75年近くもの間、フェンダーは現代の音楽シーンにおいてエレキギターの定番であり続けてきました。

バディ・ホリー、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ピンク・フロイドのメンバーであったデヴィッド・ギルモア。さらに世に「3大ギタリスト」と呼ばれるジェフ・ベックに(レッド・ツェッペリンのメンバーであった)ジミー・ペイジ(初期は同社の「テレキャスター」を使用)、そしてエリック・クラプトンも。そうそうジョン・メイヤーも…と、数え上げたらきりがないほど世界的なミュージシャンがフェンダーのギターを愛用しています。

また、伝説の音楽フェス「ウッドストック」の最後を飾ったジミ・ヘンドリックスによるアメリカ国歌の演奏にホワイトボディの「1968年製ストラトキャスター」が使われていたこと、さらにそれ以前のモンタレー・インターナショナル・ポップ・フェスティヴァル最終日(1967年6月18日)のステージ上、セットリストのラスト・ナンバー『Fire』のクライマックスで火をつけたのも「ストラトキャスター」であり、直前に交換したのも「ストラトキャスター」だったことを無視してはいけません。

そんなフェンダーの歴史の始まりは、1946年にさまでかのぼります。その当時、創業者のレオ・フェンダーが自身の電子工学のノウハウを音楽に生かそうと考え、南カリフォルニアの工房でアンプとラップスチールギター(膝の上の乗せて弾くタイプのスチールギター)の製作を始めたことがきっかけです。

その後1951年には「テレキャスター」を考案し、空洞のないソリッドボディなど斬新な構造でエレキギターの概念を大きく変えました。続いて1954年には、さらなる改良を図った「ストラトキャスター」というエレキギターを発表し、音楽の世界を大きく変えることになったのです。

フェンダーのギター
Ted Newsome

現在も、フェンダーはカリフォルニア州ロサンゼルスの南東にあるコロナの地で、ギターの多くを製造しています。今日のギターの製造においては、木製のブロックを成形していくために高度な機械も使われますが、フェンダーの6弦のギターはすべて熟練の職人により手作業でつくられています。

フェンダー社のオペレーションディレクターであるマーク・ケンドリック氏は、「Popular Mechanics」に次のように話しています。

「ユニット化された木材のパーツを組み立てるモジュール式の製造工程を取り入れていますが、これは創業者のレオが考案したものです。私たちはこれまでと同様に、手作業での形成と加工を続けていきます」

その製造工程は、ボディ用の厚さ1と3/4インチ(約4.5cm)の木材とネック用の厚さ1インチ(約2.5cm)の木材という、2つの木材を手掛けるところから始まります。簡単そうに聞こえますが、これが実は一筋縄ではいきません。ボディとネックはそれぞれ複雑な工程でつくられます。

まずネックですが、職人が形を整えて寝かせてから、トラスロッドというギターの背骨のような役割を果たす太い金属の棒を挿入します。それから3本のベルトサンダー(研磨機)でさらに形を整えるのと並行して、のこ盤(カットするための電動工具)でフレット(ネック上の弦を押さえる側に貼りつけられた板の上に打ちつけられている鉄の仕切り)を一気にカット。そして熟練の職人の手により、最終的な成形と仕上げが行われます。

「フェンダーのネックはどれもユニークですが、それは職人が手がけているからです」と、ケンドリック氏は加えて言います。

フェンダーのギター
Ted Newsome

一方のボディも、“フェンダーカラー”に塗装される前に、完成に向けてさまざまな工程を経ていきます。ちなみにフェンダーのエグゼクティブバイスプレジデントであるジャスティン・ノーベル氏も次のように語っています。

「フェンダーでは、かなり初期の段階でカスタムカラーがつくられており、フェンダーのギターにおいてアイコニックなものにもなっていますが、そのカラーはすべて50年代と60年代の車から採用されたものです」

ラッカー(塗料)が乾いたらフレットを均してボディとネックをやすりがけし、バフ研磨をして磨き上げると、ようやく2つのピースが1つになります。

次に登場するのは、ピックガード(ボディと弦の間に取りつけられた薄い板)の中に搭載される電子部品です。弦の振動を電気に変換する装置で“エレキギターの心臓部”とも言えるピックアップは、弦の下でその振動を調整できるようにサスペンション装置に設置されます。

そして、ブリッジ(弦を固定するパーツ)とストラップボタンを取りつけたら、あとは弦を張ってチューニングするだけです。こうして完成したギターは箱詰めされ、出荷されます。

フェンダーのギター
Ted Newsome

今や世界で定番の存在とも言える「ストラトキャスター」「テレキャスター」「ジャズマスター」の1本1本に、75年にわたるサウンドのイノベーションも、フェンダーの経験豊かな職人たちによる熟練の技術も詰め込まれているのです。そしてこの手作業のアプローチにより、フェンダーのギターには2つと同じものはありません。ノーベル氏は最後にこう語ります。

「私たちは演奏もします。皆、ギタリストです。よって、演奏者視点で物事をとらえています。人々が自分自身の感性で芸術をつくり出せるように、私たちも演奏者としての感覚を大切にしながらギターをつくっているのです」

Source / POPULAR MECHANICS
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。