「繊細かつ大胆な演奏は、唯一無二の存在。」という表現だけでは、決して済まないであろう。

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例えば、彼女が奏(ひ)くチャイコフスキー『なつかしい土地の想い出 作品42: 2. スケルツォ』をぜひ聴いてほしい …。デビューアルバムから2作目となるアルバム『メロディ』の中に収録されている曲であるが、できればそのアルバムの最初の曲、同じくチャイコフスキーの『なつかしい土地の思い出 作品42: 1. 瞑想曲 ニ短調』から続けて聴くといいだろう。必ずや特別な体験ができるはず…皆さんもぜひ!

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そう言えば、あれは西暦2000年になる少し前だったであろうか。トヨタが誇る名車「クラウン」のCMにヴァイオリンを奏く諏訪内さんが登場し、この曲を奏いていた。おそらく、そこから彼女のファンとなり、さらに彼女のヴァイオリンの音、またチャイコフスキーがさらに好きになったのだ。そのとき彼女はまだ、20代前半だったかもしれない。まさに「このトキメキは、なぜですか?」(そのCM内での彼女のセリフ)と、こちらのほうが呟いたぐらいだ。

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そのヴァイオリンの音は実に確かなもので、心を力強くノックしたかと思うと優しく身体中にしみわたる。でもそこには、しなやかさと共に美しさも決して損なってもいなかった…。彼女の弓は常に弦に接していて、切れ目のない音を持続させているように思わえる。そして、力を込めたと思われる音もまた、とてもしなやかで、高密度の優しさが体感できるのだ…と、音楽のプロでもない者がこれ以上とやかく説明しても仕方ない。これぐらいにしておこう。

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Tomio Takahashi

しかし、これだけは言わせてほしい。18歳という史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールで優勝した「天才少女」は、その看板に頼らず、ただひたすらに異国の地で自分を磨き続けた末に現在があるのだ。今回、そんな彼女の撮影が実現し、直にお話ができたことにとても感謝している。

その演奏を聴いていると、まるで晴れ渡る青空を自由に滑空し、悠久の大地に抱かれたようにも感じる。音楽に精通した人でなくても、その音色を直に耳にすれば喝采を惜しまないだろう…。もちろん、立ち上がりながらである。指さばき、そして、その動きは言うまでもなく見事すぎて…、もはや“プロフェッショナル”の領域を超越し、ひとつの動く名作絵画のようでもある。ヴァイオリンを弾く諏訪内さんの姿そのものがまた、大いなる魅力でもあるわけだ。

そして鳴り止まぬ観衆の拍手は、万国共通。「音楽が共通な言語」なら、世界中の争いもなくなるだろう…。

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中学生時代にはすでに、数々の国内大会で優勝を重ねている諏訪内さん。その後、1989年にベルギーの首都ブリュッセルで毎年開かれる世界三大音楽コンクールのひとつ、「エリザベート王妃音楽コンクール」で第2位に。さらに続く1990年には、4年に1度ロシアのモスクワ音楽院で行われる世界三大音楽コンクールのもうひとつである「チャイコフスキー国際コンクール」で、18歳という史上最年少で第1位に輝く。

そんなヴァイオリン界の頂点に立つひとりである諏訪内さんに、演奏家という仕事について、さらに趣味のことなど、いろいろとお尋ねしてみた。

Q01.

「チャイコフスキー国際コンクール」
で、史上最年少で優勝したときの気持ちは
今でもよく覚えていますか?


よく覚えています…。でも、「優勝」など考えることもなく臨んでいたので、「え、私が優勝したの?」という感じでした。驚きもなく感激もなかった…「呆気(あっけ)にとられた」という感じでしたね。

「勝手に行って、
勝手に参加し、
優勝した感じです」

「優勝するぞ」と意気込んで行ったわけではなくって、とにかくロシアという国に憧れて…なんです。当時はソビエト連邦共和国であり、ペレストロイカが進み出して他の参加者は国の代表として来ていました。そこで私は、「そんな状況の中で、勉強することができたらなぁ」という思いで参加したのです。ひとりの高校生として、勝手に行って、そして勝手に参加したような感じですね(笑)。

モスクワ音楽院で音楽の勉強がしたかったのです。そこで、日本で「モスクワ音楽院に留学するルートはないか?」と探していたのですが、全く無理。当時は、日本とソビエト連邦共和国との国交は普通ではありませんでしたし…。そこでまずは、「モスクワへ行きたい」という願いをかなえるため、コンクールに参加したと言ってもいいかもしれませんね。「チャイコフスキー国際コンクール」の会場はモスクワ音楽院で、「歴史あるその学校はどんな雰囲気なのか?」「 どんな風に学べるのか?」など、とても興味があってまず観に行きたかったんです。そのような流れで何のツテがなくとも、そのコンクールを受けるだけでモスクワ音楽院の中に入れる、ということで参加したという感じです(笑)。

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Q02.

その時代と今とでは、
ヴァイオリンと向き合う姿勢は
変わりましたか?

基本的に変わらないですね。当時は、プロ意識は欠けていたと思います。ですが、やっていることは同じです。準備は常に大切にしてきたし…、そこにはプロ意識が「あるか?」「ないか?」の違いだけになります。

Q03.

日々の練習は、どのくらいのペースで、
どのくらい時間をかけて行っていますか?

