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シックスパックに割れた腹筋…それは、アーサー王ではありませんが、「願いをかなえる神秘の聖杯」とでも呼ぶべき究極のゴールです。
当然のことながら、それは一朝一夕に成し遂げられるものではありません。腹部に刻まれた彫刻のような陰影を目指し、何カ月にもおよぶ過酷な食事制限に耐え抜き、重いウエイトを何度も持ち上げなければなりません。腹筋が現れるのを辛抱強く待つ間、「いつまで続けなければならないのだろう…」といら立つこともあるでしょう。
ウエイトトレーニングの経験を積んできたベテランであれば、肉体改造がどれほどの時間を要するものであるのか、身をもって知っているはずです。新たな筋肉をつくり出すためには、少なくとも3週間から12週間は必要です。そう、少なくともです…。
また、健康的に(そして持続可能な形で)体脂肪を落とすのであれば、1週間に約0.5~1kgの減量が目安となるでしょう。目に見える筋肉を手に入れるためにも、やはり同等の時間がかかります。
NYのトレーニングジム「Beyond Numbers Performance(ビヨンド・ナンバーズ・パフォーマンス)*1」のオーナーであるカート・エリス氏(C.S.C.S.)は、「体脂肪を落としながら筋肉量を増やしていくことで、体脂肪率を安定して減らすことができます」と言います。さらに、「多くの人が憧れる引き締まった肉体を手に入れるためには、10パーセント前後の体脂肪率を目指さなければなりません」とエリス氏は強く言います。
体脂肪率を下げるのに、どれだけの時間が掛かるのでしょうか?
そこには、複数の異なる要因が関係します。まずはスタート時点における本人の状態が影響し、どのようなトレーニングや栄養管理を行うのかも大切です。腹筋を鍛えると言っても、「ただ腹筋運動だけを延々と続ければいい」という話でもありません。「そこには、数々の要素が絡んできます。しかし、あなたの食習慣や栄養状態は絶対に無視できません」と、エリス氏は栄養管理の重要性を強調します。
今回はシックスパックに割れた腹筋をつくるのに必要な時間とともに、より早くゴールに到達するためのヒントを紹介していきましょう。
割れた腹筋をつくるのに必要な時間は?
減量のペースにもよりますが、「うまく習慣化することさえできれば、最短30日ほどで腹筋がはっきりと見えてくる」とエリス氏は言います。しかし、わずか4週間ほどでシックスパックの腹筋をつくり上げるのは困難です。仮に実現したところで、その状態を維持できない可能性も高く、長期的なフィットネスの観点からは必ずしもすすめられないと、『アメリカ版メンズヘルス』のフィットネス・ディレクターを務めるエベニザー・サミュエル氏(C.S.C.S)(*2)は指摘します。
「もし割れた腹筋が見えるようになったとしても、おそらくは瞬間的なものに過ぎず、もしかしたらその後はまたすぐに元通りになってしまうかもしれません。ハードすぎるトレーニングを長続きさせるのも困難です」と、サミュエル氏。
「でも、持続可能な方法で時間を掛けて肉体を引き締めていけば、筋肉量を総じて増やせ、満足度も高まるはずです。体重を着実に絞っていくことで、身体の運動能力そのものが向上するからです。つまり、より健康な肉体になるということです」と続けます。
それでは、体脂肪率10パーセントを達成するために「すべきこと」と「すべきでないこと」をエリス氏とサミュエル氏に解説してもらいながら、見た目と運動能力を兼ね備えた理想的な腹筋を手に入れるためのトレーニングについて学んでいきましょう。
腹筋の見栄えを追い求める人々が犯す最大の過ちとして、エリス氏とサミュエル氏が共に指摘するのが「結果を急ぎ過ぎること」です。6日間、あるいは6週間だけシックスパックの腹筋を手に入れたところで、生涯にわたって持続可能なフィットネスは実現しません。
「結果を急ぐと、大きな恩恵を取りこぼしてしまう」――つまり、“肉体改造の過程で得られるはずの習慣が身につかずに終わってしまう”とエリス氏は注意を促します。そして、こうアドバイスします。
「睡眠の質を高めたり、栄養管理や水分補給の大切さについて学んだりすることがなぜ重要かと言えば、それがより良い生活習慣につながるからです」
まずは、身につけるべき習慣について専門家のアドバイスに耳を傾け、同時に避けるべき習慣についても知識をつけていきましょう。
食事が腹筋に及ぼす影響は?
