2023年型として登場するマツダ「CX-50」の魅力をひと言で表すとすれば、「引き算の美学」ということになるかもしれません。

他のクルマがこれでもかと競い合うグラフィック・インターフェースや大型のスクリーン、複雑極まりないメニュー画面やサブメニュー画面、多重構造のハプティクス・フィードバック(触覚フィードバック)などには目もくれず、マツダは旧来通りのインテリアであることにこだわろうとしているかのようです。

計器類はいかにも計器類らしく、操作系はシンプルに…。そして、ドライバーの注意が運転から逸れぬようにデザインされたディスプレイ。そう、マツダにとって重要なのは“運転する”という行為そのものでしかないのです。

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メカニカルな機能もまた、伝統をしっかり踏襲しながら設計されています。昔ながらの12Vのバッテリーが積まれていますが、4気筒の内燃機関(エンジン)を始動させるという基本的な役割を担っているに過ぎません。

この新型クロスオーバーの魅力として、ハンドリング性能についても触れておくべきでしょう。

マツダと言えば、2013年型を皮切りにコンパクト・クロスオーバー市場に「CX-5」を投入した実績があり、今回私たちが目にしているのはその第2世代ということになります。ですが「CX-50」は、「CX-5」の代役ではありませんし、「この新世代が10倍優れている」という話でもありません。

マツダはなぜ、これほどまでに似通った仕様の、しかも、同じような名を持つ2台のクルマを市場に送り込む必要があったのでしょうか? マーケティングの観点からも実に謎めいています。

「CX-5」と「CX-50」との大きな違いを考える上で、その生産拠点にヒントが隠されているのかもしれません。「CX-5」はマツダ本来の拠点である広島の工場で生産されていますが、「CX-50」はアラバマ州ハンツビルにあるマツダ・トヨタ・マニュファクチャリングUSAの最新の工場で生産されています。

新工場ではトヨタの「カローラクロス」もつくられていますが、「CX-50」との関連性があるというわけではありません。「塗装など一部の工程は共通しているものの、共用部品などは一切ありません」とマツダも断言しています。

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「CX-50」は、あらゆる面で「CX-5」よりも大型化されています。全長は185.8インチ(4720mm)と「CX-5」より5.7インチ(145mm)ほど長く、ホイールベースも「CX-50」は110.8インチ(2815mm)と4.6インチ(115mm)長くなっています。

サイズの面で最も大きく異なるのは、その全幅です。

アメリカ製の「CX-50」は北米で採用されている常衡(※編集注:ヤード・ポンド法における質量の単位の系統の中で最も一般的に使われている単位系)に則して設計されていて、ミラーを格納した状態で全幅は75.6インチ(1920ミリ)。これは、「CX-5」と比べて3インチ(約75ミリ)も大きな数字です。幅広のグリルと平らなボディであるため、実寸よりさらにワイドな印象を与えます。

幅広のボディの下に隠れているのは、「CX-3」やカリフォルニア州でのみ販売されている新型EV「MX-30」でも採用されているサスペンションの基本構造そのままに、この新型クロスオーバーのサイズに合わせて調整されたサスペンションです。既存のバリエーションを考慮すれば、将来的にハイブリッドやEVのバリエーションまでもが視野に入っていても不思議ではありません。

いずれにせよ、それらは未来の話に過ぎません。「CX-50」に用意されているのは2種類の4気筒エンジンであり、そのいずれかに4輪駆動を操る6速オートマチックトランスミッションが搭載されることがわかっています。

標準となるのは、“SKYACTIV-G 2.5”の2.5リッター自然吸気エンジンです。最高出力187馬力というのは「CX-5」とほぼ同等です。アップグレード版として、ツインストローク・ターボチャージャー搭載の227馬力のパワーを備えた2.5リッターエンジンが用意されることもわかっています。

スバル「レガシィ アウトバック」が
競合としてのターゲットか?