練習時間に関しては、時間があればあるだけいつもしています。日常にはさまざまなことが起こりますが、そのような中でも穏やかにヴァイオリンと向き合っていたい…と思っていて、「理想は限りなくヴァイオリンを触れていたい」という感じですね。

Q04.

生まれかわっても、
ヴァイオリニストになりたいですか?
または他にやりたい仕事は?

芸術は、本当に素晴らしい世界だと実感しています。実に人間味あふれる分野で…。こういう時代でも、それに向き合えることのできる自分に対し、「とても恵まれている」と実感してもいます。生まれ変わっても芸術に携わっていきたいですね。人と接し、モチベーシヨンを、さらには芸術に深くかかわる…そんな日々にこの上ない充実さを感じています。だから私はこれからも、生まれ変わっても、芸術に携わっていきたいと願っています。

「本番中頭で忘れても
指が覚えています」

Q05.

演奏中、楽譜はありませんが、
もし忘れた場合はどうするのですか?

(笑)ほとんど、飛んだことってありませんね...。例え頭が忘れても、指が覚えたりしていますので…。

Q06.

ピアニストと同様に、
ヴァイオリニストも
指が長いほうが有利ですか?

私は背も高いほうなので、指も長いのですが…。とは言え、ヴァイオリニストの場合には指の長さはあまり関係ないと思いますね。私自身は、子どものころから指が余ってしまうくらいで、少し工夫が必要でしたので…。

Q07.

ほかに趣味などあれば、
教えていただけますか?

趣味はあまりありません。お料理をつくるのは、結構好きですが…。プロ養成のためのフランス料理を学んだこともあります。そこで、プロの世界と家庭料理の世界はぜんぜん違うんだということを学びました。あと、フランス料理の起源は結構、王族と関わりがあって面白いのです。王様や貴族たちの愛人の名前がついていたりすることもあって…(笑)。そういう歴史的な観点からも、その国の文化を感じます。

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Q08.

今流行りのスイーツは好きですか?

スイーツとかは苦手ですね。食べ歩きはしません。私は一生、このヴァイオリン、そして芸術に携わっていきたいと思っているので暴飲暴食はしません。舞台に立つ人間は、ある程度ストイックさも求めらます。

「アスリートと同じで、
好きに食べるというのに
縁がありません」

Q09.

何か身体に良いことはしていますか?

専属のパーソナルトレーナーもいて、ジムにも行って身体を鍛えたりもしています。十何時間も弾き続けたりすることもあるので、想像以上に自分の身体を酷使しています。アスリートに似たところも少しあるんですよ。「好きになんでも食べよ…」という事態には、全くと言っていいほど縁はありませんね(笑)。 

Q10.

最後に演奏家としてこれから
挑戦したいことや夢、PRしたいことが
あればお知らせください!

演奏家には終わりがありません…。それが素晴らしいことであり、それが逆に辛いことでもあります。

2012年から、コンサートに加えて現代作品の紹介や教育プログラムなどを組み込んだプロジェクトとして、「国際音楽祭 NIPPON」の企画制作を行っています。そこでは、「芸術監督」という立場をいただいております。

その場で演奏して、皆さんに聴いていただくだけではなく、指導することも大切に行う音楽祭になるよう企画しています。海外から仲間を集めて共演したり、海外のオーケストラとの演奏会を行うほか、東日本大震災の被災地を訪問してアウトリーチを行うことや、さらに都内でマスタークラスも行うなど、その内容は多岐にわたっています。そうして、教え子の皆さんがどんどん伸びていくのを見るていと、また私自身のモチベーションもグンと上がるものです(笑)。

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Tomio Takahashi

◇撮影協力
ジャパン・アーツ
ユニバーサル ミュージック

◇お知らせ
デビュー25周年!遂にバッハの金字塔、
無伴奏作品を録音&来日ツアーも決定!
- 諏訪内晶子

ツアーについてはこちら
CDについてはこちら

【プロフィール】
1990年、史上最年少で「チャイコフスキー国際コンクール」優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。BBCプロムス、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ルツェルンなどの国際音楽祭にも多数出演。2012年、2015年、エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門及び2019年チャイコフスキー国際コンクール審査員。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。デッカより14枚のCDをリリース。

桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了。文化庁芸術家在外派遣研修生としてジュリアード音楽院本科及びコロンビア大学に学んだ後、同音楽院修士課程修了。国立ベルリン芸術大学でも学び、2021年学術博士課程修了、ドイツ国家演奏家資格取得。

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写真家,カメラマン,高橋福生
Tomio Takahashi

写真・文/高橋福生(たかはし・とみお)

撮影スタジオ勤務中の23才のとき、カメラ誌に載ったグラビアが、報道写真界の草分け三木 淳氏に高く評価される。それが転期となり、写真家を志すためにフリーとなる。メーカ-フォトサロンをはじめ、数多くの写真展を開催。雑誌や広告などでも活躍中。「癒しの水の情景」「美しい光の情景」をテーマに、水と光の情景写真家として媒体などで作品を発表。テレビ朝日系『人生の楽園』に出演し、癒しの水風景「水園」の作品が紹介される。これらの「水園」シリーズは東京都写真美術館でも展示された。現在もライフワークとも言うべきプロジェクト、著名アーティストを光で演出した情景「未来に残したい光のアーティスト」を継続している注目のフォトグラファー。現在、高橋作品を使用した「癒しの水の情景」のデジウォールを「壁紙のトキワ」で販売中。

公式サイト