トレーニングだけで腹筋が鍛えられるという考えは「間違い」
「腹筋はキッチンでつくられる」という言葉には、確かな根拠があるのだとエリス氏は言います。「多くの人々が“腹筋を鍛えるにはトレーニングに打ち込むしかない”と妄信し、栄養管理の重要性を見落としがちなのは残念なことです」
科学的な裏づけを見てみましょう。
脂肪減少を目的としたトレーニングに関する研究が、2021年に行われています。まず56種類の研究調査(*3)を分析した結果、異なる有酸素運動がそれぞれ体脂肪率の低下に効果的であることが分かりました。ただし、栄養管理を取り入れることなくトレーニングだけを行った場合、有酸素運動の脂肪減少効果はさほど大きくないことも同時に判明しています。トレーニング量の多い人ほど大量のカロリーを摂取する傾向が高まり、そのことで結果が妨げられてしまうというのです。
正解: 身体を引き締める食事と運動の習慣を身につける
見栄えのいい腹筋を目指すことの価値は、「持続可能な健康と運動能力のための食習慣や運動習慣が身につくことだ」とエリス氏は言います。まずは生活習慣を全体的に整えながら、シックスパックの腹筋を目指しましょう。「トレーニングだけにとらわれるのではなく、栄養管理も組み合わせることでさらに大きなゴールを目指すのが望ましい」というのが、エリス氏からのアドバイスです。
「栄養バランス、心身の回復、トレーニング方法といった個々の観点から、一貫性のある日々の生活を、計画的につくっていくのです」とエリス氏。タンパク質をたっぷり摂取し、野菜もしっかりと食べ、脂質は健康的なものに限ること。それが腹部の脂肪を落とすことにつながり、苦労して鍛えた腹筋を維持しやすくなるのです。
「体形を崩さずに、理想的な腹筋をキープするためにも、持続可能な生活習慣を持つことが重要です」
あらゆる炭水化物を避けるというのは「間違い」
引き締まった肉体のためには、食生活の改善が必要不可欠です。だからと言って、炭水化物さえ抜けば腹筋が見違えるという話ではありません。
「チキンとブロッコリーさえ食べていれば割れた腹筋が現れるのだから、その他のものを食べるべきではない。そんな思い込みを持つ人もいます」と、サミュエル氏。「しかし、8~12パーセントの体脂肪率を目指すのに、そこまで厳しい食事制限を設ける必要はありません。タンパク質を多く摂り、水分補給を怠らず、常識の範囲内で健康的な食生活を守ることが重要です」
「ライフスタイルやワークアウトの頻度にもよりますが、炭水化物を過剰に制限するのはむしろ逆効果を招きかねない」、とエリス氏も指摘しています。体脂肪を減らすためには、スクワットや腕立て伏せなどのレジスタンストレーニング(筋肉に抵抗をかける動作を反復して行う運動)とカーディオトレーニング(心拍数や呼吸数を増加させる身体活動全般)を組み合わせ、さらに過酷なトレーニングを取り入れようとする人もいるでしょう。そこでエリス氏は、「そのためには、燃料となる炭水化物が必要不可欠になりますので」と苦言を呈します。
正解:タンパク質を優先する
脂肪を燃焼させることだけが目標ではないはず。目指すのは、理想的な筋組織の構築・維持です。炭水化物を減らすことでもたらされる効果もあるでしょうが、それよりタンパク質の摂取量を増やすことが必要となるのです。
「何にも増して重要なのは、体重1kgあたり1g以上というタンパク質の摂取量を守ることです」と、エリス氏は念を押します。そのうえで、健康的な脂質とタンパク質を摂ることを意識し、カロリー不足に陥らないように注意しなければなりません」
体重1kgあたり1gのタンパク質という摂取量は、ジムのロッカールームやフォーラムなどで推奨されている「体重1ポンド(約0.5kg)あたり1g」よりも小さな量です。2011年に行われた研究(*4)では、それより多くのタンパク質を摂るべきという結果も示されました。
カロリー不足を避けながら、1日あたり体重1kgに対して1.8~2gのタンパク質を摂ることで、「脂肪減少を目的としたカロリー制限期間」における除脂肪体重の減少を抑える効果があることが、その実験により明らかになったのです。できるだけ多くのタンパク質を実際の食品から摂取しつつ、目標量に足りない分をサプリメントなどで補うのが望ましいのです。
