クリスマスソングというのは、ヘタをすると耐え難いほど安っぽいものにもなる恐れも大。「その宿り木の下で愛を誓った男女は結ばれる」という古くからの伝説があるため、ロマンティックな季節のクリスマスソングにはたびたび使われる「宿り木(Mistletoe=鳥が食べた種などの排泄物に種が入っていたり、果実だけを食べようと、種をクチバシで木の枝に擦りつけたとき、その種が枝の上に付着。そのまま木の枝に発芽して根を張って育った木)」、そして「赤い鼻」、「手袋をした手をつないで雪の中を歩く」といった内容の曲が、毎年大量にリリースされます。
お決まりの内容の嫌気がさし、「ホリデーシーズンにリリースされる新曲は、どうも…」という人も少なくないでしょう。ですが実は、最近のアルバムの中には“一度は聴いておきたい曲”がたくさんあります。寒くなってきたら、名盤になりそうなアルバムをプレイしてみてはいかがでしょうか。
それでは、定番クリスマスソングに飽きてしまったときに役立つ、ホリデーシーズンにぴったりのアルバムをご紹介します。
ピストル・アニーズ「Hell of a Holiday」
ミランダ・ランバート、アシュリー・モンロー、アンジェリーナ・プレスリーのカントリーミュージック3人組であるピストル・アニーズは、いつもいい音楽を提供しています。そんな彼女たちが放つ、初となるホリデーLPはすべてが完璧です。これには衝撃を受けることでしょう。挑戦的なオリジナル曲(『Snow Globe』とタイトルはありきたりですが)は適度にクリスマスっぽいですし、『If We Make It Through December』や『Auld Lang Syne』などの有名曲のカバーは、思わずハンカチで涙を拭うほどの出来栄えです。
ケリー・クラークソン「When Christmas Comes Around...」
ホリデーシーズンの音楽を楽しくする方法を熟知しているスターがいるとすれば、それはケリー・クラークソンです。
他の歌手の手にかかっていたら、確実にうっとおしい曲だったであろうシングル曲『Christmas Isn't Canceled (Just You)』も、彼女の手に掛かればしっかりと魅力的です。クラークソンの2枚目のホリデーアルバムは、全15曲の中にセクシーで胸を打つ曲もあり、年末に向けてよく耳にすることになるでしょう。
レスリー・オドム・Jr「The Christmas Album」
クリスマス音楽の定番となって久しい『リトル・ドラマー・ボーイ』(キャサリン・ケニコット・デーヴィスが1941年に作曲・発表したクリスマス・ソング)に物足りなさを感じていた人にとって、そこに必要だったのは「南アフリカで人気のグループMzansi Youth Choirによるアレンジおよびバックコーラスだ」と言ったら、信じてもらえるでしょうか?
クリスマスには、そんな奇跡が起きるんです。大ヒットミュージカル『ハミルトン』のスターは、2020年のホリデーアルバムに大胆な姿勢で臨みました。そしてその決断は、驚きと喜びをもたらしました。このクリスマスアルバムは世界中からの絶賛を受けて、輝きを放った陽気で楽しい作品です。
ザ・バード・アンド・ザ・ビー「Put Up The Lights」
グレッグ・カースティンとイナラ・ジョージがお気に入りのクリスマスソングを集め、さらにデイヴ・グロールを加えて、スイートな8曲でクリスマスを表現して最高のイージーリスニングに仕上げました。
アンドリュー・バード「Hark!」
12枚のLPと四半世紀にわたる口笛とバイオリンのループを経て、アンドリュー・バードは2020年に、ようやくクリスマスソングに進出しました。
彼のフォークながらもドラマチックなスタイルはクリスマスにぴったりで、コロナ禍にインスパイアされた『Christmas In April』は、これから何年も記録に残る名曲になるかもしれません。
ロス・ロボス「Llegó Navidad」
"Feliz Navidad!(フェリス・ナヴィダ=スペイン語でメリークリスマスの意)"
イースト・ロサンゼルスでラテンロックパーティーを始めたロス・ロボスが、キャリア40年目にして、その魅力的なスタイルをついにホリデーシーズンに取り入れました。
フレディ・フェンダーの『Christmas Time In Texas』やサルサの名曲『La Murga』など、スペイン語圏のクリスマスの名曲11曲に加え、ブルース調の寂しげなオリジナル曲『Christmas and You』も収録されています。
「You Wish: A Merge Records Holiday Album」
2019年のインディーズ作品はマージ・レコードが30周年を記念して15人のアーティストを集め、ヒス・ゴールデン・メッセンジャーとルシンダ・ウィリアムスによる素晴らしいジョン・プラインの『Christmas In Prison』カバーやアペックス・マナーの優しい『White Christmas』など、よく知られた名曲の数々だけでなく新しい作品も収録されています。
