ホンダが北米で展開する高級車ブランド、アキュラは復活の道を模索し続けています。

 かつては高い信頼性と手頃な価格を武器に、実用性の高いクルマとして多くのドライバーに愛されていました。ですが、いつしか迷走とも言える長く暗いトンネルに入ってしまった感は否めません。

 今回アメリカで発表された「RDX PMCエディション」は、そんなアキュラ最盛期の熱狂を取り戻すまでには至らないモデルかもしれません。ですがそれでも、同社が正しい方向へと舵を切ったことを間違いなく示す1台と言えるでしょう。

 
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アキュラが抱える問題は?

 アキュラの問題は何でしょうか?

 恐らく「ブランドとしての曖昧さ」が、その問題の1つであると思われます。偉大なブランドとは、どれも自らの信念や使命をその中心的価値として明確に示すものです。

 アキュラブランドのモットーは、「Precision Crafted Performance(プレシジョン・クラフテッド・パフォーマンス)」です。つまり、「精密に生み出された高性能」という意味に和訳できます。同社のスポークスマンは、それを「表現力豊かなスタイリング、ハイパフォーマンス、革新的なエンジニアリングへのこだわり、そのすべてが品質と信頼性という基盤の上に成り立っている」と定義づけています。

 しかし、ここ10年間のアキュラブランドは、「快適なものの、記憶には残りにくいファミリーカー」といった印象で、上記マニフェストにある「ハイパフォーマンス」や「革新的なエンジニアリング」からは遠い存在となっているのです。そしてそれを、市場は感じ取っていたように思えてなりませんでした。

 ところが、アキュラの最新世代として生み出されるモデルによって、そんな閉塞した状況に変化が起きようとしています。

最新世代のアキュラが新たな希望に!?

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 まずは新型「TLX」の高性能グレード「タイプS」を発売し、アキュラは改めて最高峰のパフォーマンスを追求する姿勢を示しました。ブランドの筆頭に「NSX」が鎮座し、他のモデルが厳かに続いていくという編成です。

 そうして「RDX」によって、アキュラの復活がいよいよ始まったのです。2019年のモデルチェンジではインテリアが一新され、外観のスタイリングも刷新。新たなプラットフォームが採用され、本格的なラグジュアリー感が示されることとなりました。使用される本革、金属、木材にはこだわりが見られ、10万ドル(約1100万円)以下の市販車においては、おそらく最高レベルと呼べるであろうカーステレオも装備されています。ようやく、熱のこもったモデルがアキュラから登場したと言っていいでしょう。

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 その努力は、ここで見事に報われたと言えるのです。「RDX」は近年のどのアキュラをも凌駕(りょうが)する存在感を放ちつつ、さらに販売台数という点からも傑出したクルマであることを示し続けています。「RDX」に続いて登場した「MDX」も好評であり、それはアキュラが正しい道を見出したことを証明しています。新型「RDX PMCエディション」のステアリングを握れば、その正しさは実感できるはずです。

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 しかし同時に、まだ追求しなければならない課題をアキュラが残していることも確かと言えるでしょう。

 「PMCエディション」の名は、もともとは「NSX」用の生産工場としてつくられた、「Performance Manufacturing Center(パフォーマンス・マニュファクチャリング・センター)」という、その生産工場にちなんで名づけられたものです。

 「NSX」の販売不振により、オハイオ州メアリーズビルにある生産工場には新たな活用の必要性が生じていました。そのため、まずは「MDX」、続いて「RDX」といったモデルの特別仕様車が、その工場で手作業によって組み立てられることになったのです。

 パフォーマンス重視の「A-Spec」パッケージと、ラグジュアリー重視の「Advanced」パッケージが選択肢として提供されるアキュラですが、「PMCエディション」はその両方を融合させた真のフラグシップと呼ぶべき存在となっています。「RDX PMCエディション」には、「NSX」と同色のサーマルオレンジパールが採用されています。

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 この鮮やかなカラーは、実用性が求められるファミリー向けクロスオーバーとしては少々派手かもしれません。ですが、文句なしの色彩です。アキュラが広く愛された当時であれば、完璧な選択だったと言えるでしょう。しかし、課題を抱えるアキュラの現在の状況下においては、私(原稿著者のマック・ホーガン氏)なら少しためらってしまうかもしれません。まるでスーパーカーのような鮮やかなオレンジ色のアキュラのコンパクトクロスオーバーを欲しがる人が、果たしてどれほどいるのか? ちょっと想像がつかない…そんな方が少なくないでしょう。

 「PMCエディション」は360台の限定販売ということなので、あまり気にする必要はないのかもしれません。ただし、アキュラのパフォーマンスモデルとラグジュアリーモデル、それぞれの最高の部分を組み合わせてつくられたエディションとなれば、まずはその名に恥じない仕上がりとなっているか否かを確認しておく必要があるでしょう。

