2017年にボルボ・カーズ(以下ボルボ)は、将来的に発表するすべてのクルマの動力を電気モーターにすることを宣言しました。

 現在ボルボは、「2025年までに二酸化炭素の排出量を40%削減する」という電動化戦略を進めています。それに合わせて、同じく2025年までに「インターナル・コンバージョン・エンジン」から「総電動パワートレイン」へと全面的に移行し、営業収益の半分をEV(電気自動車)とする目標を掲げました。

 皆さんもご存知かもしれませんが、この公約の実現に向けて2019年10月、ボルボは同社初となる100%電気自動車であるピュアEVクロスオーバー「XC40 リチャージ(XC40 Recharge)」の発表を行っています。

 アウディ「E-Tron」やメルセデス・ベンツ「EQC」など、近年のSUV電気自動車の傾向に漏れず、ボルボ「XC40 リチャージ」のデザインもまた、ある意味で“トロイの木馬”のようなものとなりました。

 電気バッテリーによるプラットフォームへの移行を、クルマのデザインを一新する絶好のチャンスとすることも可能でした。ところが「XC40 リチャージ」に採用されたデザインは、従来の人気モデルを踏襲した…言うならば、“普通の”デザインに落ち着きました。ボルボのホーカン・サムエルソンCEOは、「これは、世界的な傾向を読んだ上での意図的な決定でした」と話します。

VOLVOのホーカン・サムエルソンCEO
Kevork Djansezian//Getty Images
ボルボのホーカン・サムエルソンCEO(写真は2017年撮影)。

 「ボルボは、すべての車種で電動パワートレインを提供する予定です。個別の電動プラットフォームに合わせて、複数のシステムを開発することはないでしょう」と、サムエルソンCEOは『Road & Track』誌のインタビューで語っています。

 「だからこそ、私たちは電動パワートレインを支えるCMAプラットフォーム(ボルボが開発したEV用プラットフォーム・ユニット)をゼロから構築したのです。そして、それこそが、コンパクトでパワフルな「XC40 リチャージ」をボルボ初の充電可能な電気自動車として世に送り出すことにした理由でもあるのです」

CMAプラットフォーム
VOLVO
「XC40 リチャージ」を支えるCMAプラットフォーム。

 この発言が意味することとはつまり、一見、ガソリンエンジン車のように見える「XC40 リチャージ」が一般公道を走るということになります。見た目こそ、1979年型のボルボ「265」の後継モデルのようです。が、運転席を覗けば、従来車とは全く異なった見た目のダッシュボードが目に飛び込んでくることでしょう。温度調節機能の付いたシートなんて、過去には存在しなかったのですから…。

 さらにもう一点、前時代式のワゴン車と異なる点があります。

 それは、「XC40 リチャージ」をはじめ、今後ボルボが発表するすべてのクルマに使用されるプラスチック部品は、環境問題に配慮して開発されたものだというのです。環境先進国スウェーデンを代表する企業による、二酸化炭素削減と環境負荷の低減に向けた本気の取り組みと言えるでしょう。

 「私たちが考える“環境負荷の低減”のゴールは、二酸化炭素排出量をゼロにすることです。つまり、これから先のボルボは、温室効果ガスの排出を可能な限りゼロに近づけていきます」

 そこで気になるのは、「具体的にはどのような取り組みをしていくのか?」、ということではないでしょうか? サムエルソンCEOは次のように説明します。

 「取引関係のあるサプライチェーンと、二酸化炭素排出量の削減に向けた共通理解の構築から取り組んでいきます。再生可能エネルギーを使用する割合を増やしていくことになるでしょう。クルマの製造工程においても、リサイクルされたプラスチック・アルミニウム・鉄などのサステナブルな素材を積極的に活用していきます」

 つまり、「XC40リチャージ」に装備されるスイッチパネルやグリルガードなどのプラスチック部品は、海やゴミ処理場などに廃棄されたプラスチックが再利用されることとなるのです。

XC 40 Recharge
VOLVO

 しかし、ここで1つの疑問にぶつかります…。

 果たして、このようなボルボの取り組みは一般のドライバーに受け入れられるのでしょうか? 世界中でガソリン車が走っている現在、人々は電気自動車の正しい価値を見出し、その費用対効果を受け入れ、電気自動車の実用性を認めるようになるのでしょうか…?

 サムエルソンCEOは、その点について疑いを抱いてはいません。

 どうやら、消費者を電気自動車へと誘うプランもあるようです。そしてそれは、「多くの人々になじみのある従来のガソリン車からの“決別”を強制するものではない」と言います。

 「顧客の求める製品を、ボルボが提供し続けることに変わりはありません。しかし、環境意識の高まりは、クルマ社会全体に大きな影響を及ぼすまでになっています。つまり、私たちの進むべき方向は極めて明確だと言えるでしょう」

 やや誇張した表現かもしれませんが、古代恐竜のような存在になりつつある燃料に慣れきった人々を、環境意識の高いエネルギー新時代へと導く…そのために、何をすべきなのでしょうか? ボルボが考えているのは、独自の巨大充電ネットワークの構築などではありません。同社が見据えているのは、それよりもさらに大きな青写真と言えるのかもしれません。それは…

 「充電環境の充実は、顧客にとって極めて大切です」と前置きした上で、サムエルソンCEOは次のように話します。

 「まず私たちが提供しようと考えているのは、ボルボのプラグインハイブリッドカーを運転することで得られるインセンティブです。具体的には、プラグインハイブリッドカーの新規顧客に対しては、1年分の消費電力の無料提供を行います」

 1年間の電力の無料提供というマスタープランの実行により、人々の意識改革を図ろうというのが、サムエルソンCEOのビジョンです。

 「環境保護という観点から見れば、電気自動車は非化石燃料によって充電される必要があります。しかしながら、現在のグリーンエネルギーの総量は、自動車が排出する温室効果ガスの問題を完璧に解決するには不十分であることは明白なのです。そう、足りないのです。だからこそ、再生可能エネルギーへのシフトを見据えた本物の投資にしか、人類に残された手段はありません。そして、それこそが私たちボルボが挑む『社会への問題提起』に他ならないのです」と。

 新たな顧客を獲得した後にさらなる変化を促すために、ボルボはどのような方向に踏み出そうとしているのでしょうか? もっと 具体的に…例えば行政や既存の制度に対して、どのようなアクションを起こそうとしていくのか…?

 ボルボの次なる動きには、今後、興味深く見守る必要があるでしょう。総合的かつ具体的なアプローチがないままでは、このボルボの野望もただの夢物語に過ぎなくなってしまうので…。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です