ワークアウトが腹筋におよぼす影響
有酸素運動をひたすらやればいいというのは「間違い」
「脂肪を燃焼させるためにはとにかく有酸素運動に励むこと、という意見を最近よく耳にします」とエリス氏。有酸素運動の時間を増やすことで犠牲になるのは、筋力トレーニングの時間です。上記の2021年の脂肪減少研究(*3)にあるように、有酸素運動を増やすことで大幅な脂肪減少を実現した被験者がいることは確か。ですが、そのために彼らは有酸素運動の時間を1日あたり100分間も増やしているのです。
「有酸素運動こそが体脂肪率低下への近道」という考えは、いくつかの理由から間違っているとサミュエル氏も指摘します。
「まず、体脂肪をパーセンテージで見る場合、筋肉量との相関関係を無視するわけにはいきません。筋肉量を増やしたうえで体重が変わらないというのであれば、それは体脂肪率が低下したことを意味します」
「筋肉量の増加は、消費カロリー量の増加と同義」、とサミュエル氏は言います。徐脂肪体重が増えるに従い、カロリー燃焼および脂肪燃焼の基礎レベルが上がるためです。「有酸素運動ばかりに意識を向けるべきでない理由のひとつとして、体幹の強化がおざなりになってしまうからだ」と、サミュエル氏は指摘します。
「つまり、見栄えの良い腹部に必要な肝心の筋肉が鍛えられないのです」と、サミュエル氏は続けて言います。
正解: 筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせる
「ことトレーニングにおいて、人々は極端な方向に走りがちだ」と、エリス氏は警鐘を鳴らします。
「『有酸素運動さえしていれば体脂肪を落とせるのだから、とにかく有酸素運動を強化する』という人や、『レジスタンストレーニングこそ正義』というような偏った考えに陥ってしまう人が多く存在します」とエリス氏。有酸素運動を増やすのは結構ですが、だからと言って筋力トレーニングを怠るべきではないでしょう。
「脂肪を落とし、引き締まった肉体を維持しようと思えば、どちらの運動もバランスよく組み合わせるのがベスト。0か100かというような考え方は避けるべきです」
とにかく腹筋運動さえすれば良いという考えは「間違い」
腹筋が見えてくるほど脂肪を落とせたとしても、筋肉量が伴わなければ元も子もありません。つまり、腹直筋(あるいは“シックスパック”筋)の強化が重要なのです。ただし、「そのためだけにクランチばかり何千回も繰り返す必要はない」とエリス氏は言います。
「もちろん、クランチは優れたトレーニングです。悪く言う人も中にはいますが、そんなことはありません」とエリス氏。しかし、腹直筋のトレーニングばかりに集中し過ぎてしまえば、ウエイトなど他のトレーニングに充てるべき時間やエネルギーが奪われてしまうのは必然です。
「要は、時間の使い方を意識するということです。体幹を鍛えるのであれば、多様なアプローチがあることをまず知っておくべきでしょう」
シャツを脱ぎ捨てた際に、見事な腹筋が現れるのが理想でしょう。ですが、脂肪を燃やす場所を選ぶことは、残念ながらできません。どこか特定の脂肪をターゲットにして燃焼させるというエクササイズには、大した効果は期待できないということ。つまり、クランチばかりやりながら腹部を鍛えたつもりになっていても、それで腹部の脂肪が減っているとは限らないのです。
正解:全身をターゲットにしたレジスタンストレーニングと、機能的な体幹トレーニングを組み合わせる
スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなど、複合的なレジスタンストレーニングを行うことで全身に加わる負荷が高まり、脂肪の燃焼が促進されます。さらにそれらの運動を通じて、背骨を中心としたまっすぐな体幹にとって不可欠な、背筋を鍛えることもできるのです。
「理想的な体幹を得ようと思えば、腹筋を鍛えるだけでは不十分です」と、サミュエル氏は言います。腹筋を磨き上げるためには、体幹を含む上体の全てをターゲットにしなければなりません。体幹の「ひねり」や「回旋」、脊柱の「屈曲(前屈)」や「伸展(後屈)」は、背筋運動や、クランチやレッグリフトで鍛えられるでしょう。
