当時、フォード・モーター・カンパニーがゼネラルモーターズの「キャデラック」やクライスラーの「インペリアル」に対抗するクルマを模索していたころ、フォード・モーター・カンパニーのリンカーン・マーキュリー部門は既存モデルより約38センチも車体を短くした主力商品を生み出したのでした。

 しかしながら、当時流行っていたスーサイドドア(後部ドアのヒンジは後方にあることで、前部と後部を開けると観音開きになる)に、端正で平面的なデザイン、2400キロの大きな車体というこの1961年型「コンチネンタル」が他のクルマより抜き出ていたのは、ホイールベースの長さくらいでした。

 1961年、明らかに中古であるクルマを、悪質なディーラーに売りつけられた男性がいました。弁護士だった彼は、すぐにフォード本社にクレームの手紙を書いたのです。

 度重なる謝罪のあと、フォードがそのクルマの代償として男性に贈ったクルマがリンカーンの“エグゼクティブ デモカー”だったのです。そのクルマは隅々まで工場でチェックを受け、走行距離はたった約3200キロというクルマでした。それこそが、1962年型「コンチネンタル」であり、7リットル、300馬力のV8エンジンを搭載し、ドラムブレーキを装備、2年間/走行距離約3.8万kmの保証付きでした。高級車らしく、GM「オートロニックアイ(日本名:エレクトロニックアイ)」に似たヘッドライト自動調光システム(対向車が来た時に自動でハイビームがロービームに切り替わるライト)まで付いていたのです。

 それから約10数年後の1973年、その男性は他界しました…。その後、このクルマは長らくガレージで新しい持ち主を待ち続けていました…そこに現れたのが、その弁護士の孫であるリッチ・プラヴェティッチさんです。

 リッチさんはピッツバーグで育ち、19歳の時にGMデザインに就職しますが、ほどなくして1987年に休暇で訪れたカリフォルニアに引っ越します。GMのあとはダイムラーや三菱に在籍し、2004年の「エクリプス・コンセプトE」ではエンジニアリングチームとデザインチームを統括を行っていたという、いわばクルマ業界の逸材の1人なのです。そしてリッチさんは2019年現在、日産のデザイナーとして活躍しています。

 リッチさんがクルマと深いつながりを持ったのは、このクルマの存在も大きかったことでしょう。

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「エクリプス・コンセプトE」を特集した『Road and Track』誌。


 ガレージには他にも、ランチア「アウレリア」や、1950年代後半のとても貴重なフランスのレーシングカーDB(ドゥーチェ・ボネ)「HBR5」などが並んでいます。それでもお気に入りなのは、「いつの時代も62年型リンカーン『コンチネンタル』さ」と言います。

 いまでもこのクルマの中には、リッチさんの祖父が大切にしていたパイプタバコやフィギュア、数々の書類、コダック「コダクローム」のスライドフィルムなど、たくさんの思い出の品がそのまま残されているそうです。リッチさんにとってこのクルマは、宝箱…いやそれ以上でしょう。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
1962 Lincoln Continental: Executive Demo
1962 Lincoln Continental: Executive Demo thumnail
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From Road and Track
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。