テレキネシスのアップビートな『Christmas Times Is Here (Uh Oh)』がイチオシですが、マック・マコーンとアニー・ヘイデンの軽快なそり遊びの歌『Down We Go (Sledding Song) 』は、ぜひ聴いてみていただきたい一曲です。
アンドレア・ボチェッリ「Si Forever (The Diamond Edition)」
オペラ界のレジェンドが最初にリリースした『Si』(2018年)は、プラチナを獲得しました。エド・シーラン、デュア・リパ、そして息子のマッテオとのデュエットを収録したLPですが、2019年にはエリー・ゴールディング(『Return to Love』)とジェニファー・ガーナー(『Dormi Dormi Lullaby』)など、豪華なゲストを迎えたデラックス版が公開されました。
クリスマスソングのアルバムというわけではありませんが、澄んだ空気と居心地の良い夜にはぴったりのサウンドトラックです。
ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ「Big Band Holiday II」
世界的なトランペット奏者であるウィントン・マルサリスは、2015年から2018年にかけてニューヨークの伝説的なジャズ・アット・リンカーン・センターで米ジャズ公共機関であるこのビッグ・バンドのホリデー・コンサートを率い、翌年にはそのハイライトを集めた素晴らしいライブコレクションを発表しました。これはライトアップされたリビングで流したくなる、賑やかで温かなアルバムです。
キャサリン・ラッセル、ヴェロニカ・スウィフト、デンザル・シンクレア、オードレイ・シャキールといったジャズ界の大物たちが登場しますが、中でもアレサ・フランクリンの未発表ピアノ演奏である『O Tannenbaum』は必聴です。2015年に彼女が会場に登場したときも驚きでしたが、死後5年経った今でも、彼女の純粋で完璧な歌声には衝撃を受けます。
映画『ラスト・クリスマス』のサウンドトラック
2019年に公開され、エミリア・クラークとヘンリー・ゴールディングが主演した映画『ラスト・クリスマス』のサウンドトラックは、実際にはクリスマスアルバムとは言えません。さらにそこに収録されている音楽は、どれも新しいものでもありません。
ジョージ・マイケルとワム! の名曲を集めたアルバムであり、『Too Funky』と『Fantasy』のダブルパンチなど、このロマンティック・コメディにお似合いの賑やかでファンクなパーティーソングであふれています。
食後に退屈したら、ぜひこのアルバムをかけてみてください。おばあちゃんも思わず踊り出すはずです。
ケイシー・マスグレイヴス「A Very Kacey Christmas」
マスグレイヴスは、最も才覚がある最近のシンガーソングライターの1人です(2021年高く評価された『star-crossed』など、彼女の恒例のアルバムをぜひ一度聴いてみてください)。そして、そんな彼女がかつて、2016年に作曲したホリデーアルバムは大成功でした。
『A Very Kacey Christmas』では、人々に愛される名曲(『Have Yourself a Merry Little Christmas』、『Rudolph the Red-Nosed Reindeer』)を60年代のノスタルジーを感じさせながらカバーし、リオン・ブリッジズ(『Present Without a Bow』)やウィリー・ネルソン(『A Willie Nice Christmas』)とも一緒に歌っています。
ジョン・レジェンド「A Legendary Christmas Deluxe Edition」
甘い歌声で人気のレジェンドが2018年にリリースした初のクリスマスアルバムは、2019年にレジェンドが『ザ・ヴォイス』の審査員仲間であるケリー・クラークソンと組んで、『Baby, It's Cold Outside』をウケ狙いで演奏したことで再注目されることになりました。強引な男性との気まずいやりとりをテーマにしたこの曲は、一部の人には嘲笑され、多くの人からの反感を持っている曲でもあります。
ですが、その他の17曲から目をそらしてはいけません。スティービー・ワンダーの『What Christmas Means to Me』は純粋なビンテージポップですし、『By Christmas Eve』は涙を誘います。
チープ・トリック「Christmas Christmas」
18枚のアルバムをリリースし殿堂入りを果たしているこのバンドは、2017年にようやくホリデーシーズンに向けた作品を発表する時間ができたようです(この年、6月の『We're All Alright!』と共に2枚のアルバムをリリースしています)。
彼らはこのアルバムのために3曲のオリジナルを作曲し、ハリー・ニルソンの『Remember (Christmas)』やウィザードの『I Wish It Could Be Christmas Everyday』などの変わり種にも取り組んでいます。同じことの繰り返しになりがちな音楽界において、他とは違うことをしようとする姿勢はとても魅力的です。