より優れたバランスの取れたアスリートとなるために、何よりも欠かせないのが体幹の機能です。そして体幹を鍛えることが、見栄えのする腹筋という目標にもつながっていくのです。
「機能美の備わった肉体は、つい見ほれてしまうものです」と、サミュエル氏。つまり体幹が強化されてこそ理想的な腹筋だけでなく、屈強な背筋、健康的な運動能力が身につくというわけです。
最高の腹筋づくりに効果的なエクササイズを紹介
あらゆる角度から体幹を鍛え、自慢のシックスパックを構築しましょう。エリス氏とサミュエル氏の推奨する体幹エクササイズ5種類を紹介します。ウォームアップにも、フィニッシャーにも、その中間に取り入れるのも文句なしの効果を期待できるエクササイズです。
メディシンボール・ラテラルトス
【期待できる効果】
「体幹の回旋が整うだけでなく、アスリートとしての能力全般を向上させることができる」とエリス氏は言います。そして、こう加えて言います。
「上半身と下半身が滑らかに連動し、思い通りに動く身体が手に入ります」
【やり方】
- 右半身を壁に向けて立ちます。壁との距離はおよそ1.2メートルほど。両手でメディシンボールを持ち、腰の左側に構えます。
- 両膝を軽く曲げ、体幹を回旋させる勢いでボールを右側に振り、胸の高さ目掛けて壁に投げます。
- 跳ね返ったメディシンボールをキャッチしたら、投げるときとは反対方向の回旋を加えながら、最初のポジションに戻ります。ボールがうまく跳ね返らなかった場合には、拾い上げて最初の構えに戻ります。
【セット数/レップ数】
左右とも5レップずつ、2セット。
ファーマーズウォーク
【期待できる効果】
体幹を鍛えるのと同時に、カロリーを燃焼させるメニューです。片腕だけにウエイトを加えたり、頭上でウエイトを支えたり、真横にウエイトを突き出したりと、さまざまなバリエーションで行うことで直立姿勢を保つ体幹に、さらなる負荷を加えられます。
【やり方】
- 左右の両手にダンベルを持ち、姿勢よく立ちます。大臀筋(だいでんきん)を引き締め、骨盤をニュートラルな状態に。腹筋には力を込めてください。
- 背筋をまっすぐ伸ばした姿勢でダンベルを持ったまま、前方へと歩きます。
【セット数/レップ数】
1回20~30秒ほどのウオーキングを3~4セット行います。セットごとに、ダンベルを置いて、ひと息入れると良いでしょう。
ハンギング・ニーレイズ(ハンギング・レッグレイズ)
【期待できる効果】
クランチの際に背骨を屈曲させる動きにも、体幹の力が関わっています。このハンギング・ニーレイズ(ハンギング・レッグレイズ)、あるいはより簡単にできるニータック、これらのエクササイズもまた、体幹を鍛えるのに適しているとサミュエル氏は言います。(スプリントや腿(もも)上げのように)脚を高く上げる下半身の動作によって体幹に働きかけることで、腹直筋も確実に強化されるのです。
体脂肪が減り、筋肉量が増えるに従い、脚をまっすぐ伸ばしたまま上げるようにしたり、爪先がバーにつくまでになれば究極のハンギング・レッグレイズが完成します。
【やり方】
- オーバーハンドグリップでバーを握り、ぶら下がります。両脚はまっすぐ下に垂らしましょう。
- 全身が揺れてしまわないように、両肩、腹筋、大臀筋(だいでんきん)を引き締めます。太腿(ふともも)と床が平行になるまで両膝を上げていきます。体幹に力を込めて、上体が丸くならないように意識しましょう。
- 引き上げた両脚を、コントロールを失わないように気をつけながら、元の位置に戻します。この動作を繰り返します。
【セット数/レップ数】
5~8レップを3セット
※ぜひ、メンズヘルス公式「X」@menshealthjp もお願いします。
【脚注】
*2:Instagram:Ebenezer Samuel, C.S.C.S.
*4:National Library of Medicine:Dietary protein for athletes: from requirements to optimum adaptation
Translation / Kazuki Kimura
edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です