フォードはおそらく他のどの自動車メーカーよりも長い間、自社のクルマのリバイバルやリモデル(再構築)を繰り返してきたのではないでしょうか。有名なところでは、「サンダーバード」が挙げられます。度重なるモデルチェンジを経て、大成功を収めた初代と肩を並べるほどに復活を果たしたのは、11台目となる2002年のモデルだけでしたが…。

 あの「マスタング」も、例外ではありません。

 初代モデルだけで販売後に2度も手が加えられ、サイズとパワーが飛躍的に増大。徐々に当初のモデルから大きくかけ離れていきましたが、2005年にようやくレトロなリスタイリングで成功を収めるに至ります。また、フォードが誇る偉大なスポーツカーである「GT40」も同様と言えるでしょう。

dec 7 1985 ford auto bronco
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フロント2ドアのすっきりとしたデザインは、本格オフローダーではあるものの洗練さを感じさせます。

 そして…現在のフォードを語る上で外せないのが、新型「ブロンコ」であることに異論を挟む方は少ないでしょう。初代にあたる1966年型モデルは、最新「ブロンコ」のデザインソースとして、今再び注目を集めています。初代モデルは、販売当初にはコンパクトなSUVとして登場したものの、徐々にパワフルかつ大型化への道を進んだクルマでした。

 1978年に、より大型で販売も好調だったシボレー「K5ブレイザー」のようにリモデルされるまでは、控えめに言っても“販売的に大成功したクルマ”とは言えない存在でした。低調とも好調とも言えない曖昧な販売状況下、それでも「ブロンコ」のコンセプトに掛けるフォードの熱意は決して揺らぐことはありませんでした。

 と言うのもフォードにとって、小型車にトラックが持つ馬力やタフさを与えるという市場は、魅力的に映っていたからです。そして何より「ブロンコ」には、その市場において成長できる余地がまだまだ残されていると考えられていたのです…。

 そういった考え方を背景に持ち、フォードのピックアップトラック「レンジャー」をベースに、初代「ブロンコ」のDNAとも言うべき開発コンセプトに基づいて設計されたのが、小型SUVの「ブロンコ2」です。この2ドアオフローダーは、大型化する「ブロンコ」を補完する役割として、1984年に登場しました。

 「ブロンコ2」の根底にあったアイデアは、小型のファミリー向けSUVをつくることではなく、従来の4輪駆動トラックを小型化することでした。だからこそ、ピックアップトラックの「レンジャー」がベースとされたのです。そしてそのコンセプト自体は、健全なものと言えました。

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従来の4輪駆動トラックを小型化することを大切につくられただけに、タフな使用感は特徴のひとつです。

 ところが肝心のクルマ自体の危険性が指摘され、米国道路交通安全局(NHTSA)が調査に乗り出したことも…。また1989年には、『コンシューマーレポート』誌(独自の試験施設で消費財の比較検討調査を実施し、その対象物の本当のクオリティーを消費者の目線に立って評価するアメリカの伝統的な雑誌)において、「低速時の運転においても、転倒する危険性がある」として「購入を回避すべき」という評価が下されてしまいます。

 実際に1986年から1990年にかけて、後輪駆動の「ブロンコ2」の横転に関連した死亡率は1万台あたり平均3.78人を記録しています。ちなみに4輪駆動の「ブロンコ2」の死亡率に関しては1万台あたり平均1.74人、当時のスズキの「サムライ(日本名:ジムニー)」の数値と比べるといいでしょう…、その数値は同じ1万台あたり平均1.11人という結果でした。

denver, co, june 26, 2006   duane collins of denver's 1969 ford bronco fliped by an accident at the corner of broadway and dakota ave in denver on monday denver post photo by hyoung chang
Hyoung Chang//Getty Images
横転の危険性をはじめ「ブロンコ2」は安全面の論争が起こり、米国道路交通安全局(NHTSA)が調査に乗り出したこともありました。

 安全性に対する疑念と、セールスポイントを新たな顧客に十分アピールできなかったことが大きな足かせとなり、「ブロンコ2」は初代「ブロンコ」同様に大ヒットとはなりませんでした。

 皮肉なことにフォードが「ブロンコ2」で思い描いていた顧客市場は、競合車であるジープ「チェロキー」によって完全に確立されてしまうのです。そして、その「チェロキー」の成功例をなぞるかのように、「ブロンコ2」の後継モデルという位置つけで登場したのが「エクスプローラー」となります。

 ワゴン、ミニバン、SUV、そしてクロスオーバーの時代を経て、サイズと実用性を両立した妥協のないファミリーカーへの需要は、全く衰えることはありませんでした。初代「ブロンコ」と「ブロンコ2」においてフォードは、市場には潜在的に需要があることをいち早く察知していたのは確かです。ですが、どちらの時点においても、フォードのクルマは市場を自分たちに振り向かせるには不十分な出来映えたったのです…その販売実績によって、そう言わざるを得ないでしょう…。

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 ところが今回の新型「ブロンコ」は、これまでのところ発表以来大きな成功を収めているように見えます。これは全く新しいクルマをつくるのではなく、アイコニックな名前を冠した点が功を奏したカタチとなっていると言えるでしょう。ですが、まだまだフォードが確実な成功を収めている…とは断言できません。

 それにはまず、新型「ブロンコ スポーツ」はコンパクトクロスオーバー市場において「本格的なオフローダーであることの価値を証明する必要」があります。また一方で新型「ブロンコ」のほうは、従来の「ブロンコ」ができなかったこと…つまり、ジープ「ラングラー」が長い間独占してきたその市場に、新たな「ブロンコ」が入り込める予地が残されていたことを証明する販売実績数が必要となるわけです。

Source / Road & Track
Translate / Esquire JP
この翻訳は抄訳です