 
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マツダが「CX-50」で念頭に置いているのは、スバル「レガシィ アウトバック」ではないでしょうか? 全長191.3インチ(約4859ミリ)と車長に勝る「アウトバック」ですが、ホイールベースは2.7インチ(約69ミリ)ほど「CX-50」より短くデザインされています。

2台とも地上高(マツダは8.6インチ[約218ミリ]とスバルより若干高め)、アプローチアングル(マツダが18度、スバルが18.6度)共に余裕を持った設計で、思わず自慢したくなるという点では勝るとも劣りません。車内の装備や全輪駆動がスタンダードである点もよく似ています。

「レガシィ アウトバック」の2.4リッター水平対向4気筒ターボチャージャーのパワーは260馬力で、トルク2000rpmで277 lb-ftという実力です。つまり、馬力で劣るマツダですが、トルクではスバルに勝っています。この数字から推し量るに、ターボ仕様の「CX-50」は6秒台でゼロヨンを駆け抜ける実力を持っていますが、「レガシィ アウトバック」とは鼻差の競り合いとなることが予想されます。

北米では「レガシィ アウトバック」の上位モデルとして、「アウトバック・ウィルダネス」というモデルがすでに存在しています。これに対してマツダも同じく、オフロードおよびアドベンチャースタイルを強調した「CX-50 メリディアンエディション」の登場も控えています。

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プレス向けの発表会に登場した「CX-50」には、2.5リッター・ターボプレミアムプラスが搭載されいます。販売価格は1225ドル(約15万4000円)の輸送費込みで、42775ドル(約538万6000円)と設定されていました。

20インチのホイールに245/45R20のツーリングタイヤを履いていますが、そのハンドリングの良さは脱帽してしまうクオリティです。その陰の立役者として見過ごせないのが、デイヴ・コールマン氏の存在です。

コールマン氏は元モータージャーナリストであり、ラリードライバーでもあります。あの「レモン24時間レース(編集注:ルマン24時間レースをもじったアメリカ国内の人気レースのこと)」に出場したこともある人物です。全米屈指のエリート校として知られるハービー・マッド大学を卒業した本物のエンジニアとしての顔も持ち、現在はマツダのビークルダイナミクス部門のマネージャーを務めています。つまりこの「CX-50」は、そのコールマン氏の手によって生み出された1台とも言えるのです。

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やや大人しいタイヤを履いているにも関わらず、公道での「CX-50」のステアリングの反応は見事のひと言。全輪駆動システムがコーナーをしっかりと捕えます。よほど愚かな真似でもしない限り、挙動を乱すことさえ困難です。

もちろん、「あらゆるクロスオーバーの中で最高のハンドリング性能である」などと言うつもりはありません。個人的にはその頂点に立つのは、価格差のあるポルシェ「カイエン・ターボGT」ということになるかもしれません。ですが、この手頃な価格のマシンがあのポルシェの怪物を思わせるに十分な走りを見せるという事実こそが、驚異と呼ぶべきものなのです。

この「CX-50」に本物のタイヤを履かせれば、ポルシェと良い勝負を演じる可能性も期待できます。ひょっとしたら、「マカンGTS」と競わせても面白いかもしれません。もしくは、今をときめくアウディのクロスオーバーが相手ではいかがでしょう?

この分野において、「CX-50」が
マツダに天下をもたらす可能性も!?

 
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「CX-50」のサスペンションですが、フロントがストラット式、バックがトーションビーム式とシンプルです。ですが、驚くべき性能を発揮しますし、スポーティな走行やオフロード走行に対応したモードも用意されています。

ですが、トランスミッションには少々改善の余地があるかもしれません。ギアが不足しているという話ではありませんが、どう考えても2速が妥当というコーナーでは手動でシフトダウンしなければならず、それが少し面倒でした。プログラミングの調整は、それほど難しくないはずです。

そして、試乗してみた結論を。「Road & Track」編集部としては、マツダにクレームを入れるべき点は見出すことができませんでした。ですが、トランスミッションをさらに追求すれば、この最高レベルのハンドリング性能を持つクロスオーバーの満足度がさらに高まることは間違いないでしょう。だからこそ、「CX-50 メリディアンエディション」が登場するのだと理解します。

しかしその先、マツダ「CX-50」はどこを目指してゆくのでしょうか? 高性能のコンパクトクロスオーバーは、確かにニッチな市場かもしれません。ですが「CX-50」なら、マツダに天下をもたらすかもしれません。

Apple CarPlayとAndroid Autoも搭載されています。インフォテインメントの操作が面倒という人のための、タッチスクリーンのオプションも用意されています。そもそも「インフォテインメント」などという言葉に不慣れな人々のためにあるのが、マツダのクルマづくりです。

「CX-50」は、気晴らしに乗るクルマというわけではありません。ですが、“一体感を味わえる1台”であることは間違いありません。そしてそれこそが、どこまでも追求すべき価値に他ならないのではないでしょうか。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。