数十年前、NASAは宇宙飛行士が大気圏外の飛行に向けた訓練に役立つ「宇宙のにおい」を開発する専門家を雇いました。宇宙のシミュレーション訓練におけるNASAの目標は、「宇宙飛行士が宇宙空間で対峙することになる、日常とのギャップを排除するため」ということ。そしてNASAはこのたび、クラウドファンディングサイト「キックスターター」で、「宇宙のにおい」がする宇宙飛行士のための香水を発表するキャンペーンをスタートさせました。

 キャンペーン終了まで、残り38日で2020年7月10日時点で約4400万円集まっています(目標額は約21万714円でした)。

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 しかし、それ以上に問題にすべきことは、「宇宙のにおいとは、どんなものなのか?」となるでしょう…。

 そもそも専門家でさえ、宇宙のにおいを嗅ぐ機会が少ないわけですが、宇宙服から発せられる化学物質、地球をとりまく薄い大気圏を通過するときに感じられる、恒星間の宇宙空間に分布する星間物質などのにおいが、それであると知っています。

 そして、これを理解するためには、月の軌道を越えて有人で嗅覚探検隊を送り込む必要があります。これらを経て初めて、化学物質の組み合わせと密度を得て、その「空間のにおい」を見つけることができるのです。

 これを読んでいるあなたも同じように、いくつかの疑問を抱いてるはずです。「宇宙は果てしないのに、どのようににおうのか?」「空間は空洞なので、つまり分子はないはずなのでにおいはないだろう」「宇宙ステーションと宇宙空間のにおいは、異なるのではないか?」「宇宙船の露出した表面と、スーツの表面からの真空と紫外線ばく露によって放出されたガスを指すのか?」などなど…。

 NASAの研究者たちは、銀河内の多数の化合物や元素を特定するまでに至りました。それらの多くは地球にも見られ、そこからこれらがどのように宇宙でにおいとして機能するのか仮定が立てられています。宇宙服のにおいやシャトルのエアロックのにおいも、宇宙飛行士は嗅ぎ分けています。そして彼ら宇宙飛行士たちによると、これらのにおいをこのように説明しています。

 「心地よい金属のような…溶接部から発せられる煙のような中に、ほのかに甘さも感じられます。金属が燃えるようなにおいに加えて、オゾン特有の刺激的なにおいと、ナッツとブレーキパッド、火薬、そして焦げたアーモンドを混ぜたようなものです」とのこと。

ナッツとブレーキパッド、火薬、そして焦げたアーモンドを混ぜたようなにおい   

  しかし、なぜこのようなにおいがするのでしょうか?

 オーストラリア国立大学天文物理学研究科のブラッド・タッカー氏とオーストラリア原子力科学技術機構のヘレン・メイナード・ケイスリー氏はこう話します。

 「再加圧中に宇宙船内で発生する、化学反応によるにおいがこれにあたるでしょう。このプロセスは燃焼と似ていますが、煙が経たず酸化するものとして知られています。宇宙では原子状酸素(個々の原子)宇宙服の布地、道具、場合によってはエアロックの壁にまで付着する可能性があります。これらの個々の酸素原子は、再加圧中にキャビン内のO₂と結合すると、結合してオゾン(O₃)を形成します。宇宙飛行士が嗅いでいるのはこれであり、星間芳香ではないかもしれません…」とのこと。

 さらにこう付け加えています。「もう1つ考えられる説は、臭いは死にゆく星からのものである…というものです。星が死ぬと、大量のエネルギーが放出されます。これにより、多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる水性化合物が生成され、宇宙の周りに絶え間なく浮遊します。新しい彗星、惑星、星を作成するこれらのPAHは、地球上で一部の食品や石炭や石油にも含まれています。PAHは高エネルギーの振動を経験し、空気と組み合わせるとにおいの原因となる可能性があります。」とのことです。

2019年には、“スペースシャトルハッチを初めて開けたときの匂い”が発表されていた…

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Vector: An Origin Story
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 実はこれまで、多くの宇宙飛行士が宇宙の独特な匂いについて語っています。2009年3月、スペースシャトル「ディスカバリー」による国際宇宙ステーション(ISS)組み立てミッションSTS-119」に操縦士と参加。さらに2010年5月には、スペースシャトル「アトランティス」による国際宇宙ステーション(ISS)利用補給ミッション「STS-132」でも操縦手として参加したに指名されたNASAの宇宙飛行士ドミニク・アントネッリ氏は、「宇宙は何とも違う匂いがする」と語っていました。他の宇宙飛行士の中には、船外活動から船内に戻った同僚の宇宙服から、独特の甘い匂いを感じると語っているものもいました…。

 そしてアメリカのロッキード・マーティン社は2019年に、新しい事業として宇宙の匂いを思い出させる「Vector - perfume」というフレグランスを同年4月1日に発表しています。これには前出の元宇宙飛行士で、当時は同社が進めるオリオン宇宙ミッション計画を率いるドミニク・アントネッリ氏との協力によって開発されたものとのこと…。ですが実際は、 ロッキードマーティン社が2019年エイプリルフールデーに向けてのネタだったわけです(笑)。

 そうして現在は真実として…、NASAは宇宙の匂いを地上で再現しようとしています。この開発がうまくいけば、われわれは地上にいながら格安(宇宙飛行の代金に比べたら…)で宇宙の匂いが体験できるでしょう。期待して待ちたいと思います。

Source / ESQUIRE ES