました。そして今、「CDLP」はプールボーイを新たな次元に引き上げようとしています。バルバドスの5つ星ホテルにベースの効いた音楽を合わせ、夜にはサングラスをかけて部屋でアフターパーティーを楽しむ様子を想像してください。「CDLP」では、プールボーイはゲストと一緒にパーティーをしています。

「私たちはすべてのアイテムを、複数のシーンで使えるようにデザインにしています」と、「CDLP」の共同設立者であるクリスチャン・ラーソンは話します。そしてさらに、「プールからランチ、ディナーまで使えるようにデザインした結果、既成服と昔ながらのスイムウェアの間に位置する、独立したプールラインができ上がりました」と言います。上の写真では、白のステッチが入った真っ黒なトップスに黄土色のギンガムチェックを合わせ、キリッと引き締まったコーデを完成させています。

「黒によって意図的に、フォーマルな色にしています。私たちのイメージするプールボーイにはもっと高貴で、スタイリッシュで、スマートであってほしいと思っていますので」

プールボーイスタイル実現のための理想と現実

プールボーイスタイルに対する美の概念と基準は、いまだ昔ながらのセクシーなイメージが健在です。典型的なプールボーイは筋肉質でたくましく、その基準はアメリカのデートリアリティ番組『ラブアイランド』やInstagramに登場する隆々とした腹筋と木の幹のような腕によって強調されています。

「Hotel Poros」はオーストラリアのブランドで、架空の休暇をイメージしてブランド全体を構築しました。そのセクシーさは美学であると同様に意識であり、重量挙げのインストラクターTシャツ、「Hotel Poros」のジムショーツ、ロゴ入りのセーターなど、スタッフ向けのグッズかのように感じられるアイテムがそろいます。

「プールボーイスタイルのコンセプトは、全体的なルックスにあると思います」とブランドの創設者でクリエイティブディレクターを務めるフォーティス・テティキスは言います。さらに「身だしなみ、ルックス、服装。ジムのインストラクターやホテルのスタッフのTシャツのたくし上げ方、シルエットにもカッコよさがあります」とも。

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Hotel Poros
昔ながらのプールボーイのイメージに着目した、オーストラリアのブランドHotel Poros。

このトレンドはトップブランドにも反映されています。ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズによる「Prada(プラダ)」の2022年S/Sコレクションでも、ショート丈のスイムウェアが登場しています。「Dolce & Gabbana(ドルチェ & ガッバーナ)」はプールボーイの服に宝石パズルゲームを取り入れ、ダイヤモンドホワイトのショートパンツとサンダルにジェムストーンとチェーンを散りばめました。「J.W. Anderson(J.W.アンダーソン)」、「Homme Plissé Issey Miyake(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)」、「Fendi(フェンディ)」は、一流メンズウェアの温度感を維持しながら腕(と太ももと足首)を出す方法を提示しています。

人々はなぜこのスタイルに憧れるのか?

人々がプールボーイの真似をするには、多くの理由があります。それは一部だけ肌を露出することで、全身「Versace(ヴェルサーチェ)」で固めなくてもセクシーさを表現できるということです。さらに重要なのは、プールボーイにまつわるロマンティックな伝説です。

これは夏の暑さの中で熟成された禁断の果実なのです。フィルターで盛られたまぶしい海岸で、プールボーイの株はさらに上がります。休暇中のロマンスの儚(はかな)さは、現実のロマンスよりはるかに熱く燃え上がるでしょう。

このファンタジーが…いえいえ、どんなファンタジーにも言えることですが、ファッションの原動力となるのです。言ってしまえば、これはコスプレです。アイビーリーグのプールボーイには、「Ralph Lauren(ラルフ ローレン)」や「Armani(アルマーニ)」がいます。ストリート好きには、「Alltimers」がプールボーイのバギーパンツをリリースしました。そしてもちろん「CDLP」、「Hotel Poros」、「Ron Dorff」もいます。とは言え、誰もがこのスタイルを実現できるというわけではありません。「筋骨隆々なプールボーイ」という想像が現実では劣っている可能性もあります。だからといって、私たちがプールボーイのような格好をするのを止めることは誰にもできません…。

ただ現実には、くりくりした目とたくましい腕のプールボーイは、私たちの同情など必要としていません。それどころか 「これは私たちが夏にどう見られたいか、どう感じたいかという本質です」と、Hotel Porosのテティキスは言います。さらに、「結局のところ、これが私たちのなりたい姿なのです」とも言います。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。