カリフォルニアを縦断するように走る「パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)」こと、州道1号線。風光明媚な景観が多く続く太平洋の海岸線を車で巡るロードトリップは、素晴らしい出会いとの連続です。

この連載では、「PCH」沿いにある注目のエリアを紹介しながら南部の都市サンディエゴ近郊の街テメキュラ(Temecula)からカリフォルニアを北上し、メンドシーノ(Mendocino)の街を目指します。

およそ1000kmにわたるロードトリップ。ワイルドなアトラクションや、地域のテロワールを反映した個性的なワイナリー、味わい深いオールドタウンに心癒されるビーチタウンなど偉大なる寄り道をしながら、レイドバックしたカリフォルニアをゆる~く紹介していきます。

【Vol.1】
テメキュラ→ジョシュア・ツリー国立公園→パームスプリングス

ロサンゼルスの南東に広がる砂漠のリゾートとワインカントリーへ。

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

LAの南東約150kmの場所に位置するワインカントリー「テメキュラ」。さらに南東に約100km進むと、カリフォルニア州最大の州立公園「アンザ・ボレゴ・デザート」に到着します。そこから約150km北上すると砂漠のオアシスとして名高い「パームスプリングス」があり、その北側には「ジョシュア・ツリー国立公園」が広がります。


ワイナリーと熱気球の街。テメキュラ

テメキュラ
Hidehiko Kuwata
砂漠の中に広がるテメキュラのブドウ畑。

カリフォルニアに最初のブドウが植えられたのは、ワインで有名なナパでもソノマでもなく、南カリフォルニアでした。このエリアは、ミッション・ワインの発祥地と伝えられています。アナハイムにある有名なディズニーランドも、かつてはブドウ畑でした。

現在、南カリフォルニアでワイナリーの中心となっている場所は、ロサンゼルスの南東約150kmに位置するテメキュラ・バレーで、ワインビジネスはこの砂漠の街を急速に発展させる原動力となります。

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写真左:2003年にオープンした「レオネス・セラーズ」は、テメキュラのワインビジネスの盛り上がりを反映したワイナリー。 写真右:「レオネス・セラーズ」の賑やかなテイスティングルーム

1974年に設立されたキャロウェイ・ワイナリー(ゴルフクラブで有名なブランド「キャロウェイ」の創始者である故イリー・キャロウェイが所有したワイナリーです)は、この地における大規模なワイン生産の始まりとなりました。

その後もこの地のワインづくりは順調に推移し、2000年代に入るとワインビジネスはさらに加速していきました。テメキュラ・バレーを走るランチョ・カリフォルニア・ロードを中心に、現在は40カ所を超えるワイナリーが点在。南カリフォルニアらしいトロピカルな雰囲気に包まれたワイナリーは、どこも個性的で、他のワインカントリーとはひと味違う「奔放」な雰囲気が漂います。

サウスコースト・ワイナリー・リゾート&スパ
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豪華なワインリゾートを象徴する「サウスコースト・ワイナリー・リゾート&スパ」。

現在、テメキュラを代表するワイナリーのひとつとなっているのが、「サウスコースト・ワイナリー・リゾート&スパ」。大規模で華やいだ雰囲気を持つワイナリーです。オハイオ州出身のジム・カーター支配人は、12歳から農場や工事現場で働いてきた苦労人で、2002年にこのワイナリーをオープンさせました。

その名のとおり、ホテルとスパが併設された大型のリゾート施設で、メインダイニングの「ヴィンヤード・ローズ」では専任のソムリエのガイドによって、自社ワインと素晴らしい料理とのペアリングが楽しめます。

サンライズ熱気球のフライト。
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テメキュラの人気アトラクション、サンライズ熱気球のフライト。
テメキュラ・オールドタウン
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テメキュラ・オールドタウンの入り口。

ワイナリー巡りとともに、テメキュラを代表するアクティビティが熱気球です。

毎年6月には、有名な「テメキュラ・バレー・ワイン&バルーン・フェスティバル」も開催されます。熱気球は空気が冷たい時間帯しか飛行できないため、日の出とともに起床して早朝のフライトを楽しむことになりますが、朝陽に映し出されるテメキュラ・バレーの絶景は素晴らしいのひと言です。

上空から地平線まで続く360度の広大な大自然のパノラマは、まさにカリフォルニアならではの絶景。加えて、着陸時の絶妙な熱気球の操縦も一見の価値あり。熱と風をコントロールする巧みな操作は見事です。