ロレッタ・リン「White Christmas Blue」
カントリーミュージックの煌びやかな女王は、実り多い2016年を過ごしました。
リンはこの年、10年以上ぶりのアルバム『Full Circle』に加えて、ホリデーソングを集めた『White Christmas Blue』をリリース。12曲のうち6曲は50年前の1966年に発売された『Country Christmas』に収録されたものですが、ここに来て彼女がこれらの曲を再解釈しているのは間違いなく魅力的です。
ジョン・カーター・キャッシュ(ジョニーとジューン・カーター・キャッシュの息子で、『サークル』のプロデュースも担当)と自宅スタジオで録音した『White Christmas』のパワフルな演奏には、思わず胸が張り裂けそうになります。
JD・マクファーソン「Socks」
オクラホマ州出身のマクファーソンの初のクリスマスアルバムには、カバー曲が一切ありません。代わりに11曲の新曲を作曲し、キッチュさや可愛さのないレトロロックなクリスマスリバイバルを実現しました。
幸福感に満ちた『Hey Skinny Santa!』、うなるような『Bad Kid』、繊細な『Ugly Sweater Blues』など、誰もが楽しめる内容となっています。
マーヴェリックス「Hey! Merry Christmas!」
マーヴェリックスがつくる音楽を何と呼べばいいのかは、誰にもわかりません(ラテン風のロック? テックスメックスのパーティーチューン? カリブ風のロカビリー?)。ですが、誰もが同意するのは最高に楽しいということ…。
このグラミー賞受賞アーティストが2018年にリリースしたホリデーLPも同様で、明るいホルン、ジャズなアレンジ、そしてスウィング感があふれています。ラウル・マロとバンドメンバーはこのアルバムのために8曲のオリジナルを作曲し、『Happy Holiday』と『Christmas (Baby Please Come Home)』という素晴らしい2曲のカバー曲でアルバムを締めくくっています。
シャロン・ジョーンズ&ダップ・キングス「It’s a Holiday Soul Party」
2015年にリリースされたこのアルバムでは、伝説のシンガーと素晴らしいバックバンドが、年に一度のお祭り騒ぎにファンクを注入しています。
『8 Days of Hanukkah』や『Big Bulbs』などの新曲は、鮮やかなホルンの音と中毒性のあるメロディーが特徴の名曲となっています。また、『White Christmas』や『Silver Bells』を遊び心たっぷりにアレンジした曲は、なぜ最初からこうしなかったのかと疑問に思うほどです。
スモーキー・ロビンソン「Christmas Everyday」
2017年にリリースされた「Christmas Everyday」は、モータウンの伝説的人物による初のソロ・クリスマスアルバムかもしれません。ですが登場するのは、ロビンソンだけではありません。
トロンボーン・ショーティがスウィングな『Santa Claus Is Coming to Town』に、シャロン・ジョーンズのバンドのダップ・キングスがキラキラした『You're My Present』に参加しています。すべての曲にはシンガーの甘い声が響き、非常にスムーズなホリデーマジックとなっています。
ブルット・エルドリッジ「Glow」
アルバム「Glow」が大成功したブルット・エルドリッジは、この作品を2回リリースしました。2016年にリリースした最初のアルバムと、18曲を収録したデラックスバージョンが2018年に登場しています。
エルドリッジはポップカントリー系の作品で有名ですが、彼の大胆なバリトン(男声の声域の中で、テノールとバスとの中間にあたるパートのこと)を活かすには、このアルバムに収録されているスローバックなビッグバンドアレンジがぴったりです。
彼のアカペラによる『The First Noel』の演奏を聴けば、その美しさに驚かされるでしょう。
シーア「Everyday is Christmas」
誰もが楽しめるシーアの温かくも荒々しいボーカルですが、彼女が大物プロデューサーのグレッグ・カースティン(アデルやケリー・クラークソンなどを手掛ける)と一緒に書いた曲を歌うとなると、なおさらです。
2017年にリリースされた初のホリデーアルバムがこの成功のレシピを備えていることを考えると、このLPが聴く価値があることは間違いありません。すべての収録曲がクリスマスの名曲というわけではありませんが(『Puppies Are Forever』はその魅力を十分に発揮できていませんし、『Candy Cane Lane』は薄っぺらい印象です)、力強い『Underneath the Mistletoe』が流れ始めると、音量を上げて一緒に歌わずにはいられません。
Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。