試乗した感想は…

 パフォーマンスについては、「もう少し」というのが実感です。

 「RDX」はバランスが良く、コーナーでの走行も正確です。SH-AWD(Super-Handling All-Wheel Drive/スーパーハンドリング全輪駆動)システムは、トルクをうまく融合させ、驚くほど力強い回転を生み出しています。後輪の駆動力を実感するのは困難ですが、攻めたドライビングを行えば、他の多くのフロント偏重の全輪駆動クロスオーバーよりも、はるかに優れていると言えるでしょう。ステアリングも、感触という点では物足りなさもあります。が、その反応は素晴らしいと言えるでしょう。

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 問題はパワートレインにあります。

 「RDX」に搭載されている2.0リットル4気筒ターボエンジンは、ホンダ「シビックTYPE R」のエンジンに近い印象です。「シビックTYPE R」の魅力を発揮させるには、良いエンジンかも知れません。ですがラグジュアリーSUVの果たすべき役割を考えたときに、この選択には疑問が残ります。

 エンジンが冷えた状態での振動が気になりますし、アキュラのライバルとなるヨーロッパ勢の4気筒ターボと比べれば、全体的にやや荒削りな印象を受けます。また10速オートマチックですが、ハードなドライビングをしようにもシフトダウンには消極的で、「RDX」に備わる272馬力、280lb-ftのトルクを最大限に活かし切れていないという懸念も残ります。

 ラグジュアリーさについてはどうでしょう?

 個人的な意見としては、より良い評価を与えることができます。前提として、「RDX」は最高の贅沢を誇るプレミアム・クロスオーバーではありません。また、そのような価格設定でもありません。しかし、純粋にクオリティーが高く、静かで配慮の効いたインテリアと他に勝るとも劣らないテクノロジーの数々が装備されています。

 インフォテインメントに関しては、好みが分かれるタッチパッドでの操作。とは言え私個人としては、とても使いやすいと感じました。最高級のオーディオシステムについては、ワールドクラスと胸を張ることができるでしょう。

 使われている各種素材についても、アキュラのこだわりが見て取れます。金属であるべきパーツには本物の金属が用いられており、「Advanced」で用いられる木製パーツは紛れもなく本物の木材です。それらしく模造されたプラスチックのようなイカサマは、どこにもありません。

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 アダプティブ・サスペンションは、最もソフトな設定にした場合にも、いわゆるラグジュアリーカーのものよりも硬く、クルマを安定してコントロールしてくれます。が、大きな凹凸などにはやや対応不足かもしれません。また、高速道路での長距離運転は苦にならず、リラックスしてどこまでも快適に過ごすことができそうです。「RDX」の性能に対する評価や、その価値観や信念に惹かれるという人々を満足させるには、十分すぎるほどの快適さと言えるでしょう。

 ただし、メルセデスやレクサスのような本格的な高級車を、安く手に入れられるとは思わないでください。他社と比べてお手頃ですが、その影響は細部に現われています。フォント、グラフィック、チャイム音、警告メッセージなど、ちょっとしたところに物足りなさが存在し、いわゆるホンダブランドに寄せ過ぎているきらいが見受けられます。

 例えばレクサスなら、パネルに表示されるミニマルな書体や、抵抗を感じさせないボリュームツマミの滑らかな回転など、細部に至るまでトヨタブランドよりも明らかに高級な仕上がりになっています。アキュラ「RDX」は確かにホンダ「CR-V」よりはるかに素晴らしいクルマですが、マンガのようなグラフィックや反応の鈍いプラスチック製のスイッチなどの存在に気がつくたびに、5万2995ドル(約582万円)という希望小売価格が示す現実を思い出させてくれるのでした…。

復活のサインはしっかりと提示されました

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 いずれにせよ、アキュラ復活のサインが示されたという事実には変わりはありません。「RDX」が優秀かつ、面白さを備えたクロスオーバーであることに疑いを挟む余地はないのです。力のある全輪駆動システムとバランスの良さで、競合する他のクルマよりも運転して楽しい1台であることは、ここに断言します。

 ルックスも良く、ちょっと前のアキュラと比べ、遥かに配慮の行き届いた仕上がりと言っても差し支えないでしょう。「上質なコンパクトクロスオーバーが欲しいが、レクサスは高すぎる…」と嘆く人々には、喜んでおすすめしたいクルマです。

 しかし、アキュラが時代の寵児(ちょうじ)としての地位を取り戻すことを本気で目指すのであれば、ただ「良い」だけでなく、さらに「特別な」何かを求められるのも事実でしょう。今後のアキュラに、さらなる期待をしたくなりました。

Source /Road & Track
Translate / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。