砂漠に突如現れる巨大オブジェ。サルベーション・マウンテン

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パームスプリングスの南東約130kmの砂漠の中に、カラフルに彩られた粘土で築かれた山があります。バーモント州で生まれ、この砂漠の中にある小さなコミューン「スラブシティ」に移り住んだレナード・ナイトが、1984年から30年近くの歳月を費やして築いた「サルベーション・マウンテン」です。

それは「GOD IS LOVE(神とは愛)」をテーマに、この地でとれるアドべ粘土と寄付されたペンキ、廃棄されたタイヤや窓、自動車の部品などを用いて素手で造りあげた山です。レナードは休むことなく一日中制作に没頭し、電気も水道もない山の麓でトラックの荷台に寝泊まりして、入浴は近くの天然温泉を利用しました。

その理念は「Sinner's Prayer(罪人の祈り)」を中心に構築されており、キリスト教の格言や聖書の詩で描かれた多くの壁画などをモチーフにしています。

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砂漠の中に突如現れるカラフルな「サルベーション・マウンテン」 。

砂漠という過酷な環境から守るため、レナードは塗装の層が厚くなるように年に2回山を塗り直すことを考えていました。ですが怪我を負ってしまい、これを続けることができなくなりました。

そこで2011年に、この山を守るプロジェクトを支援する公的慈善団体「サルベーション・マウンテン社」が設立され、2013年にはアネンバーグ財団が「セキュリティの向上と運営強化」のための資材・設備費用として3万2000ドルを寄付しています。

80歳になったレナードは認知症のため長期介護施設に入所し、2014年に他界しました。彼の死後に出版された雑誌『ナショナルジオグラフィック』の記事には、こう記されています。

「レナードは先見の明があった。時間の概念を超えて、唯一の目的である”神とは愛“というメッセージを広めるために、自分の意思を貫き整然と仕事をした」

そしてパームスプリングスへ

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ジョシュア・ツリー国立公園のユニークな光景。

ジョシュア・ツリー国立公園はパームスプリングスの東に位置しており、公園入口のビジターセンターまでは街の中心から車で約1時間の距離です。

ジョシュア・ツリーはモハーヴェ砂漠の標高400mから1800m付近の地帯に生育する樹木で、この国立公園のシンボルとなっています。名前の由来は、ここにたどり着いたモルモン教徒が大きなジョシュア・ツリーを見て、聖書に登場するヨシュア(古代イスラエルの指導者で、モーセの後継者とされる)が天を仰ぐ姿を想像したことにちなんで名づけたものと伝えられています。

巨大な花崗岩の一枚岩やユニークな形の岩山が散在する砂漠の中に、巨大な枝状のジョシュア・ツリーが繁茂している光景は魅力的で、写真映えする風景が広がります。

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写真上:今にも滑り落ちてきそうな帽子の形に似た岩が頂にある「キャップ・ロック」 写真下:ジョシュア・ツリー国立公園のビジターセンター。 

この国立公園で楽しめるアトラクションは多岐にわたり、ハイキング、サイクリング、乗馬が楽しめるトレイルが数十本あり、岩だらけの地形はアメリカのロッククライミングのメッカの一つにもなっています。

春にはワイルドフラワーがカーペットように咲き広がり、砂漠の夜空はとても澄み渡り、星空観察ができるオアシスとしても知られています。

パームキャニオン・ドライブ
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パームスプリングスの街の中心を走る「パームキャニオン・ドライブ」。

まさに砂漠のオアシスといった趣の街、パームスプリングスへ戻り、その洗練された街並みのダウンタウンを歩いてみましょう。

この街がリゾート地として花開いたのは、ハリウッド全盛時代の20世紀中頃。当時のハリウッドスターたちには、「2時間以内にスタジオに戻れる距離にいること」という暗黙のルールがありました。そこでパームスプリングスは、このルールにぴったりの避寒地だったのです。

多くのハリウッドスターがこの街に別荘を建て、優れた建築家たちがミッドセンチュリーモダンと呼ばれる、お洒落でシンプルなデザインの住宅の建築が続きました。

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パームキャニオン・ドライブには、数多くのレストランやバーが軒を連ねています。

街の中心はかなり開発が進みましたが、当時のミッドセンチュリーモダンの面影はしっかりと残されており、これがパームスプリングスの大きな魅力となっています。華やぎとシンプリシティがバランス良く共存し、中でも周辺の歴史あるホテルには、ハリウッド全盛時代の華やかさが今でも漂っています。

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次回はサンディエゴから海岸線を北上し、ビートタウンの町を訪ねます。

Text & Photo / Hidehiko Kuwata
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)